第18話 反転⑤
だからこの人にしようと思った。
闘牛まがいの頭突きをかまされて、二人で保健室に駆け込む。
恐る恐る触れた自分の額が、昔に図鑑で見た魚みたいに膨れ上がっていて、さすがに背筋が凍る。凄まじい威力だった。鏡を見るのが恐ろしい。
「ん」
せめてもの反抗として不愛想に額を見せつけると、呆れたように金森さんが氷嚢を当ててくる。
うん。素直でよろしい。
できればこの後のお願いにも、素直に頷いてくれたら嬉しいな。
もちろん、彼女が首を横に振ったって、俺の意思はとうに決まっているのだけど。
ソファーに置かれた金森さんの手に、自分のそれを静かに重ねた。
できるだけ愛嬌たっぷりに、彼女の機嫌を窺うように、その黒い瞳を覗き込む。
「ねえ金森さん。俺たち付き合おっか」
なのに彼女はぎゅっと眉根を寄せて、砂を噛んだみたいな顔で「付き合うっていうのは、どこに」などと嘯いてみせる。
そういう小ボケマジでいらない。
まったく、どこまでも残念な人だ。今までに触れ合ってきた女の子たちとはいちいち反応が異なるからやりにくい。
けれどそんな不便さが、かえって都合がいいのも事実だ。
当然、俺に金森さんとまっとうな恋愛をしようなんてつもりはない。
落ち着いてきたとはいえ、未だに俺に好意を寄せてくる女子が存在することも事実。いちいち構ってやるのも、余計な噂に巻き込まれるのも、まっぴら御免だ。
だから金森さんを利用しようと思った。
俺にまったく好意を抱かないくせに、驚くほどお人よしな彼女なら、程よい距離感で俺を守る風よけになってくれる。
彼女が俺を受け入れるかはこの際問題じゃない。俺と彼女なら圧倒的に俺の持つ影響力の方が絶大だ。どちらの言い分が信用に値するかなんて、考えるまでもない。
この人の隣でなら、俺は安らかな日々を手に入れることができる。
だから俺は、君のことが好きだよ。
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