20:どうしたって恋してる


 今日はどうやら、すめらぎの両親は不在らしい。

 やはり仕事が忙しいようで、揃って顔を合わせられたのは本当に偶然が重なったのだろう。


「カヌレ~、ただいま。今日も可愛いなあ」


「ただいまって、アンタの家じゃないんですけど」


「今はそうでも、そのうち第二の実家になるかもしれないだろ」


「……何言ってんの」


 本気で何を言っているのだという顔をされてしまい、俺は気がつかなかったふりをしてカヌレとの戯れを再開する。

 あれだけ悩んでいたのが馬鹿らしいほどに、カヌレを前にした俺は心が満たされているのを感じる。


 カヌレの気持ちはわからないが、それは今までの恋愛でも同じだった。

 相手が俺をどう想っているのかではなく、俺の気持ちがどこにあるのかが重要なのだ。


 少し遊んだ後、腹が減ったのかカヌレは自分の食事が置かれているエリアに向かっていく。


「……なあ、皇」


「何よ?」


「俺さ、やっぱりカヌレのことが好きなんだよ。誰におかしいって思われても、どう考えても恋なんだ」


 こんなにも好きだと思う相手がいるのに、それを無かったことにしようだなんて、そんな努力こそおかしいのではないだろうか?

 相手が人間か猫かなんて、そこは重要な要素ではないのだ。


「……いいんじゃないの、別に」


 茶化されるか、呆れられるかと思ったのに。

 皇が返してきたのは、俺の気持ちを肯定してくれる言葉だった。


「普通じゃないのかもしれないけど、猫を好きになるのは犯罪じゃないし。カヌレが嫌がることも、アンタはしないし」


「皇……」


「それが本気だっていうなら、好きにしたらいいんじゃない? 誰を好きになるのも、アンタの自由でしょ」


 転校してきたばかりの頃の皇だったら、こんな風には言ってくれなかったかもしれない。

 この気持ちを諦めなくてもいいのだという皇は、戻ってきたカヌレの頭を撫でている。


「結婚とかは認めないけどね、そもそもできないと思うけど。アンタと姉弟きょうだいになるとか無理だし」


「けど、ご両親は認めてくれてる感じしてたぞ?」


「あ、あれは……! そもそもウチの両親勘違いさせてるし、ちゃんと誤解だって言いに来なさいよ!?」


「え、やっぱ俺の本心って伝わってなかったのか?」


「当たり前でしょバカ!!」


 れんたちの言う通り、皇の両親はやはり真姫の方の娘として俺の言葉を捉えていたらしい。


(あれ……けど、そうすると皇との関係なら認められてるってことになるのか……?)


 俺が好きなのはカヌレの方だし、皇だって俺のことなど別に好きでもないのだろうが。

 いつの間にか両親公認となっているのが、何だか奇妙な感覚だ。


「……カヌレ、好きだぞ」


「ニャオ」


「!!? なあ、今カヌレ『私も』って言わなかったか!?」


「都合よく解釈しすぎ」


「いや、絶対言ったって!!」


 人生初の告白成功……かどうかは、カヌレのみぞ知るところなのだが。

 皇家との関係は、間違いなく一歩ずつ進展しているのではないかと思う。



 ◆



愛人あいと、結局気持ちは変わらずなのか」


「まあな。スゲー考えたけどさ、やっぱ俺はカヌレのことが好きってことしかわからなかった」


「愛人くん、恋するとそれしか見えなくなるからね」


「けど、お前らに言われたから気づけたこともあったよ」


 マドンナという存在を前に、恋に恋していた自分。

 カヌレという存在に、本気で恋をしている自分。


「ま、それがマジだっていうならオレらはもう何も言わねえよ」


「フラれた時はまた慰めてあげるからね」


「フラれる前提で話すんじゃねーっての!」


 普段の調子に戻った友人たちは、再び俺の恋の行方を見守ってくれるようだ。

 この恋の行きつく先がどうなるのかは、俺にもわからないけれど。


「犬飼くんたち。皇さんの家で勉強会するけど、みんなも来る?」


「委員長、勉強熱心だなあ」


「期末試験もうすぐだしね。ボクも参加するー」


「じゃあオレも。愛人は……聞くまでもねえか」


 聞かれるまでもなく参加するつもりでいた俺は、早々に帰り支度を始めている。

 会えるとなれば、一秒でも早くカヌレに会いたいのだ。


「カヌレ目当てなのはいいけど、赤点取るようなら会わせないから」


「えっ!? 皇、カヌレと俺の仲を認めてくれたんじゃ……」


「それとこれとは話が別。カヌレに馬鹿がうつったら困るから」


「こりゃ勉強も疎かにしてらんねーな」


「愛人くん頑張れ~」


 他人事だと思って声を掛けてくる二人をよそに、俺は次のテストで危ういであろう教科を脳内に思い浮かべる。

 不本意ではあるが、今日はカヌレと遊んでいる場合ではないかもしれない。


「くそっ、カヌレのためにやってやる……! 俺とカヌレの仲は誰にも引き裂けないんだからな……!」


 そう決意表明をする俺を尻目に、一行は一足先に教室を出て行ってしまう。

 そんな友人たちの背中を、俺は慌てて追いかけるのだった。



 恋に勉強に忙しい俺は、存分に青春を謳歌している。


 実る保証のない恋だろうとも、今日もチャレンジあるのみだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

恋愛負け組の俺が恋したのはアイドル級ツンデレ転校生の飼い猫だった件~猫耳美少女に変身しないし喋らないけど本気で好きなんだからしょうがない~ 真霜ナオ @masimonao

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ