おまけの番外編
第42話 異国の服
「前から気になっていたのだが」
ツバキとレイチェルの部屋で次の依頼のことを相談していたのだが、それも済んで別の話をしていた時だ。イザークがツバキの方を見て遠慮げに問う。
「その、ツバキの服はなんというのだろうか」
「着物のこと?」
ツバキの服は赤い肌着に真っ白な着物で巫女の衣装だ。赤い帯がきっちりと締められている。裾丈が短く、歩きやすさを重視した黒いブーツを履いているのだが、何か問題があるのだろうか。
それにレイチェルが「こっちでは珍しいですよねぇ」と言った。そこで、この着物自体が珍しいのだとツバキは気づく。そういえば、周囲で着物を着ているのはツバキぐらいだ。
皆、軽鎧や重鎧、魔法使いのようなローブ姿や、レイチェルのように肌の露出が多い衣を身に纏っている。着物姿など見たことがないので、それでは気になるよなとツバキは納得する。
「ツバキさん、その帯? っていうの自分で締めてるの見てると、すごいなぁってワタシ思ってたんですよねぇ」
ぐるぐると巻いている訳ではなく、ちゃんと締め方があって見ているだけでは理解ができないとレイチェルは帯を突く。慣れれば簡単だとツバキは言うのだが、自分では無理だと思っているようだ。
「むしろ、レイチェルさんはもう少し着込んだ方が良くないかしら?」
「ワタシはこれでいいんですよぉ。冬になったらコート羽織ればいいんですからぁ。あと、ワタシ、狐の獣人なんで寒さとか平気なんですよねぇ」
肌寒いくらいがちょうどいいとレイチェルは言う。ぴこぴこと耳を動かし、狐のふわりとした尻尾を揺らした。彼女がそういうのなら、そうなのだろうとツバキは思うことにする。
レオナルドは「着込んだ方がいいと思うけどな」と言っていたが、レイチェルは「問題ないですぅ」と返して聞かない。
「イザークやレオナルドさんの鎧って重鎧の部類かしら?」
「そうだな、そうなるが重鎧ほど重くはない」
「そうなのねぇ」
見た目ほど二人の鎧は重くないらしい。それでも俊敏に動けるのだから鍛錬をしてきたということなのだろう。
ツバキは二人の鎧を少し眺めてから「この服は和国独特のものだと思うわ」と答えた。イシュターヤで珍しいというのだから、そうなのだろうと。
「なるほど、和国ではそうなのか。だが、キミのお兄さんはコート姿だったが……」
「シロウ兄上様は洋装を好んでいましたから」
「なるほど」
「それで着物がどうかしたかしら? まだ気になるところとかある?」
「いや、脱がしにくそうだなと思っただけなんだ」
イザークの一言にツバキは目を瞬かせ、レオナルドは無言で彼の頭を叩いた。レイチェルは吹き出したし、ロウはじろりと見つめている。
レオナルドに「何を言っているんだ」と突っ込まれて、イザークは「思ったのだから仕方ないだろう」と返す。
脱がしにくそうと言えば、そうかもしれないのだがと帯を押さえてツバキは「帯が取れればすぐ脱げるのよね」と答えた。
「まぁ、脱がされることはないと思うのだけど……」
「あるだろう」
「え?」
「え?」
「イザークよ、噛み砕かれたいか?」
ロウに牙を剥かれてイザークは黙る。ツバキは言葉の意味が理解できずに首を傾げていたが、レイチェルに「いずれわかりますから」と言われてそうかと問うことはしなかった。
「お前の変わりように僕は信じられないよ……」
「レオナルド、お前もいずれわかる」
「何度も言うけどお前みたいにはならないからな」
レオナルドにきっぱり言われてイザークは眉を寄せる。そんな顔をされてもお前のようにはなるつもりはないとレオナルドは腕を組んだ。
それにすかさずレイチェルが「ワタシに甘えてくださっていいのですよ!」と両手を広げた。にこにこと期待するように見つめれられて、レオナルドはうっと言葉を詰まらせる。
「さぁさぁ!」
「今、そういった話はしないだろ」
「遠慮するな、レオナルド」
「お前は少し遠慮をしれ!」
そのままレイチェルに抱きつかれたレオナルドだが、イザークに突っ込むのを忘れない。そんな様子に仲が良いなとツバキは思った。
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