第3話
「何でお前は猫耳なんだ?」
「今更だね」
「今更だけど教えてほしい」
ネコの国で珠玖ミミと二日ばかし行動を共にしていたが、あの時は状況を理解するのに精一杯で珠玖ミミが猫耳である理由どころではなかった。
だけど、今なら余裕があるとは自信を持って言えないが、少なくてもネコの国の時よりは余裕があるので僕の中で珠玖ミミが猫耳である疑問が消えない。
「私が耳だけが猫になったのはウイルスによるものなんだよ」
「ウイルスによるもの?」
あまりに意外な答えだったので復唱してしまう。
「私が耳だけが猫になったのはZOOウイルスって名のウイルスの仕業だよ。君は癌原生ウイルスって知っているかな。癌原生ウイルスは宿主の細胞にある遺伝子にイタズラして癌を作り出してしまうんだよ。つまり、世の中には遺伝子を変えてしまうウイルスは存在しているんだよね。zooウイルスも同様の作用で、宿主の遺伝子を変換して、自身にとって住み心地の良い別の動物種に変えてしまうわけなんだよ」
「はぁ」
珠玖ミミが猫耳なのが、ウイルスによるものって言われていてもいまいちピンと来ない。獣人とか、妖怪、宇宙人の類いかと予想していてのが、ウイルスと以外にも身近って言うか現代的って言うか、そんな理由を言われても納得いきそうでいかない。
頭の整理が出来ない状況で珠玖ミミは僕に質問する。
「次は私の番だね。私が質問して君が答える。さっき聞けなかった君とサキサキの関係を教えて貰おうかな」
「あーそれはだな、僕と咲姫の関係はただ単に、良くありふれる幼稚園、小学生、中学校、高校で全て同じクラスなだけの関係で、別段、特別な関係でも何でもないよ」
「ん? 特別な関係じゃない?・・・どこが・・・いや、まぁ、つまり幼馴染ってことだね」
珠玖ミミは何か言いたげだったけれど、何故か途中で言い換えていた。
「・・・・僕と咲姫との関係を幼馴染って括るのはやめてほしい。ラブコメの影響で幼馴染って恋愛要素が絡んでるように感じられるけど僕たちは違うんだよ。普通に友達なんだ」
幼馴染って言っても同性の場合もあるし、ただ親通しが仲良いだけで、子供のほうはそうでもない場合だって存在する。そんなのに世の中は幼馴染ってだけで、すぐに恋愛に結びつける。
「でも実際には友達以上恋人未満の関係だったんでしょ」
珠玖ミミはからかうように僕の顔を覗き込む。
「友達に上はないよ。友達と恋人は別カテゴリーだと僕は認識している。友達はどんなに仲良くなくっても友達で、友達が恋人になることはないだろ」
そんなのウイルスでの仕業がない限り・・・・
「ふーん、そんなもんなのかなぁ」
珠玖ミミは鹿討ち帽子をとって、露になった猫耳の根元を掻きながら、そんなことをぼやく。
「帽子被ってて
珠玖ミミの耳は猫耳なので帽子を被れば耳がつぶれている。
水泳帽子を被ってる時みたいに血管が圧迫されて痛そうだ。
僕が珠玖ミミの耳を見ながら、猫耳の心配をすると、珠玖ミミは目を大きく広げた。だけど直ぐに我を思い出したかのように目を細めて笑顔に組み換えてから答える。
「窮屈で少し痛いけど、この耳を隠さないと暮らしづらいからね」
「まぁ確かにハロウィンでもない限り猫耳の人物は目立つからな」
「次は私の質問だね。君たちが友達ならサキサキは君に告白はしないんじゃないかな?」
珠玖ミミの耳を心配して聞いたことが、まさかの質問扱いになったことで少し戸惑いはしたが、まぁ、いい。
否定してもめんどくさくなりそうだし、何より僕が一番聞いて欲しい事を聞いてくれた。
「はぁ、それなんだよな」
僕は一旦ため息をついてから続ける。
「咲姫は昔から僕の彼女を自称したり、告白して僕をからかって遊んでいたんだよ。始めは僕もピュアな反応をしてしまったけど、その度に咲姫は腹を抱えて大爆笑するもんだから、告白される度に適当にあしらっていたんだ。それを初めて見た人たちは僕の事を咲姫が告白したのに冷たくあしらうクズ野郎だと勘違いしたんだよ。学校の生徒全員に対して釈明会見した甲斐なく、誰も僕の話を聞いてくれていなかったわけだ」
「なるほどね。サキサキからの告白を蔑ろにしていると思われて、君は学校中から嫌われているわけだね。イヒヒ」
学校の奴らと違って理解があって助かるが、その変な笑い声で笑われるのは少し腹が立つ。
「もういいだろ、次は僕だな。お前が猫耳になったのは・・・・そのzooウイルスだったっけ? そのzooウイルスに僕が感染してお前のように猫耳にはならないのか?」
「その可能性はゼロに近い。zooウイルスはその名の通り動物園ウイルスって意味でね。個々のzooウイルスはそれぞれ様々な動物種に変異させる、それはzooウイルス自体が変異しやすいウイルスなのが理由で、君がもし仮にzooウイルスに感染したとしても、私と同じように耳だけが猫になることはないね、別の動物になる可能性のほうがまだ高い」
つまり人によって変わる動物の種類は異なるってことか。
「加えて、zooウイルスは宿主特異性が高い。要するに感染者を選り好みしている。そのおかげで感染者数は極めて少ないんだ。つまり、そもそもとして感染される危険は限りなくゼロなんだよ」
確かにそのZooウイルスとやらがインフルエンザ並みに感染力が強かったら世の中、猫耳だらけになってしまう。
・・・・・・
それはまるで天国ではないか!
いや、ダメだ、落ち着け。猫耳は猫についてこそ至上なわけで、猫耳がついた只の一般人を僕は認めるわけにはいかない。珠玖ミミは猫耳との親和性の高さから許してやっているが、普通の人なら猫耳を引っこ抜いてやるところだ。
・・・・・・
でもどうだろう?
例えば、世界中の人々が猫耳になったとして、僕は全人類の耳を引っこ抜くことは出来るだろうか?
・・・・・・・
いや、不可能だ。その場合は僕は全人類を許そう。そして愛そう──猫耳を愛そう。
「因みにこのウイルスは個体だけを選り好みしているわけではなくて、器官、組織、細胞にまで選り好みしているからネコZooウイルスに感染したとしても猫耳になるとは限らないんだよ。髪の毛が猫っ毛になるだけかも知れない」
「へぇーじゃあもういいや。さっさとお前の質問したらどうだ?」
「いきなり興味を失っているよ! 何なんだね。君は!!」
と珠玖ミミは興奮して立ち上がる。
そして僕は彼女の肩を下に押して座らせて落ち着かせた。
「ムムムムムムム」
すると珠玖ミミは奇妙な唸り声をならして不満そうな顔になる。
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