第2話


「あ! 君は今朝の!!」


転校生の珠玖しゅくミミは僕の顔に向かって指を指す。

まるで僕が少女マンガのヒロインみたいになってしまった。


落ち着け、落ち着け、甲斐主理! まだ分からないぞ。珠玖ミミが僕に指を指したように見えるだけで、指を指した相手が僕であるとは限らない。


なんせ僕の席はクラスの一番後ろの列なので、珠玖ミミと僕を結ぶ線には他の生徒が何人かいる。  


そのうち誰かが珠玖ミミに遅れて同じように「あ! お前は今朝の!!」と立ち上がり、少女マンガやラブコメなどのシーンをするに違いない。

むしろ、そんな奴がいてくれと僕は願っている。

けれど、そんな願いが叶うわけはなく・・・・


「「「・・・・・・」」」


誰も立ち上がらず、教室に数秒の沈黙が続いた。


その沈黙を破ったのは勿論、珠玖ミミなわけで、珠玖ミミが指を指した相手も勿論、僕であった。


「あ! 君は今朝の甲斐かい主理しゅり君!!」


僕の名前である甲斐かい主理しゅりの名が付け加えられて、新たに言い直された。珠玖しゅくミミは間違いなく僕に指を指している。


珠玖ミミのその一言で枕元先生除く、クラスの全員が僕の方を向いた。因みに枕元先生は窓から雲を見て眠そうにしている。


僕を見るクラスメイトの目はいわゆる友人がラブコメしているなぁ〜みたいな、柔らかい目線ではない。

奴らが僕に向けるのは先端恐怖症なら耐えられないほどの鋭い視線だ。

まるで僕は針山に囲まれているように錯覚してしまう。

彼ら、彼女らの目には嫉妬や妬みも含まれているだろうが、何より親の敵を見るような目で・・・・いや、実際には友達の敵を見る目で僕を見ている。


加えて、クラスの連中はボソボソと僕の陰口を言っているのが何となく分かった。


「お前のせいでサキサキが・・・・」


内容のほとんどはよく聞こえないが、これだけはしかっり聞こえた。




●◯●◯●◯●◯●◯●◯




最悪の雰囲気のまま朝のホームルームが終わり、その雰囲気は消えることなく一限、二限、三限・・・・と授業が終わり、とうとう放課後になった。


僕が帰ろうと教室から出た途端に教室が騒がしくなる。まるで僕がいる間は時でも止まっているように・・


転校生である珠玖ミミにクラスの連中が囲んで質問責めしている。

珠玖ミミは少し困ったような顔をしているが・・


まぁ、僕には関係のないことだし、さっさと帰ることにしよう。





僕はいつも通りチャリに乗って家に向かう。どこの学校もそうだとは思うが、この学校は檻のようにフェンスで囲まれており、敷地外に出るには一つしかない校門を通る必要がある。


生徒の中にはフェンスを飛び越えて、ショートカットする者もいるが、僕は自転車通学なので学校のフェンスを飛び越えることはしない。


つまり、僕が学校の敷地外に出るには校門を通る必要がある。


となると、僕を待ち伏せするにもってこいの場所が校門となるわけだ。


「ねぇ、何で逃げたの?」


そんな場所で僕に声をかけた相手は珠玖ミミで、僕が駐輪場からチャリを取り出している間にも質問責めから逃れて、校門の前で待ち伏せしていたようだ。


「別にクラスの連中から逃げているわけではないよ。放課後だから家に帰るだけだ。あ! あれか? 今朝お前を見て逃げたことか? それなら悪かった」


僕の返答は見当違いのようで、珠玖ミミはより詳細に聞いた。


「何でサキサキに告白されたのに、返事をせずに逃げたの?」


珠玖ミミが僕に聞いた『僕が逃げた対象』はクラスメイトでも、珠玖ミミでもなかった。


「クラスの奴に聞いたのか?」


「うん」


「だろうな、話してもいいけど、話していると長くなりそうだから場所を移さないか?」


「そうだね。私良いところ知ってるよ」


僕は珠玖ミミに連れられて、高校から少し離れた場所にある公園にまでチャリを進めた。


「んっ? ここは・・・・」


その公園は僕の知っている公園だった。

そこはネコの国の入口がある狗尾公園──僕はこの公園にあるマンホールの穴に落ちてネコの国に迷い込み、マタタビ密輸で捕まり、そして、猫耳探偵──珠玖ミミに助けられた。


僕が少し過去を思い出してうちに珠玖ミミは公園の端にあるベンチに座っている。

そして、自身が座っている直ぐ横の席を軽く2回叩く。

恐らく隣に座るように促しているようだ。


僕はチャリの籠に入れてある紙袋を持って珠玖ミミの隣に座った。

珠玖ミミは僕がベンチに腰を掛けるのを見てから喋りだす。


「さーて、どこから話して貰おうかな、まずはそうだな~・・・・サキサキってそもそも誰なの? クラスの人たちって、さぞ知ってて当たり前だよねぇって感じ話してくるから、いまいち内容が掴めなくて」


「あー、だろうな。サキサキって呼ばれているのは、今日は休んでいるけど、僕らのクラスの同級生、再々木ささき 咲姫さきってやつだ。咲姫さきはよく笑うやつで、どんな人でも仲良くなれるタイプの最上位種、大袈裟に言っているわけじゃなくて、クラス全員はもちろんとして、この学校全員が咲姫の友達なんだ。下手すればこの地域一帯が咲姫の友達すらあり得る。だから、クラスの連中にとっては、転校生のお前ですら咲姫の友達かと思っているんじゃないか」


「へー咲姫さきって下の名前で呼んでいるんだぁ。随分と馴れ馴れしいね、こんなに親密な関係だったんだ~」


珠玖ミミは咲姫がどんな人物かじゃなくて、僕の咲姫に対する呼び方が気になったようだ。


「因みにどんな関係だったの?」


「その質問を答える前に僕から質問してもいいか?」


場所を移そうと提案したのは、僕と咲姫との話が他の奴に聞かれたくないわけではない。既に学校中に知られているので校門の前で見知らぬ誰かに聞かれても問題ない。だが、僕が珠玖ミミに聞きたいことがあるし、その内容は聞かれてはまずい可能性がある。


「いいよ。交互にしよう──私が質問して君が答える。次に、君が質問して私が答える、これでいこう・・・・・・ん!?」


珠玖ミミは思い付いたような顔で言う。



「まるでオセロだな」



「は!? どこがだよ。交互ってところしか共通点しかないだろ。将棋とか他のゲームでも同じことが言えるよ!!」


「将棋だとパクリになっちゃうかなぁ・・・・って」


「確かに・・確かに将棋だとスマホと共に異世界転生したキャラの名言ともろ被りしてしまうが、そんなことは問題でない。単に互いに質問し合う事をオセロとこじつけているのが気に食わん」


「スマホの人だってこじつけているでしょ私にだけ怒るのはお門違いじゃないかな?」


「あれは別にいいんだよ。奪った魔法を自身の力にしてるのを取った駒を味方に出来る事にかけているのだから、的外れってわけでもないからな。それなのにお前は安易にまるで〜だなを使いやがったな。許すまじ」


「まぁまぁ、落ち着いてよ。君の発言に口をからって声がほど叫ばなくてもいいじゃないか」


「別に口を挟まれてもないし、声も裏返ってないだろ?・・・・・あ! 『裏返る』や『挟む』ってオセロに結びつきそうな言葉を無理矢理使って後付けするな」


「たまたまだよ。たまたま、さあ、つけよう!」


「てめぇ! 確信犯だな!」

と僕が興奮して立ち上がる。


「で、質問ってなに? 」


珠玖ミミは僕の肩を下に押して再び座らした。

僕がまるて窘めれたみたいで釈然としないが、ここで言い合いしていてもしょうがない。


「単刀直入で言うが・・・・何でお前は猫耳なんだ?」

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