第99話 ハーレまない。

 ハレオの手作りバームクーヘンの口当たりの良さが、みんなの心を優しくしたのかは定かではないが、一番反対していたユウでさえも、「なんでこんなに怒っているんだっけ」、と首を傾げたのは確かだ。


 「とりあえず、3部屋空いているから、3人で話し合って決めてくれよ」

 ハレオは楽し気に話始める。

 もうすでに赤の他人の女性が3人も居候状態なのだから、どうとでもなれという感覚でもあった。父親のハーレムでの生活はハレオの女耐性をも強くしていたから気にしない、いや気にしないようにする方法を習得している。


 「ちょっとハレちゃん、まだ許したわけじゃないんだけど」

 「ユウさん、もう遅い時間だからさ、女の子3人が夜道を歩くのは危険だ。せめて今日だけは泊めてあげよう。納得いかないのは分かるけど、また明日にしよう」

 「同感」

 「さすがお兄ちゃん、優しさね」

 「うん」

 「かたじけない」

 「当然ですね」

 「バームのおかわりある?」

 「たしかに、でも今日だけですからね」

 皆、バームクーヘンを平らげ、満足そうに納得した。

 ハレオもそれを見て笑顔が零れる。

 そのハレオの笑顔に、皆は更にお腹一杯になったのは言うまでもない。


 「ハレオさんのお部屋は一番手前なんですね」

 「そうだよ、奥からトウカ、スミレ、ボタン、ユウさん、だから俺の隣と向かいとハス向かいが空いてる。好きに使ってくれ」

 「ふ~ん、みなさん意外と奥手なんですね、じゃあ私は隣を使わせてもらいます」

 

 モッカとハレオのやり取りを目撃した既存の住民は、自分の失態に今頃気が付いた。

 なぜ奥から埋めていったのだと。


 遠慮や恥ずかしさからであることは分かってはいたが、まさか自分たち以外にもここを間借りしてくる女が来るなんて、しかも一気に3人も、まったくの想定外。

 意中のハレオを落とすのならば、壁に耳を当てれば状況の確認が容易い隣の部屋が一番良いのは明白。

 

 「ちょっと待ったー」

 それにいち早く気付いたボタンは、すぐさま手を挙げた。

 「私、今の部屋変えたいのだけれども」

 「えーじゃあ私も」

 「私はどっちでもいいけど……いや、やっぱり変えようかな」

 ボタンの言葉の意味を理解したスミレも賛同、トウカは2個上ではあるが同じ中学生であるモッカを意識してしまう。それは稀に寂しさからハレオの部屋で寝る行為が露になり揶揄われるかもという危機意識だった。

 「じゃあ私も」

 ユウのそれはお笑いのノリだった。


 「みなさん部屋に自分の荷物あるでしょう、移動するのに大変ですから無理なさらずに」

 「我はモッカお嬢様の隣にしか興味がない」

 本心のお松は、ハレオの護衛を命令されていることを失念していた。

 「わたしは護衛だからお嬢様と同室アル」

 「嫌です」

 「はは、分かってるアルよ冗談アル」

 お梅は「そういえばモッカの父親から命令はされたが、当の本人には了承を得ていないな、私もしかして若干嫌われている?」と苦笑いを浮かべる。

 

 「あのさぁ、もう遅いんだから今日は勘弁してくれない? みんな風呂入って寝なよもう」

 ハレオの正論に、みんな渋々と部屋に帰った。


 ピンポーン。


 そして、そのチャイムは鳴った。


 「誰だよこんな時間に」

 ハレオはインターホンの画面を覗く。


 「な、ナリヤス?」

 画面の向こうに居たのは遠何成泰の姿だった。

 ハレオが驚いたのは、ナリヤスの姿をみて直ぐにナリヤスだと気が付いたこと。

 ハレオは、女の体に成りたいと願うナリヤスに、国外への旅費と手術台を渡している。

 だから今度会うときは、たぶん想像もできない変化を連れてきて驚かせてくれるのだと思っていたから。

 だが、画面の向こうに居るナリヤスは紛れもないナリヤスの姿、別れた日からなんにも変わっていない男の姿だったからだ。


 「ハレくん……久しぶりだね」

 「ど、どうしたんだよお前、それにその姿……」

 ハレオは、お金を出して送り出したのにも関わらず、なんにも手を加えていない姿を話題にしようとしたが、思いつめたナリヤスの顔をみて止めた。

 「今、鍵開けたから入って来いよ」

 「うん、ありがと」

 

 すぐに玄関の扉が開き、ナリヤスが入ってくる。


 「誰ですか?」

 「ハレオくんの幼馴染で男友達、ただの友達だからね」

 ハレオに、「話がめんどくさくなるから、自分の部屋から出てこないでくれよ頼むから」と釘を押された女子達であったが、好奇心旺盛な彼女たちが聴くはずもなく、リビング付近で聞き耳を立てている。


 「ふ~ん、なかなか可愛い顔の男性ですね」

 「ああ、いいアルね、コスプレ映えしそうアル」

 「し~ちょっと黙って、聞こえない」


 「ハレくん、あのね……」

 「ナリヤス、まぁ上がれよ、焼き立てのバームクーヘンもあるぞ」

 ナリヤスは、ハレオのその何気ない言葉に胸を押さえ、心を決めた。


 「僕は、ハレくんのことが好きだ」

 「は?」


 「「「「「「「は?」」」」」」」

 ハレオの「は?」は、なんだよそんなの俺もお前は嫌いじゃない、大事な友達だ、けどそんな畏まって言う事じゃないだろ、手術代を立て替えたことに後ろめたさを感じているなら気にするなよ、はした金だからな、の「は?」であった。


 しかし、一部の女子達「は?」は、出し抜かれた、そういえば誰一人としてハレオに自分の気持ちを伝えていない、ハレオのその性格上、誰かに頼られることを良しとする優しさを持っていることも理解していたのに、まだ大丈夫、ゆっくりと愛を絆を育んでいけばいい、同じ屋根の下に居るのだから、そう思っていたのに、の「は?」だった。


 「だから、僕もハレくんと一緒に暮らしたい」

 「そうか、しょうがないな、俺はいいよ」

 ハレオは、本心から快くそう答えた。

 いつの間にか自分の周りには7人もの女子が居る。それはハーレムに慣れていたハレオではあったが、やはり居心地は良くない、そこにきて男友達のナリヤスのその願い、親とか引っ越しとか色々な準備は必要だろうが、友達がそう願うのなら、断る理由などなかった。


 「「「「「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁー」」」」」」」

 女子達は心から叫んだ。


 「誰か居るの? ああ、妹さんとスミレちゃん、ボタンちゃんか」

 「ん? まぁ他にもな」

 「他にも?」

 「あ~ナリヤスにはここに住んで貰いたいけど、もう部屋が空かないかも」

 「そっか……」

 「あー心配するなって、引っ越そう、うん、引っ越しだ、もっと広い家に」

 「そ、そんな急に、僕の為に? 悪いよハレくん、僕、やっぱり……」

 「気にすんな、大丈夫だ、俺に任せろ」



 ハレオの資産、残り約25億。

 しかし、その金銭感覚のズレと同居人の多さから、散財するのが確定していると言っても良い状況。

 

 それを打破すべく、W高の名物学部である投資部への入部による邁進、高校生にして会社を立ち上げる偉業、公営ギャンブルでの爆運。

 それらによりお金に困るということを知ることのないハレオの元には、更なる女性の影。

 そして、ハレオが知る父親の死因と素性が、作られた偽りだったと知ったとき。


 ハーレムなど作らないと誓ったハレオに、更なる試練を与えることになる。


第一部 完。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ハレマ・ハレオは、ハーレまない!~億り人になった俺に美少女達が寄ってくる?だが俺は絶対にハーレムなんて作らない~ 長月 鳥 @NoryNovels

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ