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マリでラクダから解放された俺達は、荷物を日本に送り出して、シリアに向かった。無論不法入国さ。流石にシリアはビザが必要になる。だからだ。
当時、シリアは……ああ、いや、この話は後にまわすか。それがいいな。
その一年後だ。
二〇一三年に俺はチベットにいた。チベットというと大抵の奴はこう想像する。連なる高い山々、黄色っぽい服の仏教徒、んですこぶる寒い。全部当たりだ。ただ、二〇〇〇年代に入って、少しだけ様相が変わりつつあった。五〇年代から続いた中国の実効支配が様変わりした。叩いて蹴飛ばし、銃で殺して、言葉を奪って、投獄して、拷問、ってのはなりを潜めた。なくなったワケじゃねえが、随分と数が減った。でかい道もできて、観光地化しはじめた。カネ持ちもいる。生憎、漢民族の連中ばっかだけどな。中央産ってワケだ。だがチベット族側におこぼれがないワケじゃねえ。小カネ持ちぐらいはいる。そんな感じで、ゆるゆるとだがチベットも豊かになりつつあった。
俺達のような人間が飯を喰っていくには、そろそろチベットから手を引く、足を洗う頃合になっていた。貧乏人の、いつ消えても誰も気にしないような奴ら、戸籍のない子供、そういうのがどんどん減っていくんだ。俺達の売り物が減っていったのさ。
おい、そんな顔するな。俺らが売り払った子供の大抵は、売り払われた先でマシな生活につくもんさ。サウジ野郎に禁じられしケツを掘られるか、イエメンの娼婦小屋で働くか、まあ臓器を抜かれてカネ持ちの体の一部になる奴も少なからずいるが、倫理はさておいても、幸福の総和はイーブンか微増ってとこだろ?
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