7

 そんで、懐に入ってきたすげえ額のカネの中から、少しだけ取り出して、漢民族の役人に握らせて、全部終わりだ。


 と思ったんだがな、そうは行かなかったんだ。女のガキを任せた奴の一人、アフガン人の業者がいつものルートを通らずにウイグル自治区から中央アジアを経由するルートを使った。そいつを俺達は後で知った。全員が悪態を吐いたぜ。当たり前だ。中央アジアルートだと? 一体どんな理由があって、世界で最も面倒事が多いルートを使うんだ? 理解に苦しむぜ。

 ブラックマーケットにも最低限の仁義はある。ルールだってある。無論最低限だがな。まあ、カネがあれば何とかなる世界だ。しかしよ、中央アジアの非合法なルートはそんなもんまったくない。世界一カオスなルートだ。案の定、アフガン野郎は行方不明になりやがった。

 俺達は言うなら卸業だ。ヘマをしたのは輸送行のアフガン人。だが受取人は、つまり、客はそう考えるか? 考えない。顧客のおつむに最初に浮かぶのは『俺は、卸と輸送に騙されて前金を騙し盗られたんじゃねえか?』って疑いよ。悲しいかな、卸業者は輸送がヘマをした際、最低でも出荷した証拠を顧客に示さなきゃならねえんだな。クロネコヤマトよろしく出荷票でもありゃいいんだがな。

 んで、俺達はクソ野郎のアフガン人の足跡を追った。幸か不幸か奴の足取りはすぐに掴めた。裏を返せば、それだけ簡単に尻尾を掴まれるようなマヌケだったってことだ。ウイグル自治区を抜けてキルギスに入ったところで、奴はクゥルク・チョロに属する遊牧民一族に拉致されたようで、俺達は全員溜息を吐いた。よりにもよってクゥルク・チョロに。

 クゥルク・チョロってのは、キルギスの極右組織だ。二〇一〇年にキルギスではキルギス人とウズベク人が武力衝突して、国内はごちゃごちゃとしていた。ホレ、日本人がキルギスで拉致られた事件あったろ? 覚えてないか? ああ、覚えてないのかよ。まあそんなもんいちいち覚えてられねえか。

 とにかく、マヌケなアフガン野郎はキルギスの東で拉致された。面倒だったが、俺達は拉致した連中がキャンプをしている場所まで行った。んでどうなったと思う? 笑っちまうぜ。歓迎されたんだ。キャンプでは合同結婚式が行われていた。ムスリムは結婚式を盛大にやる。遊牧民はその傾向が特に強い。訪れた客はもてなされる。眼前に酒やら料理やらが次々と運ばれてくるんだ。


※試し読み版はここまでとなります。

※11月23日の文学フリマ東京でこちらの作品が載った『Alt + 』という本を出します。


『Alt + 』Twitter: @Altplus_bungaku


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

@Altplus

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ