第9話 「いつまでも絶える事無く」

 朝起きると眩しい陽ざしが降り注いでいた。外に出て空気を吸う。涼し気な澄んだ空気に気持ちも浄化されるようだ。


 玄関前の大きな木を眺めながら内省する。昨日あそこに行くと何があったのだろう。


 20歳の若者が小学5年生と何を話せばいいんだかな。わかんないな、やっぱり。

 僕は頭を掻いた。


 キャンプは、午前中に、探検謎解きゲームなるものをして昼ごはんを食べてから僕らは帰途につく流れだった。


 僕は5年生の伊藤舞ちゃんのところにこっそりと駆け寄った。


 「ちょっと伊藤さんいい?」

 少しみんなと離れて話をした。


 「昨日、本当ごめんね。行けなくて。僕も正直は、どうしたらいいかわからなくて。」


 「ニコッ」

 伊藤さんは笑った。


 「はい。」


 「あ。」


 「話してくれたから嬉しいです。」


 「僕ね、嬉しかったよ。」


 「ありがとうございました。」


 彼女は、ササッと駆けて行った。先には高学年の集団が居た。


 取り敢えず謝れたから良かった。何だったんだろ。なんとなくの恋心なのかな。好奇心か。僕は考えてみたら、最初で最後の貰ったラブレターであった。書く側は、その後も一杯、経験するとは知らないのである。





 バスが聖蹟桜ヶ丘駅に着いた。

いよいよ、別れの時だ。


 5人のメンバーの顔を一人ひとり見る。


 タオちゃん

 「おい。先生、元気でなあ!」

いきなりタックルしてきた。

 「コラ。タオちゃんは、少しわがまますぎるぞ。」

 「そっかなあ。」

 「少しね。でもな、タオちゃんは、いいとこは一杯あるから、大丈夫だよ。」

 「そうなの?」

 「そうだよ、もちろん。」



 山田君

 「ありがとうございました。お世話になりました。」

 「こちらこそ。気をつけてかえるんだよ。」

 「はい!」


 菊池君

 「リーダー、じゃあな。」


 「おう、あんま乱暴するなよ、翔太。」

 「しねえよ。俺、優しいから。」

 「知ってるよ。」



 鴨下君

 「リーダー、また来てね。僕また来るから。」

 「わかんないけど。またね。元気でね。鴨下くんはめっちゃ面白いなあ。先生は可愛くて仕方ないぞ。」

 しゃがんで、僕は頭を撫でて、背中をポンポンと叩いた。


 添田さん

 「無言。」

 「さっちゃん、タオちゃんと仲良くね」


 「……せんせい。ありがとう。」

 「ありがとう。はじめて声聞いた(笑)」



 僕の温かな一泊二日は終わった。



 ーーーーこの子らが現在は立派な社会人になっているだろう。俺のことなんて、覚えてないだろうなあ。

 



 でもね、僕は、忘れていないよ。君達と過ごしたこの夏の日を、僕らの夏を。ずっとね。


 いつまでも絶える事無く……ありがとう。




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「僕らの夏」大人課題図書&児童文学 木村れい @kimurarei0913

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