第2話

 あれから一ヶ月以上経った。特に変化はなし。

 ステータスが覗けるという人間がちらほらとテレビに出ていたが、その全員がただの嘘つきだった。


 総合値はそこそこ当てていたが、個別の項目となるとほぼほぼ全て外していた。


「ステータスが覗けることをひけらかして、なんの得になるというのか」

「人と違うってなんかいいじゃんっ」

「全くわからんな」


 世界は特に変わらなかったが、俺たちの中で一つだけ変わったことがある。


「やっぱり、いないね」

「声がでかいぞ」


 カズアの要望で、様々な格闘技のジムを回り始めた。今日はボクシングのジムに来ている。


 いまだにステータスについてわかっていることはほとんどない。

 せっかく見れるんだから、何か規則性を見つけたいとのこと。


「なんか、デートみたいだね!」

「何がだ?」


 最近カズアは妙に機嫌がいいが、理由はわからない。

 まぁ、カズアの言うようにジムとは言えど、総合値で俺たち二人を越す人物はいなかった。

 ただ、確かに武力や俊敏は高い。しかし、それ以外は今まで見てきた人間とさほど変わらない。


「次に行くか」

「うん! いこっ! あ、でももうすぐお昼ご飯の時間だよね! どこかで食べようよ!」


 全員のステータスを確認したので、次に行こうとしていると、


「君たち、ボクシングに興味あるの?」


 と、後ろから声がかけられた。

 別に興味はない。ただのステータス解明のための情報収集だ。


「えーと、はい! かっこいいなーって思ってます!」


 お接待モード、か。


 あからさまに相手の男も嬉しそうにしている。まぁ、ここは男しかいないしな。そこに一輪の花が現れたんだ。鼻を伸ばすくらい、バチも当たらんだろう。


「そこのお兄ちゃんも? やってみる? 今ちょうど、ここで一番の人がいるから、お試しにどう?」

「は?」

「もう! ヨウくん! そんな言い方したらダメでしょ! やってみたらいいじゃん? 案外楽しいかも! 私のヨウくんが戦うところ見てみたいな」


 特に断る理由もなかったので……



 ************



「うんうん!! かっこいいよ! 様になってる!」

「あぁ、」


 今の俺は、ヘッドギアに、その他色々クッションを付けられている。

 こんなダサい格好を褒められても、素直に喜んでいいのかはわからない。


「よろしくね」

「はい」


 身長は俺より10センチほど高い。さっき聞いた話だが、世界大会にも出場する実力者らしい。一回戦勝つか負けるか程度だが、そこらの一般人よりも圧倒的に強いことには変わりない。


 ステータスでも覗いとくか。


 ーーーーーーーーーー


 総合値:30


 武力:11

 耐久:8

 ??:3

 俊敏:7

 運 :1

 ーーーーーーーーーー


 そこそこといった感じだ。世界大会にでる人間でもこの程度なのか、といった印象である。


 無様は晒したくないしな。そこそこ戦える程度にステータスを振っておこう。


 ーーーーーーーーーー


 総合値:190


 武力:10

 耐久:50

 ??:50

 俊敏:30

 運 :50


 潜在:99835

 ーーーーーーーーーー


 うむ。このくらいだろう。あまりあげすぎても何か弊害が起こるかもしれないしな。


「初め!!」


 ゴングが鳴り、拳を打ち合わせると、相手もステップを踏み始めた。


「がんばれー!!」


「彼女かい?」

「いえ」


 俺が返事をすると同時に、軽いジャブをかましてきた。


「おお、今のを避けるか。しかもその酷い構えで。何かやってたの?」


 こいつ……。姑息な真似をしやがって。


「ほら!」

「うわっ!」


 初心者に放つパンチとは思えないほど素早いパンチが、俺に迫る。

 咄嗟に身をひいたので直撃はしなかったものの、大きくバランスを崩し、転倒。

 そのまま相手を見上げる形となった。


「はい立って立って」

「くそが……」


 あからさまに俺を潰そうとしている。恥をかかせようというつもりらしいな。


「ヨウくんがんばれー!! あとクソがとか言っちゃダメだよ!」


 うるさいな。

 手をつき、立ち上がる。初心者に打つようなパンチではないにもかかわらず、周りは一切注意もしない。


 はぁ。


 さて、


「これはボクシングですよね」

「あぁ、そうさ」

「変な真似したこと、後悔しろ」


 俺の言葉を鼻で笑い、口角を吊り上げやがった。

 こいつは絶対潰す。


 ーーーーーーーーーー

 総合値:490


 武力:10+100

 耐久:50+100

 ??:50

 俊敏:30+100

 運 :50


 潜在:99535

 ーーーーーーーーーー


 こんなもんか。おそらく経験や技術はステータスには出ない。俺がいい感じにするには、このくらいが適切なはずだ。

 初めの合図があり、また相手がステップを踏む。


「しゅっ!」


 相手の右ストレート。先ほどとは比べ物にならないほど、


「おそい」


 息遣いからわかるように、先ほどとは気合いの入り方が違う。だが、攻撃モーションに入った瞬間、時間の流れがガクンと落ち、拳はそのまま空を切った。


「しゅっ!」


 空を切ったその腕をそのまま次の攻撃につなげてきた。あの体制からすぐに攻撃に入れるところはさすがプロと言ったところか。


 だが、これも遅い。


 全くの未経験者である俺が、難なく避けることができるほど遅い。


「お、おい……あいつ、明らかに本気じゃねえか。しかも、そのパンチを避けるとか、普通じゃねえ……お嬢ちゃん! あの子、何かやってるのか!?」

「え? いや、やってないはずですけど……ヨウくんがんばれー!!」

「はぁ?!?」


 その後も攻撃を避け続ける。


「ヨウくんすごい! 速い!」

「お嬢ちゃん、あれはすごいとか速いとか、そういう次元じゃないんだよ……よく見てみろ。避ける動作がどんどん小さくなっていってやがる。避ける速度が世界レベルのパンチを上回るとかありえねえ! ありえねえことが起こっていやがる……。あいつが一発も当てられねえなんて……」


 俊敏を上げれば、同時に動体視力も上がるらしい。1000を超えたあたりから、もう攻撃モーションが止まって見えるようになってしまった。


「はぁ、はぁ……」

「この程度が世界レベルか」

「手加減してやってたが……もう、手加減しねえぞ。殺してやる」


 相手が攻撃モーションに入り、動きが止まる。

 さすがに10センチのリーチの差は大きいため、俺が攻撃するなら懐に入り込まなければいけなかった。


 そして、それが今はできる。

 頭はやめておくか。脇腹に軽く打ち込んでおいてやろう。


 そこからは、自然と体が動いた。


 一歩前に踏み出し、まずは右。そして左。そこで止めようと思ったが、ムカついたのでもう一発右をお見舞いしてやった。


 視界が普通の速度に戻ると、相手は糸を切ったマリオネットのように真下に崩れた。


 いわゆる、K.Oというやつだ。


「イェイ」

「ヨウくんすごーい!!」


 リングから降りる俺をカズアが出迎え、俺をリングに誘った男は血相を変えて入れ替わった。


「だいじょうぶ……、おいおいおい、嘘だろ!? おい! 救急車よべ! 救急車!! 意識がねえ!! それに、完全に骨逝っちまってるよ!」


 おっと……?


「大丈夫かな……?」

「雲行きが怪しくなってきたな」


 まずいな。非常にまずいことになってしまった。

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