彼女(自称)の幼馴染が冬眠しました。大事な事なのでもう一度言わせてもらいますが、彼女(自称)の幼馴染が冬眠しました

一滴一攪

第1話

夏休み前の最後の日、

僕はネコの国に迷い込み、トラブルに巻き込まれたが、謎の猫耳探偵─珠玖ミミに救われた。


そして、元の生活に戻った時には既に夏休みが始まっており・・・


そんな夏休みもいつの間にか終わり、二学期が始まってから、もう更に二週間が経っていた。


そんな日に何だかクラスが騒がしい。


クラスの奴らの雑談に聞き耳を立ててみると、

どうやら、このクラスに転校生が来るそうだ。大事な事なのでもう一度言うと、転校生が来るらしい。


──転校生──


その一言で僕たち学生が興奮するのは当然のことだ。もしも、その転校生が異性だったら尚更。


かくゆう、僕こと甲斐かい主理しゅり(16歳)も転校生がくるなら興奮もするし、なんなら異性だったらときめいちゃったりもする。


だからと言っても、それは転校生の実態を知らない場合に限るわけで・・・・


今回は違う。


「よーし、転校生、中に入れ」


ダルそうって言うか、どちらかと言うと眠そうに、クマの濃い目を擦りながらクラスの担任──枕元まくらもと 綿めんが教室に入るなり転校生を呼ぶ。


その転校生はクラスに入ると、教壇の前に立ち、当たり前だが自己紹介をし始める。


「こんにちは、珠玖しゅくミミです。よろしくお願いします」


普通の転校生の挨拶──なんなら転校生の挨拶の典型文と言ってもいい。

そんな、なんの変哲のなく挨拶をする転校生に、クラスの連中は面をくらっていた。


何故なら、挨拶は典型文だけれど見た目は奇抜だったから。

この転校生、制服は普通に着こなしていたけれど、制服に似つかわしくない鹿討ち帽子──いわゆる探偵の帽子を被っていた。


いや、多分それだけではない。


顔立ちは精密機械で一寸の狂いもなく福笑いをしたと言えるほどよく整っている。


さぞかし猫耳が似合いそうな美少女だったことも要因かも知れない。


なんせ、男のほとんどがまるで一目惚れでもしたように見とれている。

情けない奴らだなと思いつつ、僕も少し面食らった。


それは、僕がこの転校生に一目惚れしたなんて、クラスの連中と同様の下らない理由ではなく、らしくなくきちんと挨拶をすることに少し驚いていた。


ってことは、この転校生を知っているってことを物語っているわけで──


僕はこの転校生をクラスに入って、挨拶する前から知っている。


てか、今朝も会った。


『会った』って言うには少し意味がずれているかも知れない。『会う』ってことは、目を合わせて少なくても「こんにちは」なり挨拶することを指すのだろう。


それなら僕は転校生とは会っていない。


会ってないと言ってしまえば、他のクラスメイト同様になってしまうので、もっと詳細に言うなら、


僕は転校生と目が合うなり、


知り合いの女の子と一目合うだけで逃げるなんて、相手を傷つける行動で紳士の風上にも置けないかも知れないけれど、僕の言い分も聞いて貰いたい。


それは遡ること今朝の話

僕は遅刻ギリギリでパンを口にしてはいなかったものの、大きな紙袋を抱き締めながら走って学校に向かっていた。世に言ういわゆる少女マンガで鉄板の・・

『あ! もう、遅刻~ 遅刻~』

のような状態でだ・・・・


十字路を通る時に僕は思わず止まった。

未來の転校生にぶつかるかって


「いててて、もう! どこ見てんのよ!」



ってことにはなるわけがない、

 

少女漫画じゃないのだから。


けれど僕は十字路を駆け抜けることは出来ずに思わず足が止まった。


僕から見て、十字路右側の道の端に段ボールが置いており、その中から黒毛の猫耳が飛び出ていた。


それが僕が止まった理由だ。


僕は一度、猫の国でマタタビ密輸の罪で一度捕まっている。

色々あって今は無事に高校生活を営んでいるが、その出来事が僕を更なる猫好きへとステップアップさせた。


僕は最早、猫好きの高ランカーだ。


そんな僕が捨て猫を見捨てることが出来るだろうか、いや、できわけがないだろ。

てなことで、僕は段ボールに向かって猛ダッシュ。


段ボールの中を覗くと、そこには・・・・

段ボールの中にいるのは捨て猫ではなく、もとより猫ですらなかった。


中にいたのは猫耳のついた女子高生。


猫耳女子高生は段ボールの中を玉のように丸まって寝ていた。

しばらく観察していると、僕の気配に気がついたようで、猫耳女子高生は大きめの目をパッと一気に開ける。

その目は僕とバッチリ合っていた──アイコンタクトが直ぐにとれていた。


そして僕は全身全霊で走って逃げた。


猫だと思って近づいて、

それがもし、人だったら、驚いて逃げるのは寧ろしょうがないことではなかろうか。


それに僕は一度、ネコの国で猫耳に女に目が合うなりロケット頭突きされたトラウマがある。


要するに、僕は逃げたって許されるはずなだが・・・・


僕は神様から許されることはなく、最後まで逃げ切ることは出来なかった。

枕元先生が転校生と発すると時には、察しの良い僕は何となく悪い予感がしていた。


なんせ、猫耳女子高生は僕の学校の制服を着ていた。


つまりは・・・転校生は今朝に会った猫耳女子高生である。


それに、ネコの国で出会った探偵でもあった。


転校生の珠玖ミミは僕がネコの国に迷いこんだ元凶でもあり、ネコの国で 密輸の容疑を晴らしてくれた命の恩人とも言える。


だか、彼女は自身を元凶でも恩人でも、猫耳女子高生でも、謎の転校生ですらもなく、探偵だと名乗るはずだ──猫耳探偵、珠玖しゅくミミだと。


つまり、珠玖しゅくミミが鹿討ち帽子を被っているのは彼女が探偵であることに由縁とする。


そんな探偵を自称する彼女は自身が探偵であることを誇らしく思っている節があるので、自己紹介で恥ずかしくもなく探偵であること名乗ると思ったが、心配せずともそんな悪目立ちするようなことを言うことはなかった。


しかし、珠玖ミミの発言によって僕が悪目立ちした。


「あ! 君は今朝の!!」


彼女はわざとらしく僕を指を指して、これも少女マンガでの定番の転校生との再会シーンをやりやかった。






この物語は前作の「けもの化ウイルスに感染した彼女たちのコンタミ~探偵のミミはネコの耳」の続きとなっておりますが、前作を読まなくても理解出来る内容に仕上げますので、このまま続きに進んでも問題ありません。



だけど、それでは寂しいので前作も読んで頂いたら幸いです。


「けもの化ウイルスに感染した彼女たちのコンタミ~探偵のミミはネコの耳」

https://kakuyomu.jp/works/16816700428673608097

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