御陵衛士編 1話 虹の橋の向こう 一八六七年
……虹 ?
俺は女の指さすほうをゆっくりと見上げる……
さっきまで降っていた雨はすっかり上がり、雲の隙間から陽が顔を覗かせていた。
そして大きな虹が京の町を跨ぐようにかかっている。
女に問われて俺は呟くように答える。
「……れいん……ぼぅ 」
「れいんは……雨のことどしたなぁ。 そしたら、ぼぅ?は…… 」
女は首をかしげている。
「ぼぅは弓のことだよ…… 」虹に向かって弓を引く動作をまねてみる。
頭の中で飛んだ矢は途中で失速し虹を射抜くことなく落ちていく……
今度、毛内さんに頼んで弓の射方を教えてもらおうか……
砲術の免許を持ち銃の扱いにも長けているのに今更、弓?……と先生に笑われるかもしれないが、咎められることは無いだろう。
「雨の弓でれいんぼぅ……うまいこと言うわ、
おもしろそうに笑いながら俺が読んでいた本を取り上げる。
英語とやらを学ぶ時の教本だ。
「それにしても…… 」からかうように俺を見る。
「こないだまでほとんどの志士いう人らは『攘夷、攘夷』と騒いではったのに今では競うように英語を習ってはるやなんて。
ほんま、殿方の考えてることは……よぉ、わからへんわ 」
「そうだな…… 」
教本を取り返すと俺は猫を抱きしめながら、虹を見ていた。
もうひと月か……
伊東先生が皆を集めて誇らしげな微笑みを浮かべている……
「同志諸君! 我々は朝廷より…… 」
皆が立ち上がり歓喜の声を上げ、感極まって涙する者もいる。
その様子に俺もこぶしを握り締めた……
……山南さん
ついに、やりましたよ……どれだけこの日を心待ちにしたか
今まで見守ってくださりありがとうございました。
抱きしめていた猫に頬をつねられて俺は我に返る。
「もう! また他のこと考えてはる! 」
ムスッとへそを曲げた猫を宥めるように抱きしめた背中を小さい子をあやすように軽くとんとんしながら、それでも俺は虹を見ていた。
大きな虹は弓というより橋に見える……
あちらとこちらを繋ぐ橋……
山南さん……
虹の向こうはどんなところですか?
……大好きな明里さんもいない、そんなところ……つまらなくてもう飽きたのではありませんか
たまにはこちらへ帰って来て話をしませんか?
あれから二年、いろんなことがあったんですよ……
……山南さん
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