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錆だらけのピックアップトラックの荷台にガキの死体をごろごろと乗せてよ、助手席で揺られて三〇分ほど山道を行くと、そこそこ開けた場所に着いた。三〇平米くらいの荒地を、派手な色した布をくくりつけた柵で囲ってよ、クソでけえハゲワシが既に待ち構えてんだ。サイズは人間のガキと同じぐらいだ。んで周囲はひでえ臭いがする。死臭じゃないんだ。もっと酷い、気味が悪い臭いだ。
そんでよ、無遠慮に葬儀屋がごっつい鉈でガキの死体をばかばか切り刻んで小さくして、それをハゲワシの方に投げるんだ。あんまりにも手馴れていてよ、俺も目を剥いたぜ。そんでハゲワシが肉に群がるんだが、そのハゲワシがでけえから迫力がものすげえんだよ。羽根を横に広げると、本当に本当にでかいんだ。それが肉を奪い合ってばっさばっさもがくんだよ。んでよ、連中喰いながらクソを垂れるんだ。嫌な臭いの元はそれだって俺は気がついたんだ。消化された人間の臭いなんだ。そいつが周囲で土になってよ、草の養分になってよ、沁み込んで積み重なってんだよ。そういう場所なんだ。
俺はそん時に、来るんじゃなかった、って思ったな。できるだけ臭いを嗅がないように風上に立ってよ、葬儀屋がガキをバラバラにしていくのを見ていた。本当に手馴れたもんでよ、五人のガキが一時間ほどで細かくなって、鳥がほとんどそれを喰っちまった。葬儀屋は「骨や残りは明日また細かくする」って言ってよ、トラックに乗り込んだ。俺もその隣に座って山を下って行った。ガタガタのあぜ道を運転しながら葬儀屋が言うんだ。「あいつらは天に昇れた」ってよ。俺も鳥が天国に死者を連れて行くって話は聞いたことがあった。喰い残しがあると死人は天国にいけないんだとよ。チベット人はそれを信じているから鳥に死体を喰わせるワケだ。んで残したりしないように、鳥の口に合わせて死体を小さく切り刻む。あの無遠慮に振り下ろされる鉈は死者への敬意ってワケだ。
とことん運が悪いとよ、振り下ろされる鉈ぐらいしか、人間としての敬意を得られないこともあんだよな。そういう奴は生きているうちは何の価値も見出されずに、くたばって中身だけご丁寧に引っこ抜かれて、国境を渡っていく。奇妙なもんでよ、無価値なガキから俺達は価値を生み出して、価値はカネになって、俺達の懐に入る。もしガキに経済的価値以外の価値があったのなら、親も売ったりはしねえ。あのガキどもは、マジで無価値なんだ。生きてるうちはプライスレス。ただし悪い意味でな。
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