第5話



「ぼっ僕がおおおおおっお見っ舞い品も持っていることによく分かったななななななっ。あっ! そこを右」


「この学校は近くに自転車で買い物出来るところはないからね」


確かに学校は小高い山の上にあるため、僕たちが買い物しに行くには駅前に行くしかない。駅までは車通りもよく、道が整備されているが、山を三つほど越えなきゃいけないので学生はバスで行く必要がある。


僕も昨日の学校終わりにバスに乗り、駅前でクマのぬいぐるみを買ってからそのままバスで家に帰った。そのために自転車は学校に置いていた。そのことから珠玖ミミに勘づかれたようだ。


「でもそれだけで何でぬヌヌヌヌヌヌぬいぐっ! るみって分かったんだ?」

しかも、ぬいぐるみがクマってことも


「えーとね、教室で君がトイレ行っている間にこっそり覗いた」


「カカカカカカカカカンニング済みってわけかよ。そこ交差っ点を渡ってみっぎっ」


「ここ?」

と確認しながら珠玖ミミは僕の自転車のハンドルを右に曲げる。


珠玖ミミは僕の自転車に乗って咲姫の家に向かっている。


で、僕は何処にいるかと言えば自転車の荷台に座っている──僕と珠玖ミミで自転車の2人乗りをしている。自転車の2人乗りは法律で禁止されているので、警官に見つかれば逮捕される。逮捕を免れたとしても、少なくとも学校には連絡がいく。てか何よりも危険だ。僕たちが車に轢かれるかもしれないし、歩行者を轢いてしまうかもしれない。

それなのに僕が2人乗りなんてしているかを説明すると、珠玖ミミが僕を置いて自転車を走らせたので、


1.僕は慌てて追いかける。

⬇︎

2.目の前で自転車が急に止まる。

      ⬇︎

3.僕は止まれずに勢い余って荷台の上に乗る。

      ⬇︎

4.珠玖ミミはそのまま自転車を走らせる。

      ⬇︎

5.そのまま、僕は降りられずに荷台座って、仕方なく珠玖ミミに道案内している。


以上の経緯で仕方な僕は2人乗りをしている。


「おおおおっおい! わざと段差とか凹凸の酷っい道に行くななななななっ !」


それに、珠玖ミミが段差や凹凸の多い道を通る度に荷台に僕の尻が強く当たりダメージが蓄積してゆく。

加えて僕が話している時の限って悪路に行くので僕のセリフだけバイブレーションがかかっているように聞こえる。


まったく、器用なことをしやがって・・


「人生という道において、平坦で整った道よりもデコボコとした悪路のほうが波瀾万丈で楽しいでしょ」


と言いながら自身が話すときだけは平坦で整った道を選ぶ珠玖ミミ。


「人生は整っていても険しくても選ぶのはその個人次第だから何とも言えないが、一つ言えるとすれば自転車で通る道は平坦で整っているほうが絶対にいい!!」




狗尾公園から自転車で三十分、僕たちが通う学校からだと二十分くらいいった先、平均的な一軒家並ぶ住宅街にあるのが、僕の寝たきりの幼馴染である再々木咲姫が住んでいる家。周囲が平均的な大きさの一軒家だからと言って、咲姫の家が平均的とは限らないわけで咲姫の家はとても大きい。それはタワーマンションのように高いというのではなく・・・・広い。


山が多く、平地が少ない日本では高さがある家よりも広さがある家のほうが高級感がある。咲姫の家もそうであり


老舗高級旅館

文化財

皇居

これらと比べても遜色ないほどの大豪邸だ。


庭には大きな池及び滝、広大な竹林を有している──それが再々木咲姫の家。


「和風だけど、まるでお城みたい。お城で眠ったままなんて、まるでお伽噺だね。王子様がキスすればサキサキは目覚めるかも」


「あー白雪姫だっけ? 王子様のキスで目覚めるのって」


僕は痛めた尻を気遣って、ゆっくり自転車から降りる。


「王子様のキスで目覚める物語は白雪姫もそうだけど眠れる森の美女もそうだね」


珠玖ミミも自転車から降りて咲姫の家の門付近の路肩に自転車を停めた。


いつもはいる門番のおっさんが、今日はいなかったが、門番のおっさんは、昔からの知り合いだし、今までも顔パスで通れていたので今回も無断で入っても問題はないと思い、僕と珠玖ミミは会話を続けながら、なんも躊躇いもなく敷地内に入ってゆく。


「眠れる森の美女のお姫様の名前が白雪姫だろ」


「違うよ。アホだよね、君は──白雪姫も眠れる森の美女も別人だよ。君って彼女の名前を別の女の名前でいいそうだね」


「僕は言い間違えないよ。僕は彼女のことはマイハニーって呼ぶから」


「うわぁ〜、キモッ」

珠玖ミミドン引き


「キモッは傷つくぜ。マイハニー☆」


「・・・・・・」

珠玖ミミの顔が引くつく。ガチでドン引いている。


「悪かったよ。冗談だ、冗談」


「冗談でも言わないほうがいいこともあるんだよ。だって君は彼女(自称)がいるんでしょ」


それなのに私をマイハニーって呼んだらダメでしょ

と言う。


「えーと、それは・・・・」


珠玖ミミが言う『彼女(自称)』は、僕達がネコの国に居るときに、珠玖ミミにチェリーボーイと馬鹿にされて、つい、「僕にだって彼女(自称)がいるんだぞ」と口を滑らせたことを指している。

察しのいい人はもうバレているかもしれないが、僕の彼女を自称しているのは、再々木咲姫であり、彼女を自称することで僕が驚く姿で大爆笑しているような僕の幼馴染のことだ。


「どうせサキサキが君を馬鹿にするのに、彼女を自称していて、そのことを言っているだけでしょ」


やはりバレてた。


「話が脱線しているぜ、彼女(自称)のことなんてどうでもいいじゃないか。僕たちは眠れる森の美女と白雪姫が同一人物かどうかを話していたんだ」


「どうやら、君は自分に都合が悪いと逃げようとする傾向があるようだね、うーん、例えば、サキサキの事とか・・」


鬼ごっこでも逃げるより追いかけるほうが楽しいのに勿体ない。

と言い、珠玖ミミは僕の手をとり、自身の肩に僕の手を乗せる。

鬼ごっこだと僕がオニで珠玖ミミにタッチしたように・・・・

僕は少し強引に彼女の手を振りほどき、その勢いのまま手を引いたことで、道に垂れた笹に手が軽く当たった。


「何だよ。急に」


「さっきから歩くのが遅いし、ちょくちょく立ち止まったりして、ふざけた事を言ってるから、サキサキのことを考えないようにしているのがまる分かりだよ」


そう言われて後ろを振り向くと、入って来た門から数メートルしか離れていなかった。


珠玖ミミと短くない雑談しているのにしては、思ったより門から全く離れていない。咲姫の敷地は広く、門から玄関までは竹林に囲まれた長い道を通る必要がある。それなのにこんなペースでは咲姫の家には一生たどり着けない。


無意識に時間稼ぎしてたことだろうか。


「僕は確かに咲姫から逃げけたかもしれないけれど、僕が咲姫に会いに行ったことで咲姫が嫌な思いをするかもしれないだろ。それに」


「「逃げるが勝ちって諺もあることだし」」

珠玖ミミは僕のセリフに声を合わせた。


僕は何だか情けな過ぎて、逃げること自体と自身のことを肯定したことを見透かされたようで、更に情けなく感じる。


「逃げることで何か得られるなら、逃げは役立つものかもだけど、君の場合、逃げて何が得られる?」 


珠玖ミミは畳みかけるように問う。


「・・・・・」


答えられるはずがない。逃げたことで僕が得るモノは・・・・・・


「何もないよね──それはね、君が楽しさではなくて楽さを選んでいるからなんだよ。楽しさも楽さもどっちも同じ字を使うけれど、意味は真逆と言ってもいいね。つまり私が言いたいのは喧嘩したサキサキに顔を合わせるのは辛いかもしれないけれど、楽さを選んだままではサキサキと一緒にいる楽しさは得られないだよ」


君は楽しさと楽さ、どっちを選ぶ?


珠玖ミミはそう僕に問う。

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