第23話

僕と猫耳探偵である珠玖ミミは人通りのない場所で隣り合って花火を見る。


「たまや~」

探偵は花火に向けて声を通す。


「私のふりをして密告した人物は最後まで見つからなかったけれど、エンゴロー巡査の罪は随分と軽くなったし、これで丸く収まったね」


「・・・・・んぁ」


僕は欠伸を含んだ返事をする。


「そういえば、お前に助けてもらったお礼していなかったな。いや、探偵だからお礼ではなくて報酬なのだろうけど、僕に何かお礼をさせてくれないか」


「何も貰えないよ、私は何も解決出来なかったからね。寧ろ逆に君に迷惑かけてしまった、エンゴロー巡査に疑われて責められた時に、自分でも情けないほど落ち込んだし、若干混乱してもいたね。そのときに君が私に投げかけた言葉は、名探偵でも解読出来ないほど意味不明だったけど、一つだけ推理出来たことがあるんだよ──君ってどんなに決定的な証拠があろうとも、私の言葉を信じてくれたでしょ」


──そんな推理が出来て嬉しかった──


という探偵の声が多分聞こえた。

眠さが限界を超え、意識が僅かだったので、確証はないけれど探偵はそう言ったと思う。


瞼が重く、徐々に視界が薄くなっていく。体の力が入らなくなり、重力に負けて体が右に傾く。だけどこのまま地面に倒れることはなく、温かくフワフワな何かが僕の頭に触れる。この心地よさから僕の意識は完全に失った。









「おーい君、起きなさーい」


頬を軽くたたかれる。

ゆっくり目を開けるが、目はまだ光に慣れていなく、汚れている街頭の光でも眩しく感じる。

どのぐらい寝たのだろう、体の節々も痛い。


「ねぇ、きみ、こんなところで寝ちゃいけないでしょ」


目を擦りながら僕に注意するものを見る。まだぼやけているようで、シルエットと服の色しか認識できない。恐らくだが、目の前にいる人が警官だとは分かった。次第に視界が鮮明になり、警官の顔が認識出来る。その顔は長いヒゲも毛も生えていなく、何よりも猫耳が生えてなかった。


つまり、ネコではなくホモサピエンスだった。


「君、高校生でしょ、道端で寝てないで家に帰って布団で寝なさい」


警官に返事をせずに周りを見渡すと辺りは猫じゃらしが生い茂っていた。

ここは見覚えがある──エノコロ王国に繋がる公園だ。


僕はどうやら元の世界に戻ったようだ。


その時、何故か僕は謎の衝動に駆られる。


自分でも分からないが、僕は叫ばずにはいられなかった。

それはマタタビ密輸の容疑で捕まったときに叫んだ「冤罪だぁー」ではない。

僕は捕まっていないし、捕まるようなことはしていないのだから当たり前だ。


僕が叫ばずいられないのは別のことだ。


僕はマンホールに向かって走った──エノコロ王国へ繋がるマンホールに。

マンホールの蓋を外して、底が見えない穴に向かって叫ぶ。全身全霊で肺の中の空気を全て出し切るように喉を震わせる。


「探偵のミミはネコの耳ーーー!!!」


何故だか僕はそう叫ばずにはいられなかった。そう叫ぶ理由も意味も意図も、自身のことながら分からない──ひょっとすると夏休みに起こったまるで夢のような事件を、実際のことだと身に沁み込ませるためなのかもしれないし、もしくは、探偵に会った時からずっと言いたかったことが爆発しただけかもしれない。


どちらにしたって甲斐主理(15歳)の叫び声で始まった事件は、甲斐主理(16歳)の叫び声で終わりを告げた。




最後まで読んで頂きありがとうございます。


続きは『彼女(自称)の幼馴染が冬眠しました。大事な事なのでもう一度言うと彼女(自称)の幼馴染が冬眠しました」です。


是非是非見てください。


https://kakuyomu.jp/works/16816700429034771214/episodes/16816700429044483500

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けもの化ウイルスに感染した彼女たちのコンタミ~探偵のミミはネコの耳 一滴一攪 @itteki

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