3

 おんなじような話がヒマラヤのエベレストにもある。山頂付近には持ち帰られることのない凍死体がずっと転がっていて、それが道しるべになってるんだ。名前もある。グリーンブーツってな。本名もわかっているんだが、それでもそいつはグリーンブーツって呼ばれている。

 サハラ砂漠のど真ん中でもよ、元アメリカ大統領の死体が、キャラバンの道しるべになってるんだ。それが誰だったかとか無関係にな。

 自分が誰だとか、どんな奴だとか、そういう認識と役割は無関係なんだよな。役割ってのは自分じゃねえんだよ。役割を負うって表現があるが、実に的確だ。

 導き手、スター、社長、係長、新人、夫、妻、息子、ペット、彼氏、能無し。全部役割の名でもある。

 しかも、本人が死のうが、役割は当人じゃねえから、いつまでも続くことがある。その上、どう変遷していくのか、本人にお構い無しだぜ。やめようにもやめられない。


 そんでまあ、その後に、って、んん?

 あのよぉ、ここは風が強いからよ、もう少し腹に力を入れて話してくれ。

ああ。

 ああ、そうだよ。俺ぁカタギじゃねえよ。見た目はカタギっぽいだろ? カタギのふりしてんのさ。組に登録もしてねえがな。登録すると暴対法の所為で色々と不便になるからな。広域指定暴力団の構成員はホテルにも泊まれねえんだ、コレが。海外で仕事するなんて夢のまた夢さ。だから俺みたいに世界を股に掛けるキャリア組は盃も貰ってねえ。例外なくみなそうだぜ。

 日本は外交官が優秀でよ、百九十カ国はパスポートのみで入国できる。パスポートさえ取れりゃいいのさ。普通のヤクザはそれが無理なんだけどな。

 話を戻すか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る