自分しか勝たん!

あやせ

第1話


『五郎丸…そなたは…生きろ…!』

『兄上!そんなっ!兄上をおいてはいけません!』

『いくんだ!弟よ!どのみち長くはない命…ここでお前まで犬死させるわけにはいかん!』

『そんなっ…兄上ぇ…』

『行け!そなたは生きるのだ!』

『あにうえええええええええええええ!!!!!!』 


「あああああああああ!!!!!!秀明さまああああああああああああ!!!!!!!」


 現在深夜1時、真っ暗な部屋の中でこの部屋の主、瀬戸綾子は発狂して泣いていました。

 

 瀬戸綾子、19歳の大学1年生。彼氏は無し。『推しに貢げれば他はどうでもいい』の信念の元全力でオタ活に励んでいる女の子です。

推しに全力を注いでいるため他のことをまったく気にしておらず、メイクや服には全くと言っていいほどお金をかけていません。

そのため大学にも普通にすっぴんイモジャージで通えるメンタルをしています。


 彼女が今釘づけになっているテレビの画面では、炎上し崩壊していく城を背景にスタッフロールが流れていました。

彼女が見ていたのは『戦国華伝』、いくはなの略称で親しまれている女性向け戦国ボーイズラブアニメです。

そこまで超有名アニメというわけではなかったですが、そこそこの人気がありゲーム化や漫画化などメディアミックスも行われている作品でした。


 そんないくはなで彼女の推しキャラであった主君秀明が今日の回でなんと死んでしまったのです。


「おのれ策士猿吉…兵力が他に割かれている間に奇襲とは卑怯なり…ぐぬぬ」


 推しキャラの死を惜しみながら、とりあえず彼女は日課である感想ツイートをすることにしました。


『えまって…秀明様死んじゃったんだけど…マジこれからどうやって生きていけばいいの…#戦国華伝#いくはな』


 フォロワー100人程度、フォロー200人程度(そのうちのほとんどがアニメやゲームのオフィシャルアカウント)な彼女のアカウントにこうして一つの病みツイが投稿されました。


 推しの死により病んでしまった彼女は、流れてくる他のアカウントの感想ツイートをぼーっと見ていました。


 するとここで一件のDM通知が入ってきました。


『ねえねえいくはな最新話やばくない?』


 送り主のアカウント名は『あさりちゃん』

アイコンはキラキラした枠の中に顔だけ隠した雰囲気自撮りという地雷臭ハンパない見た目のアカウントでありますが、何気1年くらい絡みのある人であり、いくはなを初期から追ってきた同志でもあるのです。


 彼女は速攻でDMに返信しました


『まじやばい…秀明様ロス…』

『それな。ほんま猿吉』

『マジでね。あいつマジ許さん今から猿吉殺して秀明様救う』

『それはがんばれ。できんけど』

『だよね…はぁ…』

『秀明様ビジュ大好きだったから死んじゃったのつらい』

『はぁ…じつは生きてましたオチとかないかなぁ』

『さすがにないと思うゅ…』

『デスヨネ…はぁ』

『ねぇねぇてかさ、ゆゆっちはコラボカフェ行く?』


 ゆゆっちとは綾子のアカウント名である『湯々々(ゆゆゆ)』から来ている呼び名です。


『あーコラボカフェねぇ…新宿のやつだっけ?行ける距離ではあるんだけどコミュ障ダカラ…うっ…』

『わかるウチもコミュ障』

『マジコミュ力強くなりてぇ』

『それな。でねでね、もしゆゆっちさえよければ一緒に行かん?コラボカフェ』


「えっ…?」


  突然の誘いに彼女は一瞬思考が停止しました


  しかしすぐに


『行く!』


 返事をしました。

一人では絶対いけない場所に行こうというお誘い、絶対ビジュ強い女の子とのデートの予感、この二つが揃っていて彼女が断る理由はありませんでした。


『まじ!?嬉しい!めっちゃ気合入れていくね!!!!』


 あさりちゃんもとても嬉しそうです。


 かくして、彼女の人生初のオフ会が決まったのです。


 善は急げとでも言いましょうか、とんとん拍子で話は進み、一週間後のコラボカフェオープンの日に行くことになりました。


 ここからの一週間は一瞬でした。

気づけば、明日には約束の日という状況でした。


 一応明日のための準備として、服は用意しました。

安くて無難なやつを一着だけ。

とはいえ毎日芋ジャージな彼女からは一歩前進と言えるでしょう。


 とはいえ相手は絶対にオシャレに気を遣う系の女子であることはそういったことに疎い綾子でも察していました。

なのでせめてもの対策です。メイクはあきらめましたが


 そして約束の日になりました


白のトップスにピチっと足の形が分かるズボンを履き、新宿へと向かいました。


新宿駅は日曜日の昼間ということもありかなり混みあっていました。


『今着いたよ!あさりちゃんもう着いてる?』

『着いてるよ~。改札出てすぐのところの柱によっかかってる!』


 改札出てすぐの柱を探したらそれらしき人物を見つけました。


 黒とピンクの混ざった髪をハーフツインにし、全身黒の地雷コーデに身を包んでいる黒マスク女子でした。


 きっと彼女に違いありません綾子は勇気を振り絞って声を掛けました


「あのう…あさりちゃんですか?」


そう呼び掛けられるとあさりちゃんらしき人物はスマホをいじっていた顔を上げ答えました


「そうです!初めまして!」


 その声は、見た目に反して低い男の声でした


 

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