突如として婚約破棄を突きつけられた悲劇の令嬢・ツバキと、彼女を助ける狼の聖獣・ロウ、そして質実剛健ながらツバキへの好意を隠さない竜人騎士・イザークが織りなす、明るく楽しくちょっとシリアスな旅物語。
冒頭から、婚約者に裏切られた上に実親にまで蔑ろにされ、自死を試みるという悲惨な始まり方をする本作だが、ヒロインのツバキのまっすぐな気性と、彼女の信心に応えて味方する聖獣ロウの掛け合いが心地よく、読者はノーストレスで彼女の旅立ちを応援できる。ヒーロー役のイザークの実直な性格も好感が持てるもので、すぐにツバキに惚れ込んでしまって事あるごとに口から好意を漏らす彼と、ツバキの用心棒として鋭く目を光らせるロウの丁々発止も楽しい。
婚約破棄、死に戻り、家出、竜人ゆえの葛藤など、ともすれば暗くなりそうなテーマを良い意味で軽く受け流し、軽快なタッチの物語に仕上げているのは、ひとえに作者の確かな手腕と、読み口への行き届いた配慮のなせる業だろう。
異世界恋愛もの好き、前向きヒロイン好き、実直ヒーロー好き、モフモフ好きの皆様には、自信を持ってオススメしたい一作である。