月は、こうして地球の衛星になった。本当?

@ramia294

第1話

 その昔。もっと、もっと昔。はるかな昔。


 月には、クレーターなんてありませんでした。とてもつるつるした表面は、赤ちゃんの肌の様に美しく、太陽の光を反射して光り輝いていました。


 その頃の月は、太陽系の惑星のひとつでした。


 他の全ての惑星は、小さくて可愛い月を自分の衛星にしたいと、狙っていました。


 月は、誰かの衛星になるなんて、とんでもない、独り身がいちばん気楽でいいのよと思っていました。


 ある時、大きな彗星が月の傍を通りました。


「やあ、とても美しいお嬢さん。オイラは、旅の者で、ハレーといいます。よければ旅の話をお聞かせしましょう」


 ハレーは、太陽系の外側付近は、太陽系を追放された悪い星々が、暗黒組織を作っていて、いつか太陽に復讐しようと虎視眈々と狙っていて、自身は、太陽の使者として暗黒組織と戦っているとか。

 とても大きな木星には、実は星の表面全てがお花畑になっていて、旅の疲れを癒すために、いつも一年ほど、泊まっていくとか。

 土星の輪は、自分が、旅の途中でコツコツと集めた物をプレゼントしたのだとか、口からでまかせを語って聴かせました。


 月は、まだまだウブな星だったので、すっかりハレーの言う事を信用して、ハレーに恋をしてしまいました。


 推定二億歳、少し早めの初恋です。


「お嬢さん。帰り道にまた近くを通りますよ。よければオイラと一緒に旅をしましょう」


「はい。是非ご一緒させてください」

 

 ハレーは、月から離れて行きました。


 月は、それからずっとハレーが去った方を見てため息ばかりつきました。初めての気持ちに、戸惑い、迷い、胸が熱くなりました。

 星なので、胸が熱くなると噴火してしまいました。


 すると溶岩の流れた部分は、黒くなり、今までの様に、星全体が、光輝く存在ではなくなりました。


 その頃、その宙域には、流星群が頻繁に訪れていたので、月は、たびたび隕石衝突の被害を受けました。


 いつの間にか月の表面は、デコボコになってしまいました。


「こんなの若さで何とかなるわ」


 月は、そう言いましたが、何ともなりませんでした。


 ハレー彗星が戻って来ました。月の姿を見てギョッとしたハレーは、そのまま通ります過ぎようとしました。


「待ってハレー、私よ。一緒に旅をしようと言っていた月よ」


「お嬢さん。確かにあなたは、昔愛した星に

似ている。しかし、オイラが愛した星とは、少し違っているような。仮にお嬢さんが、あの星でも、所詮オイラは、流れ者。旅から旅への風来坊です。お嬢さんは、オイラには、少しまぶし過ぎるようです。オイラには、遠くからお嬢さんの幸せを祈る事が、精一杯です」


 あまり、意味の無いことを口からでまかせに言うと、逃げる様に行ってしまいました。


 残された月は、悲しくて涙が止まらず、周囲がチカチカ見えます。


 よく見ると、涙のせいではなくて、凄い数の流星群です。まともに雨あられの様に月に向かって来ますが、何故か月には、当たりません。


 振り返ると、青い星が、月をかばって、流星群と月の間に立ちはだかっていました。


「どうして?自分も流星雨の被害を受けるでしょう」


「大丈夫です。僕には大気があって、流星は、途中で燃え尽きます」


『あら、素適』


 月は、惚れっぽい性格でした。


「私の衛星に、なって下さい」


 地球は、どさくさに紛れて申し込みました。


「喜んで」


 月は、答えました。


 月は、こうして地球の衛星になりました。


 惚れっぽい月は、時々別の惑星に目移りしますが、そんな時たいてい彗星が、近づきます。

 たとえハレー彗星でなくても、あの時の自分の悲しさと地球の優しさを思い出し、この先も地球と一緒にいようと思うのでした。


           終わり。










 







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