第8話 それぞれの観察

 最後の一日、と言っても昼食後には終わってしまう。

 7人は朝食を食べ、最後の交流を深めた。



 結局私、七宮蓮花は美白先輩のような真似をしている生徒だけど美白先輩との結美を私離れさせる共同作戦。それすらも利用する美白先輩を見て私はまだまだだな、と思った。また会えたらいいな、とも思った。



 蓮花から美白先輩のことを聞かされていた。確かに蓮花以上に壮大でリスキーな賭けをしているようで上には上がいるなぁと思った。あたしにその気はなかったけど蓮花が言うにはあたしは蓮花に依存していたらしい。せめて部屋に大量に私の写真を飾らないで、と言われてしまった。正直ショックだけど今回の蓮花と美白先輩が組んだ件はなんとなくわかった気がした。蓮花以外と話してみるのも悪くないなぁ、例えば美白先輩とかと会ったら話せればいいなぁと思った。



 気づけば光も友利も結美も見違えたように様々な面子と話していた。

 光と友利は美白の監視などせず自然に二人で話している。


 結美は美白に興味を持って行くものの当の本人は避けるように交流を深めない。それが逆に関心を引かせた。絶対に友達になってやるという結美の心に火をつけることになる。

 結美の後ろから竜奈がやってきた。


「美白と話したいのね」


「はい、美白先輩と何としても話して見せます」


「洗脳されそうね」


「そのリスクがたまらないんじゃないですか」


「なるほどね、もう美白に下ってしまったのね」



 柳原先生に蓮花は聞く。


「美白先輩と同じ担任でしたか?」


「違うわよ、私は光と同じ担任ね」


「光さん変わりましたね、今の光さんなら言うことなしです」


「言うことなし?」


「いえいえ、こっちの話です」


 蓮花は光を恨んでいた。でもそれは単に美白と同じ学校という意味ではない。性格が気に食わなかったのだ。でも今なら言うことはない。蓮花は光を恨んでいない。



 食堂のいつもの場所に好きなのか立っていた竜奈。

 後ろから美白の声がする。


「君はまだここに残りたかったようだねー」


「そんなことないわよ」


「君に嘘は似合わないなー」


「やっぱりあたしは無理よねー、この場所は居心地がいいし眺めがいいわ」


「美白がその気になれば一日くらいは延期させられるよー」


「あんたなら普通にしそうよね。でもいいわ、現実を受け入れるわ。この場所とも短かったけどお別れね」


「君が一番本来の目的、潜水艦で見学をしていた。それに君は隠し持ってるね。美白が一番苦手なタイプだよ」


「そっくりそのままお返しするわ。もう嘘には騙されないわよ」


「そっくりそのままお返しするねぇ、それはどこからの話ー?」


「だからあんたが一番苦手なタイプだわ」


「ふーん、なるほど。君は一番この本来の課題である潜水艦での目的を感想文に書くはずだね」


「そうね、魚についてね、でもあたしがその魚を見つけることはなかったわ。見つけられたなら原稿用紙何枚でも書けたわよ」


「まあここは浅瀬だからねぇ、浅瀬でもいておかしくない魚かー?大型の魚だね?」


「そうよ、海中過ぎると逆にいない魚、あたしはその魚を見るために1部屋の狭い景色よりもこの食堂の映画館のように広いこの場所でずっと観察していたわ。現れてもおかしくないはずなのよ、生態的に言うと浅瀬にこそ顔を出す。だから海中ではなく浅瀬に沈むこの潜水艦は好都合だったわ。でも現れないのね…あたしは感想文にこうつけるわ。そしてこの潜水艦で見れなかった魚について全て原稿用紙に埋める気よ。強者は姿を現さない」


「なら賞を取ったらそのタイトルがある訳だねー」


「課題で見れなかった魚について書くなんて賞なんて取れないわ」


「まだ昼食まで時間があるし現れるかもよー?なら賭ける?現れるか現れないか」


「あんたと戦いたくないわ、無駄な戦いは避けるわ」


「せんせーが言ってたけど最後の昼食は刺身らしいよー」


「魚ね…複雑な気分ね」


 急に美白は1万円を見せてくる。


「大金もってるわね」


「光ちゃんを更生させてーっていう依頼料の5000円。ゲームに敗北した6人分の代表者の5000円合わせて1万円だよー。本当なら3万稼げるはずだったんだけどなー、今回はこれくらいにしてあげたよ。でも、実は美白は美白に賭けてたんだよ。もちろん勝利して敗北したわけだけどねー。君の質問、次の被害者は誰か?これには二つの答えがあったうえに場合によっては神崎光にもなりえたんだよ」


「姫が殺人を起こしていれば?」


「そういうことー」


「別にあんたに勝つために殺人に手を染めないわよ」


「美白は賭けた、焔竜奈が蓮花とその答えの人物をいえば美白の負け、言わなければ美白の勝ち」


「どういうことよ、次の被害者は蓮花じゃないの?」


「確かに蓮花は勝負に負けた、だから5000円払わされることになったということになる。間接的被害だね。でも実際に払ったのは誰かなー?」


「先生ね」


「そう、それが答えだよ」


「悪趣味ねぇ、答えが曖昧じゃない」


「美白の世界でイカサマなんて当たり前なんだよー?友利に殺人をするレベルまで怒りを買うこともできたからねー、監視してきてくれたおかげで」


「洗脳に近いことしてたのね…」


「美白は楽しかったよー?憎悪が殺意になるところを感じ取ったときは特にねー」


「あんたが一番更生されるべきなんじゃないかしら?友達騙してるんでしょ」


「うーん、美白に友達はいないよー?」


「それ、自分で言ってて悲しくないのかしら?」


「友達ってあれでしょー?1時に集合とか時間縛ってくるしそういうのは嫌いなんだよねー、それなら友達よりも自由を選ぶかなー?それにいたとしても美白は嘘を秘密を暴く道具としか見ないだろうねー。人間友達同士でも秘密は隠し持ってるからねー、例えば蓮花と結美ちゃん同士でもあると思うよー」


「計り知れないわね…隠し事は通じなさそうだわ」


「海の王者って知ってるー?」


「もちろん知っているわ、シャチよ。シャチはサメよりもイルカよりも場合によってはクジラよりも強い海の頂点よ。頭脳も賢いわ」


「ふーん、君も追い求めていたものはシャチかー」


「よくわかったわね…」


「強者は姿を現さない、でサメかクジラかシャチなのは見当がついたよ。美白も見かけなかったねー」


 美白と竜奈が話をしていると申し訳なさそうに結美が割り込んできた。


「あの…あたし蓮花ちゃんがいない時ずっと2部屋にいたんですけど見ましたよ?あの白い目と黒い体の魚ですよね?」


「白い目じゃないわ。あれは模様よ、シャチはあんな大きな目してないわよ。あたしも食堂じゃなくて1部屋にいたら見れてたのかしら」


「そういえば結美ちゃんって最後に部屋を選んだよねー?」


「残ってたのが2部屋だったので」


「あれよね、残り物には福があるってやつよね。それとも光や姫も見たのかしら、王者を」


 通りかかったのか友利と光がやってくる。


「おや竜奈、王者?わたくしはずっと監視してましたよ。成瀬美白という王者を」


「違うわよ、海の王者よ」


「ああ、シャチですか。見ていませんね。うじゃうじゃいるものだと思っていたんですがサメなら見ましたよ」


「私もシャチは見てませんね、でもイルカの群れは見ましたよ。6部屋で美白先輩の部屋にいて美白先輩がお風呂に入っている時くらいでしょうか?あの光景にあの時は支えられたのかもしれませんね」


「光は中吉ってところかしらね。あーあ、あたしも1部屋にいたらシャチ見れてたかもしれないわ」


 最後に二人で話していたのか蓮花と柳原先生が現れる。


「私は二日目ははほぼ美白先輩にベッドの下に匿ってもらってたんで何も見てないですね。一日目と今日は大きな魚とは出会わなかったですねー、それだけゲームに夢中だったんで」


「蓮花、本来の目的からも目を背けてはいけないよー、でも蓮花はハンデがあったから仕方ないねー」


「あら、貴方たちなんだかんだ言ってちゃんと見てたのね。そうね、私は管理室で夜の見回りもしないとだから一番見る時間が多かったはずだけどシャチは見てないわねぇ、あの大きな動く黒い物体は、多分クジラでしょうね」


「美白はゲームには勝ったのかもしれないけど運では結美ちゃんに負けたことになるねー」


「また賭けてたの貴方?」


「違うよー、美白と竜奈ちゃんはシャチが一番見たかったんだよー」


「美白、貴方は何も見てなさそうよね」


「美白は一応シュモクザメは見たけどねー、水族館でいつでも見れるよー。友利ちゃんは何ザメ見たのー?」


「何ザメと言われましても、普通のサメです」


「普通なら鼻は平べったくなってたりしてないからシュモクザメではないねー」


「あれですよね、鼻が横に広がってるというか」


「そうそう光ちゃーん」


「ですが美白先輩、価値観は人それぞれじゃないですか?私はいるかが一番見たかったので私的には大吉ですよ。シャチやサメは怖いですね」


「あたしは運がいい?ことになってるけどあたしはクジラが一番見たかったんですよねー、先生がうらやましいです」


「私が見たかった魚は話題に出てないということは誰も見てないということね、海のギャングとでもいえばわかるかしら?」


「わかったわ、シャチでもない海のギャングなんてウツボくらいしかいないわ」


「その通りよ」


「多分潜水艦自体は遭遇してると思うよー、でも隠れてるからねー。じゃあ光ちゃんこそ一番見たい魚のさらには群れまで見れた。運がいいのは光ちゃんかな」


「あたしはシャチが見たかったわ」


「まあ、最後の昼食にしましょう。もしかすると食べてる時にシャチと遭遇するかもしれないわ。食べながらでもこの大きさの眺めなら見れるでしょ?」


「絶対見るわ!」



 成瀬美白は

 自分との賭けのために焔竜奈を道具としか見ていなかった。

 自ら桜結美を避けることによって心を向けさせDクラスや蓮花同様下らせた。

 殺人犯だと偽り、騙し、弄び、神崎光を更生させた。

 挑発させ憎悪を殺意に生まれ変わらせ舞姫友利を洗脳した。

 すでにDクラスと同じように下った蓮花を利用した。

 生徒と先生の金のやり取り、バレれば教師として危うい、柳原里海の弱みを握った。



 しかし、今回のこの課題で一番得をしたのは成瀬美白ではなかったのかもしれない。自らの心が生まれ変わり、見たかったイルカ、おまけに群れを見ることができた神崎光こそ苦難を乗り越えて一番得をした人物だったのかもしれない。



 友利は何かに気づいたように昼食を食べながら指をさす。


「あ、あれです、あのサメです」


「あれはホホジロザメね、人食いザメとも言われているわ」


「姫はあのようにならないで欲しい」


「普通のサメじゃないのですか?」


「あれは危険なサメね、サメの中でも特にね」


「私は初めて大きな魚見れましたよー、私はホホジロザメを感想に入れましょうかね」


「蓮花ちゃんはホホジロザメなんだ、ならあたしは先輩たちが見れなかったシャチは希少みたいだしシャチの感想にしようかな」


「普通のサメではないのですか、サメ自体危険ですがわたくしはあのサメに二回遭遇したことになりますね。何か因縁があるのでしょう、あのサメを感想に書きましょうか」


「もちろん私はイルカの群れを感想に書きます。美しかったですね」


「私は先生だから別に感想とか書かなくていいんだけどまあ生息地に分布しない魚と遭遇したなら報告はしないとならなかったわね。クジラくらいなら今回のルートにいてもおかしくなかったわね。美白は何書くつもりよ」


「美白は人間観察?」


「魚について書きなさい。サメ見たんでしょ?」


「あーあ、シャチでも見れたらなー、書いてたけどなー」


「今回はあたしもあんたに同情するわ…あたしは見れなくてもシャチについて書くわ。強者は姿を現さないのよ」


「美白と竜奈、貴方たち、いらないところで気が合うのね」



 結局昼食後、竜奈はいつもの食堂の場所で魚を見ていた。シャチが現れるのを待っていた。思い虚しくシャチと竜奈が遭遇することはなかった。


「結美がうらやましいわ、あたしの感想文の題名は決定ね」



 潜水艦は陸に到着した。


「竜奈、もう食堂から出て荷物を整理してここから出るわよ。もういないわよ、陸なんだから、こんな陸の近くで見れたらそれこそ大問題よ」


 竜奈のシャチに対する執着心には柳原も敬意を払った。竜奈は一番今回の課題の目的を達成しようとしていた人物だと思い知った。


「潜水艦から出るわよ」


「せんせー、この船から出るということはカジノから出るということ、美白の賭けに負けたことになるけどいいのかなぁ?」


「もう払ったでしょ、いいわよ」


 柳原先生は潜水艦から出た。続いて他のメンバーも出ていく。そして最後の6部屋の美白。陸に上がった。


「はい、美白とのゲームはこれで終わり。竜奈ちゃんは惜しかったねー」


「そんなことより、シャチが見たかったわ…」


「なんかすみません、あたしだけ見てしまって。焔先輩の分までしっかりシャチの感想書くんで」


「美白さん、まさかここで会うとは思いませんでしたけどわたくしはホホジロザメにならないように気を付けないといけませんね、それと何といっても貴方に嵌められないように」


「友利ちゃん、君がホホジロザメになりそうならシャチで対抗してあげるよ」


「美白先輩、短い間でしたが共同作業できて楽しかったですよ」


「蓮花、またいつでも賭けに来るといいよ、美白が相手になってあげるからねー」


「お疲れ様です、光ちゃんと美白先輩」


「おつかれー」


 結美と蓮花と別れた。


「ふん、初めて会うはずなのに初めて会った気がしなかったな美白とは、そして光とも話せた。光はもう大丈夫だろうな。さらばだ我が戦友よ」


「お疲れ様です光さん、そして美白さん」


 竜奈と友利と別れた。残ったのは美白、光、柳原。


「さて、私たちも帰りましょうか?近いけど私の車に乗ってく?」


「いえ、私は歩きでいいですよ」


「遠慮しなくてもいいのよ?」


「私は美白先輩と帰ってみたいと思ったんですよ」


「おー、そっかー、なら美白は光ちゃんと帰るー」


「珍しいわね?まあいいわ、気を付けるのよ」


 柳原とも別れて美白と光、二人きりとなった。








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謎の波乱事件簿 @sorano_alice

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