第98話 お嬢様は譲らない③

 「みんな常識的に考えてくれ、短い期間で色々あったけど、これだけは確かだ。モッカ達は俺が連れてきた。俺のお客さんだ。このまま追い出すなんて出来ないし、こんな玄関先で着替えろなんて言えない。もちろんユウさんの言う通り、この3人を急に俺の家に住まわせるなんて考えていないさ、でもモッカのお父さんからもお願いされているし、ここはちゃんとした恰好で、部屋の中で落ち着いて、それから皆で話し合いをしよう」

 「「……」」

 ハレオのド正論に一同静まり返る。


 「ハレちゃん、ごめんね、なんか熱くなっちゃって」

 「私も取り乱してしまいました。申し訳ありません」

 「とりあえず着替えてくるアル」

 「そうだな」

 「じゃあお兄ちゃん、私は、着替えを準備してきますね、サイズ的に、お松さんのはスミレさんので、お梅さんのはボタンさんのが良さそうですね」

 「「ふ~ん」」

 スミレとボタンは、お松とお梅の恵体にふつふつと湧き上がるものを感じ、互いの顔を見合わせ「一番地味な服を」と合図を送る。


 「じゃあ俺はお茶でも入れてくるから、みんな座っててよ」

 「ハレオさん、お気遣いなさらずに」

 「ハレちゃん、私も手伝うよ」

 「いいよユウさん、俺に任せてモッカを案内してあげて」

 「そうね、分かったわ。じゃあお嬢様、こちらへ、ああ、安いソファなので座り心地が悪いかもしれませんが」

 「ふふふ、私は六畳一間の畳部屋でも生活できてましたので大丈夫ですよ?」

 「そうなんですか~お嬢様なのに苦労させられているんですね~大変だ~」

 ユウとモッカの目に、見えない火花が飛び交う。



 数分後、ハレオの正論で収まったかに見えた女の戦いは、リビングにて無言の静寂戦へと以降していた。


 「さぁとりあえず、これでも食べてくれ」

 ハレオはお茶と一緒に、手作りのバームクーヘンをテーブルに並べた。


 「でたーお兄ちゃんの手作りバームクーヘン」

 「は?バームクーヘンって手作りできるアルか?」

 「ハレオの手料理の技は絶品です。幼馴染の私が言うのもなんですが世界一かもしれません」

 「ハレオどの、そんな特技があったのか」

 「ハレオくんは良いお嫁さんになりますよ」

 「ハレオさん……お婿さん……ゴクリ」

 「まぁ私が幼少期に手ほどきしたからね~(今じゃ足元にも及ばない気がするけど)」

 「さぁ食べて、お腹を満たせば話も捗るでしょ」


 「「「「「「「いただきまーす」」」」」」」

 「うまい」「おいしー」「天才アル」

 「なかなかね」「なんか感動で涙が……」

 「んふふ、手料理で泣かせるのはお兄ちゃんくらいですから」

 「ここまでとは……」

 ハレオの手料理のバームクーヘンをあっという間に平らげる女子達。


 「「「「「「「おかわりー」」」」」」」

 「しょうがねぇな~」

 まんざらでもないハレオは、キッチンに戻った。


 「あのう、みなさん何時もハレオさんのこんな手料理を?」

 「ハレオには、交代制でいいよって言っても、いや俺がやる、やらせて下さいって聞かないんだよ」

 「最高アルな」

 「うむ、他の料理も食べてみたいな」

 「是非是非、ハレオくんの手料理の感動は全世界の人に知って欲しいよね」

 「あまり、お兄ちゃんを調子に乗せないようにして下さいね、私たち豚さんまっしぐらですよ」

 「そ、それは困るね」

 「まぁお兄ちゃんはその辺も気を使って作ってくれますけど」

 「神っ」

 

 「あのさ、盛り上がってるとこ悪いんだけど、なんでこの3人を受け入れちゃう雰囲気になってるわけ?」

 ハレオの手料理で意気投合しつつある場に、待ったを掛けるユウ。


 「まぁまぁユウさん、ここはハレオの顔を立ててあげましょうよ」

 「スミレちゃん?ハレオの顔を立てるのと、この娘達を受け入れるのは関係ありません、ただでさえ競争相手……じゃなくって、未成年が多いのに、保護者である私は、絶対に認めませんよ?面倒見切れないから」

 「あなたも、たいして変わらない年齢の様に見えますが?」

 「なにを……」と、反論しかけたが、若いって言われている気もして口ごもるユウ。


 「それに、お松とお梅は、もうすぐ18歳、法律では立派な成人です」

 「そうだ、法律変わったんだっけ?高校生なのに、もう大人じゃん、いいな。そうだ、お松さんとお梅さんは、どこの高校通ってるんですか?」

 「W高だ」「わたしもアル」

 「なっお梅、お前もW高なのか」

 「お松こそアル」

 忍者という職業柄、互いに通信教育という形を取っているお松とお梅、通学するのは滅多にないから同じ高校に通っていることを3年間知らなかった。


 「まさか皆同じ高校だったなんて」

 「みんな?もしかしてハレオどのもか?」

 「そうです、ちなみに私はW高中等部で、ユウさんはW高のメンターです」

 「メンター……先生と生徒が一緒に暮らしているアルか?」

 「なにか問題が?」

 「いや、ないけど、なんかエロいアルな」

 「もしかしてモッカちゃんも?」

 「はい、一般の義務教育なんて受けていたら、日本の、いえ世界のトップになんて立てませんから、W高中等部でさっさと必須科目だけ終わらせて、自宅で帝王学を学んでいました。それもほぼ習得しましたが……」

 だからこのタイミングで、父親が婿探しを命じてきたのか、と感付くモッカ。


 「ちなみに我が比留家はW高の学校法人へ多額の出資を行っています」

 「さすが財閥」

 「なんならメンターの選考もお父様の口添えで変更かのうですよ、ネット遠足とやらで不手際を起こしたメンターに即刻解雇通知を促したのもお父様ですから」

 「ああ、なんか変なテンションのメンター居たねぇ」

 「それは私に対しての脅しと捉えていいのかしら?」

 「別に、そんなつもりはありませんけど、男子生徒と同棲している女の先生なんて聞いたことありませんからね、お父様がどう感じるか」

 「くっ」


 「なんか楽しそうに話してるじゃないか、ほらおかわりのバームクーヘン出来たぞ、こんどは抹茶味だ」

 「「全然楽しくありませんから」」

 戻ってきたハレオに激しく反論してみたが、抹茶バームクーヘンの美味しさには勝てず、無言でむしゃぶりつくユウとモッカであった。

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