小悪魔に振り回されたい……

紫恋 咲

第1話  小悪魔さん

マンションの最上階にあるペントハウスが俺の住まいだ。

父は優秀な起業家だったが、家庭は持たなかった。

母は小悪魔的な女性だったらしい、飲んだ勢いで関係を持って俺が産まれた。

DNA鑑定で証明されたので、認知された。

たった一人の身内なので大切にされた。

しかし父は俺が高校生になると、開発してた金山の事故で亡くなってしまった。

俺は巨額の遺産相続をした、このペントハウスもその一部だ。

俺の名は佐伯一颯さえきいっさ17歳の高校生だ。

俺は働かなくても一生暮らせるだろう、しかしそう思うと何処か退屈な日々が待っている様な気がした。


ある日ルーフバルコニーで本を読んでいた。

心地良い風が吹き、うたた寝していた。

突然横にある小さいプールに何か落ちてきた。

俺は水しぶきを浴びて飛び起きた。

「何???」見ると巨大なコウモリがプールに浮いている。

「うわっ!キモ!!!」

そのコウモリは生きているようだ。

「プハー!!!プールで助かった」

どうやらコスプレした女の子みたいだ。

今日は11月1日だ、泳ぐには寒過ぎるし、ハロウインは昨日だ。

「……何してるの?」恐る恐る聞いてみた。

「落っこちてきたんだよ!」少し頬をふくらした。

「えっ??どこから???ここは最上階なんだけど」見上げたら綺麗な青空で雲がぽつりぽつりと浮かんでる。

「天界からだよ、天使の奴背後から突然攻撃してきやがった、いててて……」

「えっ???」

「だから私は小悪魔なの、天使に攻撃されて、翼を痛めて落ちちゃったのよ」ふてくされた。

「小悪魔???小悪魔は人間の女の子の事だよね???」

「じゃあ言うけど、神の周りにいるのは天使よね?悪魔の周りにいる私達は何て呼ぶわけ?」さらにふてくされた。

「…………小悪魔でいいと思います」思い付かないのでそう答えた。

「ほらね、何も言えないだろう、人間社会の偏見がそこにあるのよ」

「じゃあその格好はコスプレじゃ無いんですね」

「これは私達の戦闘服よ」

「そうなんだ…………」

「とりあえず一週間程かくまってくれない?」

「えっ……一週間程ですか?」

「そうだよ」

「何か面倒になったりしますか?」

「多分大丈夫だと思うよ」

「それならいいですけど……」

「それなりのお礼はするからさ」笑った。


部屋に案内すると、周りを見渡した。

「いいとこ住んでんじゃん」

「まあ……」

「とりあえずお腹すいたな」

「小悪魔さんもお腹空くんですか?」

「人間界に来ると何故かお腹空くんだよね」

「ピザでも頼みましょうか?」

「いいねえ、サラミ多めで」

「えっ???ピザの内容がわかるんですか?」

「地獄と同じならね」

「えっ???地獄にもピザの宅配があるんですか?」

「あるけど何か?」

「地獄って……怖いとこですよね???」

「それは古代ギリシャほど古い話だよ」

「古代ギリシャ???」

「だから今の地獄はサービスが充実した巨大テーマパークみたいなものよ」

「テーマパーク???」

「痛みや苦しみは自分で好きなように設定できるし、泊まるところは全て血の海が見えるオーシャンビューだしね」

「お客は何処から来るんですか」

「天国から団体ツアーが来るんだよ」

「えっ?なんで天国から来るんですか、みんな天国に行きたくて行ったんでしょう?」

「考えても見なよ、天国では苦労や危険も無く毎日お花畑でピクニック状態だよ、死ぬことも無く…………しばらくすると退屈になるわけ、だからサービスの充実した地獄ツアーが人気なんだよ」

「そうなんですか」

「私は違法に地獄に入る人を取り締まって、天国との境界線をパトロールしてたんだけど、天使の奴に攻撃されたのよ」

「…………」

『ピンポーン』

「おっ、もう来たみたいだな」

彼女?小悪魔さんは直ぐにパクついた。

「美味いなあ、ビールある?」

「いえ、コーラならありますけど」

「仕方ないなあ、それでいいよ」

俺は冷蔵庫からコーラを出した。

「見た目は未成年に見えますけど………」

「そう?、人間の年で言うと1200歳だけどね」笑った。

「…………」

「お風呂に入りたいけど」

「はい、こちらです」案内した。

彼女は戦闘服らしき衣装を脱いだが、コウモリの翼のような物は残っている。

「その翼らしきものは体の一部なんですね」

「ああ、この尻尾もね」彼女は細い矢印の様な尻尾を見せて笑った。

「少年、一緒に入るか?」

「いえ……結構です」

「じゃあなんか服を持ってきてよ」

「女性用は何も無いですけど……」

「Tシャツとかでいいよ」

「はい……」

Tシャツを着た小悪魔さんはとても可愛かった、さすが小悪魔。


一週間程経つと回復したらしく帰る準備を始めた。

「お礼に何か願い事があったら言いなよ、ただヨコシマな奴しか叶えられないけど」

「そこはポリシーがあるんですね」

「一応規則だから」

「………じゃあHしたいです」

「やっぱりね、いいよ、おいで」ベッドまで引きずられた。

「あああああああ………うっ……」

「じゃあ元気でね」小悪魔さんは地獄へ帰って行った。

「俺は口をポカーンと開けて見送った」


2ヶ月ほど経つとクラスに小悪魔さんそっくりな女の子が転校してきた。

俺の横の席が空いていたので座った。

「よっ、元気だった?」

「はい……どうしたんですか?」

「妊娠した」

「えええええ〜……たったあの一回でですか?」

「回数は問題じゃ無いよねえ?」

「はい」自分のことを考えて頷いた。


クラスの男たちは皆彼女の魅力に振り回された。

彼女が上目遣いで見ると、みんな男は魂を奪われたようになった、さすが小悪魔。

しばらくするとお腹が目立つ様になった。

彼女は俺のペントハウスで出産の準備を始めた。

やがて可愛い女の子が産まれた。

『亞衣乃』《あいの》と名付けた。

自分の子供となると、とても可愛い。

さすが小悪魔の娘だ。


それから二人に思い切り振り回された。

欲しがる物は何でも買い与えた。

食事に旅行と贅沢三昧の日々が続いた。

小悪魔さんは少しふっくらとして、妖艶になった。

俺はますます小悪魔さんの虜になった。


やがて12年が経った。

不摂生を続けた小悪魔さんは太めのワガママおばさんになった。

しかし娘は超可愛くなった。

12歳になったある日、身体中が痛み出して娘は激しくのたうちまわった。

「どうしよう、救急車を呼ぼうか」

太った小悪魔さんはボーッと見ているだけだ。

突然立ち上がった娘は「うを〜!!!!」声を上げた。

すると背中から翼が現れ、お尻からしっぽが生えてきた。

「いや〜長かったわ」体をほぐしている。

「えっ???どう言うこと?」

「じゃあ私は帰るからそのおばさんをよろしく、ちなみに二人の寿命は後70年程あるからね」微笑んだ。

そう言い残して娘が変身した小悪魔さんは地獄へ帰って行った。

「悪魔め!いや小悪魔め!」


残されたおばさんはお尻をポリポリかきながら「あんた、お煎餅買ってきて!」テレビを見ながら言った。

コンビニへ行くと深夜のアルバイト募集が出ていた。

俺は安いアパートに引っ越して、アルバイトをしようと思い履歴書を買った。

俺はやっと現実に戻った様な気がして少しホッとしている。

そしてまた地獄で恋人であり娘でもある小悪魔さんに再会する事を楽しみに、この後の人生を堅実に生きようと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

小悪魔に振り回されたい…… 紫恋 咲 @siren_saki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ