異世界は俺を辱める

世末

第1話  異世界人、来たる

「皆の者、勇者様に敬礼!!」

「ハッ!!」


 強烈な閃光と共に俺の耳に届いたのは、若い女性騎士の勇ましい声だった。フルフェイスのため顔の美醜は分からない。磨き抜かれた光沢のあるヘルメット越しから発せられたのは澄んだアルト質の声だ。その集団は号令に合わせ統率の取れた動きで各々の格好の礼儀に倣った方法で礼をした。十数人程の一団を見渡すと年齢層も性別もまちまちだが、ローブや鎧とRPG的に言えば騎士と魔法使いといった所だろうか。


 テレビに映る彼女ら見たなら良く出来た映画だと思っただろうし、外で出会ったなら外人の集団コスプレ撮影会の群れに迷い込んだと考えただろう。───ただし、風呂上がりの俺が肩からバスタオルを掛けた程度の裸で過ごしていたのでさえなければと注釈は入れねばなるまい。


「ふあ、っ…ええ……!!」

「英雄、色を好むとは言いますし…裸である事は此方では一般的な作法かもしれませんな」


 俺の格好に文句があるらしい女騎士と嗜める口調で理解を示す老紳士といった風貌の男。執事服を着ていればセバスチャンとでも呼びたい所だが、司祭服ブラザーだろうか。

彼らが外人めいた風貌である事とコスプレにしては真に迫った服装である以外は年齢は見ただけでとんと分からない。それでも、何となくではあるがアルトの女騎士は極端な反応からして女の方は年端も行かない小娘に違いない。中学になる妹の反応によく似ていた。顔が隠されて、表情や目線の動きこそ伺えないが、恐らく注視しているのは俺の股間だろう。狼狽し、意味のない言葉を繰り返し始める女騎士を制して、先程口を開いた司祭服が前に出た。


「突然の訪問に驚いたかと思います。言葉は通じておりますでしょうか」

「ええ、まあ…」


 ローブは多少の訛りもなく、母国語は日本語であるとしか思えないような淀みない口調だった。俺は落ち着かないので股間にタオルを巻き付けて急所を簡単に隠しておく。これだけで自分が妙に真人間になったような気分になるから不思議なものである。

とは言え、俺はタオルとスマホを片手に持っている意外は文字通りの丸腰だ。いざ、何か相手の気分を害し「えいや!」の掛け声と共にぶすりとでも刺されたり斬られでもしたら即お陀仏である。


 此処は俺が借りている六畳一間の賃貸アパートの一室。大学入学と共に契約し、暮らし始めて一年。賃貸だとしても我が城テリトリーである。見慣れた部屋は人ですし詰め状態だ。俺の日常は、動画サイトに視線を落としていた一瞬の内に非日常へと変貌を遂げてしまったようだ。

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異世界は俺を辱める 世末 @shiira

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