第4話
「お前のほうもまだ質問があるだろ?」
僕が質問を促すと珠玖ミミは顔をブンブン横にふって冷静さを取り戻してから僕に問う。
「うん、まだ聞きたいことはあるよ。君が学校中から嫌われものになった原因は理解出来たけど、サキサキはその誤解を解こうとしなかったのかい?」
「そこも面倒なんだよ。咲姫にとっては僕に告白することは日常的なもんだから、学校の連中が僕にどんな目線を向けていたとしても平然と僕に話しかけてくるし、そんな彼女を見て周りの連中は、辛い経験を必死に忘れようとしている・・・とか思ったかどうかは知らないけど、そのことを咲姫には誰も言わない。そんなわけで咲姫は僕が嫌われていることなんて知るよしもない」
「なるほどだね。普段はサキサキが振られたことを思い出させないように普通の雰囲気だけど、今日みたいにサキサキが休みの日は嫌悪感が露になるってことだ」
咲姫がいない日は確かにクラスの連中は露骨に僕に対する嫌悪感をさらけ出す。
僕も流石に慣れた。慣れてしまうほど僕はこの嫌悪感を浴び続けた。
つまりは・・
「今日だけではないよ。咲姫は夏休み明けてからここ二週間ずっと休んでいる」
「サキサキがしばらく休みが続いているのって、告白に失敗したショックでは・・・・・」
「ないよ」
僕は食いぎみで否定する。
「僕が告白されて学校中の嫌われものになったのは4月の中旬で、それから夏休み始まる前までずっと咲姫は休みなく学校に通っていたよ」
「それじゃあ、何でサキサキは休んでいるのだろう?」
珠玖ミミは僕に質問したわけではなさそうで、独り言のように呟いた。
「枕元先生曰く、夏休みからずっと原因不明で寝たきりらしい」
枕元先生からは誰にも言わないようにときつく言いつけられたし、珠玖ミミがそのことを質問したわけでもないのに話してしまった。
なんだかんだで僕はコイツの事を信頼しているのかも知れない。
「それってかなり深刻なんじゃ・・」
寝たきりなんて聞けば、そう思うのは無理もない。寝ているだけと言ってしまえば、一見、お気楽のようにすら思えてくるが、いくら睡眠が1日の多く占める行為だとはいえ、何日も寝続けることは異常であり、もう、二度と目覚めないのでないかと心配で仕方なくなる。
だけど、僕は心配で仕方ないのに関わらずお見舞いにすら行っていない。
行けていない。
「サキサキのお見舞いに行こうよ」
といいながら珠玖ミミは既に行動している。
僕の自転車を押してこっちに走ってきた。
珠玖ミミはやっぱり『思い付いたら即行動』ってタイプのようだ。僕のように行動力が皆無な人間にとっては全く違う動物種のようにすら感じる。
「いやぁ・・・ちょっと行きづらくて・・」
珠玖ミミが戻ってくるなりいなや、僕は咲姫のお見舞いを弱腰に渋る。
それを聞くと珠玖ミミはどうして? と言うように首をかしげた。
「・・・・・」
珠玖ミミはまだ首を傾げている。
もっと詳細に答えろって事だろうか。
説明しないと彼女の首はずっと傾げたままだろう。
「夏休みの始めに咲姫との約束を破って喧嘩した・・やっぱり喧嘩じゃないな。一方的に僕は咲姫を怒らせてしまった。その時に二度と顔を見せないでって怒鳴らせてしまったから、それ以来どうにも顔を会わせづらくて・・・・」
僕と咲姫は今まで喧嘩らしい喧嘩なんてなかったし、僕が怒ることがあっても、逆に咲姫が僕に対して怒ることなんて無かったもんで、この場合どうすればいいのか分からない。
そんな僕を珠玖ミミは首をかしげたままで見つめる。
「お見舞いに行く気がないなら、その朝から大事そうに抱えている紙袋は何なの?」
「それは・・」
僕は紙袋の中身を既に知っているはずなのに、紙袋の中を覗き込む。
「言わなくていいよ。私は探偵だからそれくらい推理してみせる」
珠玖ミミは推理すると言い出すと、僕の座っているベンチを丸く円で囲うようにチャリを漕ぎ出す。
一周目
二周目
三周目
四周目
・
・
・
僕の周りを回る回数が増える度に何だかおちょくられているように感じてイライラが増していく。
「私が中身を当てたらお見舞いに一緒に行くよ」
珠玖ミミはチャリを走らせながら僕の同意なしに勝手に約束する。
何周かベンチごと僕を囲むと僕の真後ろでチャリが止まったのが分かった。
「君は朝は歩きだったのに帰りはチャリ」
珠玖ミミは揺さぶるように囁いてから再びチャリを走り出す。
今度は一周半ばかし走って、僕の真ん前で
「君は朝からずっと大事にその紙袋を持っている」
と囁いたと思ったら、立ちこぎで素早く一周漕いでから僕の前で急ブレーキ。
勢いで少しスカートが捲れる。
「君が持っているのはお見舞い品でしょ。
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