第十八章 四 存在証明
悔恨の炎が教室を溶かしていた。
ドロドロに脚が崩れる机と椅子。焦げゆく黒板。炎天下に放置した飴細工の如く液化するガラス片。逃げ惑う人々の幻影と悲鳴。
失われ壊れてゆくのは、「不条理」の痛みだった。
黒木の、苦しみだった。
揺らめく火を背負う怪物の瞳は、赤く、爛々と輝いていて。
まるで泣いているように濡れていた。
「……」
透は憐れむように目を細め、やがて見開くと、銀の拳をゆっくりと前に突き出す。
気の済むまで殴り合おう。
気の済むまで、殴り合おう。
気の済むまで、殴り、合おう。
念を送るように、しっかりと黒木を見据えて、透は魂を救済するために拳へと力を込める。内側から鎧が破裂してしまいそうなくらい、筋肉という筋肉が隆起する。骨が軋み、鼓動が身体の芯を叩く。
己のやるべきことは、なにか。
桜南を助けに行くことだ。香澄が生み出したこの惨劇を終わらせることだ。それが何よりの優先事項。
だが、その優先事項を一旦脇に置いてしまうほどに。透は、「不条理」を救わねばならないと思ってしまった。
感情を忘れた彼を、すべてに見捨てられた彼を、黒木という一人の人間を――。
「こいヨ」
黒木の日輪が回る。黒い羽が宙を舞う。
「コいよ、黒木!」
「
避ける未来が変えられる未来。白い羽が舞う。それをさらに上書きする。
弾丸のごとき勢いで迫った黒木に、カウンターで左拳を合わせる。顎を狙ったフック。砕け散る下顎が視えた。
だが、その未来がさらに上書きされる。
――拳に、黒木の左手が添えられた。
「――」
受け止められた。衝撃が黒木の背後に走り抜け、屋上の電灯が音を立てて割れる。重ねられた未来変換は、黒木の手へと収束した。黒い瞳が透を射抜く。寒気が脳髄まで駆け上がった。
黒い拳が、透の顔面を貫いた。
電源を無理矢理引き抜いたときのように、透の意識がブラックアウトした。痛みなど感じる間もない。避けようのない死。
だが、なぜか急速に意識が覚醒した。
「……なっ」
透は己の顔面を触る。確実に砕かれた。なのに、なぜ……なぜ死んでいない?
黒木は、間合いの少し外から透を見据えていた。静謐で、しかし強い意思を感じさせる光が瞳に宿っている。
「未来ヲ変えタ」
淡々と、黒木は言った。
「君ガ死ぬ未来ヲ、僕が変エた」
「……ナぜ?」
黒木は答えなかった。
ただ真っ直ぐに拳を突き出す。瞳の奥にある殺意は変わらない。彼の背後で蠢く炎が、怪物のように踊りながら廊下を焼いて、その舌を窓から突き出し空を舐めている。
煙が、透たちの間に充満していく。
焼けそうな息苦しさに咳き込んだ瞬間、視えた。
山積みされたノートを持って職員室に向かう制服姿の黒木と、青みがかった長髪の少女の幻影が。二人は話しながら、ときに笑顔を見せながら楽しそうに歩いている。ああ、そんな顔で笑えたんだな。そんな風に喜んでいたんだな。
彼はもう、忘れてしまっているのだ。そのとき感じた思いを。
「アアアァァッ」
黒木の慟哭は、炎の渦とともに空へ消える。いや、目の前にいるあいつは静かにこちらを睨めつけている。泣いているのは、きっとかつての彼だ。視えた。罵詈雑言が書かれた机。しね。キモい。人形。引きこもり。この世から消えろ。幼稚な落書きは、しかし見るものの心を抉るような毒性に満ちていて。表情を殺しながら濡れた台拭きで机を拭う黒木に、嘲笑が向けられている。
聴くに耐えない、下卑た笑い。
「……っ!」
黒木が肉薄する。
再び未来の光景が脳を焼いた。攻撃の軌道を完全にシュミレーションし、透は未来変換を発動。黒木の能力と重なり、二人の脳内で無数の未来の像が交わされる。絶え間なく読み合い、絶え間なく書き換えられた未来は、透へと収束する。
透の右肘が、後ろに回り込んだ黒木のみぞおちに突き刺さった。
「……かハっ!」
痛覚を遮断していたとしても、みぞおちを打たれた瞬間の反射を消せるわけではない。迫り上がった横隔膜に肺を絞られているのだろう。黒木はうずくまり、血を吐きながら激しく咳き込む。
また視えた。彼のそばに寄り添う少女の幻影が。
――なにもできなくてごめんね。でも、私はなにがあっても黒木の味方だから。
――それだけは、信じてね。
「……かナで」
息を乱しながら、黒木は彼女の名前をつぶやいた。
「僕ハ……」
「……」
「僕ハ……知りタいんダ……」
黒木の超再生が発動する。だのに、彼の目から滂沱のごとき血涙が流れた。身体が悲鳴を上げているのだ。もう、とっくに限界を迎えていると――。
ふらつきながら、黒木は床を踏みつけた。無数の黒い目が見開かれ、血の涙を飛ばす。声にならない咆哮が煙を吹き飛ばし、建物を震撼させた。足裏から骨に染み渡るような振動。来る。
黒白の羽が、両者の間に降り注いだ。
刹那の間に刻まれた未来の光景。
殴る殴る殴る殴る殴る殴る。
拳が閃光となって走り抜け、両者の身体を削り潰し壊してゆく未来が重なり合う。血が噴き荒れる。肉が飛散る。砕ける骨の音が幾度も反響する。死ぬ。死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。
未来は、透のものになった。
――拳が黒木の左頬に深々と突き刺さった。
「ガアアアアアアアアッ!」
獣のような叫びを上げて、透は拳を振り抜いた。肉を砕く感触とともに、黒木の漆黒の身体が宙を舞う。噴き出した血が弧を描いた。
教室の奥まで吹き飛んだ黒木は、轟音を立てながら窓枠を突き破り、外に転がり落ちる。花壇が破壊され花が潰された。
教室に入り黒木を見下ろした瞬間、透は再び幻視する。花壇のそばで不良の集団に暴行され、タバコの火を腕に押し付けられる黒木の姿が。そして、必死に庇おうと間に割って入った少女の姿が。嘲笑と絶叫。涙。血と暴力。もはやイジメと称して非道を誤魔化すことなどできないほどの所業。周りの生徒たちも、教師さえも見て見ぬふりをして二人を助けようともしない。
「……っ」
突然、目眩がした。立っていられなくなった透は壁によりかかる。能力使用の反動。身体中の筋肉が軋んで骨が圧し潰されるのではないかと思えるほどの痛みに襲われる。ふらついて呻きながら後ろを振り返ると、再び視えた。
少女が、水をかけられていた。
おそらくは掃除に使われた汚れた水を。ゲラゲラと嘲笑い、「調子にのんなブス!」と詰る女の声。
黒木を庇ったせいだ。そのせいで、彼女もいじめの標的にされるようになったのだろう。俯いて唇を噛みしめる少女の姿は、目を逸らしたくなるほどに痛々しく苦しげだった。
――畜生どもめ。
怒りで痛みを忘れてしまうほどだった。ここにいるすべての人間が……いじめに加担するものも見て見ぬふりをするものも、すべてが制服を着た獣のようにしか思えない。これは犯罪だ。許されていいことではない。なんで誰も助けようとしない? 我が身が可愛いことはわかる。助けに入れば少女と同じようになるデメリットを背負うことになることもわかる。だが、これを、こんなものを放置していいわけがない。
気づいたら壁を殴っていた。
けたたましい音とともに、柱にヒビが走り抜ける。
透は歯を噛みしめ、ふらつく身体にムチを打って、眼下の黒木を見つめた。
毒矢に貫かれた鹿のごとく、黒木は痙攣する身体を必死に起こそうとしていた。砕いた顎が再生していない。権能を使えていないのだ。ああ、哀れだ。それでもなお知りたいのか。すでに知っていることを、ただ忘れているだけのことを。
知りたいのだな。
「……黒木」
透は飛び降りた。羽が舞う。白く白くどこまでも白い羽が、この世界の微かな光を集めているかのように純粋な輝きを放つ。踏みしめた地面は、涙を孕んだように濡れていた。
背中を弓反りにして震えながら立とうとする黒木の先に、また幻が視えた。
ああ……。
透は、反射的に瞑りそうになった目を開いた。
見なければならない。彼のすべてから、目を逸らしたくはないから。
不良たちが、黒木を庇おうとした少女に群がっていた。抵抗し、暴れる彼女の手や足を押さえ付け、下卑た笑いを上げながら服を脱がせ、その柔肌に獣の舌を落とし、腰を振っていた。悲鳴。絶叫。「助けて! やめて!」という金切り声。黒木は不良たちに押さえ付けられて、その光景を見させられていた。地獄絵図だ。痛々しい血の香りが、獣の体臭に混ざって漂っているかのようだった。あはは、こいつ勃ってやがる! 黒木を抑える獣がそう笑っていた。
怒りという感情さえ死んでしまう。心が端から削られていくような、苦しすぎる光景。
すべてが終わったあと、雨が降ったのだ。少女は膝を抱えて泣き叫んでいた。その側にふらつきながら寄った黒木は、少女に手を伸ばそうとしてその手を払われた。充血した目で睨めつけられた黒木が、足を後ろに引いていた。黒木の表情は死んでいた。その目に光はなかった。
だが――。
「……I'm ……singing in…… the ……rain(雨の中で、僕は歌う)」
歌が聴こえた。
いつからか聴こえるようになった雨音とともに。
「……Just…… singing in ……the ……rain(雨の中で、ただ歌う)」
身体が濡れていた。でも、そんなことは気にならなかった。歌うのはかつての彼なのだろうか。顎が砕けている壊れかけた黒木には、歌えるとは思えない。
透は、視た。
雨が止んでいた。むしろよく晴れていた。顔に包帯を巻いた制服姿の黒木が、灯油缶を持って校舎に入っていく。感情を殺した光のない瞳のまま、幽鬼のような足取りで階段を登っていく。三階につくと、灯油缶を傾けて中に入っていたものを廊下に垂らし始めた。
ああ、始まるんだな。そして終わるのだな。
黒木の怪物としての一生と、光があったかもしれない人生が。
彼は授業中の教室に入った。堂々と遅刻してきた異様な雰囲気の黒木に、生徒たちも教師も呑まれたのか静かだった。我に返った教師が遅刻を咎めたが、そんなこと意に介さず、彼は自分をいじめていた不良生徒の元まで真っ直ぐ向かった。怪訝そうな表情で、威嚇の言葉を発する不良生徒に、黒木は一言口にした。
――死ね。
懐から取り出した鎌が、不良生徒の頭に突き刺さった。白目を剥いて倒れる不良生徒。つんざくような悲鳴。彼は灯油缶を振り回し、外に走り出ると、火をつけたライターを投げ入れた。
炎があがった。
爆発と絶叫が、轟いた。逃げ惑い、炎に焼かれて踊り狂う生徒たち。黒木は燃えていない方の廊下を歩きながら、窓を見つめて歌っていた。
「……What ……a glorious…… feelin(なんという素敵な気分か)」
太陽を見ていた。
眩しさに光の死んだ目を細めながら。
「……I'm…… happy again(幸せが込み上げてくるよ)」
――太陽が眩しかったから。
――だから、殺したんだ。
「……違うダろ?」
透は、起き上がった黒木にそう言葉を投げた。
顎が緩やかに治りつつある。超再生の発動が行われるたびに、黒木の筋肉がピクリピクリと震えた。全身に咲いた彼の黒い目が、一斉にこちらを向く。
拳を握りしめ、透は細く細く息を吐いた。ゆっくりと真っ直ぐに黒木を見据える。
「なア、黒木。違うんダよ。お前ハ、そんな理由デ人を殺したんジャない」
「……」
「怒っていタんだよ、オ前は。好きナやつを酷い目にあわサれて」
黒木の目が、見開かれた。
「怒っていタ?」
「あア」
「……違う。僕にハ、感情なんてナイ」
「バカ野郎。お前に感情ガないわけナいだろ。ちゃんと、感じテいたんダ」
――ただ忘れているだけで、最初から知っているんだよ。
透がそう告げると、黒木はあからさまに動揺し一歩下がった。
「お前は、カナデを好きだっタ。ダから、あいつらがしたコトを許せナかったし、彼女ヲ守れなかっタ自分ヲ許セなかったんだ」
だから、燃やしたんだすべてを。
自分たちを襲った不条理に、憎しみを向けて。
「あ……アアああアあァァ……」
黒木が頭を抱えて、呻き声をあげた。
「ち、違ウ違う違う違ウ違うチガう……。ボクは、ただ、正しいことヲしようとシただけだ。怒りなんかジャない。間違えた行いヲしたものハ、裁かれナければならない。ソウダロ? それガ、正義だ」
「ああ、そうダ」
「なのに、ナゼ僕が悪者扱いサれないといけなかっタんだ? カナデは、アイつらのせいで飛び降りて死のウとした。アイツらに壊されタんだ。ソレを、僕が裁いた。誰も、ダレもやらなかっタからだ! 僕がどうシて裁かれナいといけなかっタ? 十年以上僕ハ豚箱の中に閉じ込めラれた。なんで……ナんで!?」
支離滅裂な黒木の言葉を、透は静かに受け止めた。どうしてこうまで苦しんでいるのに気付けないのか。気付こうとしないのか。気づきたくないのか? 知りたがっているくせに、正解に近づくと拒絶する。
それだけ、黒木は傷ついてきたのだ。
忘れないと生きていけないほどに。
「……」
苦しむ黒木を見ていると思う。
――人を殺した人間は、幸せになってはいけないのか?
自分の首を絞めることにもなった、「人殺しは幸せになれない」という呪いは、はたして正しいのだろうか。黒木を襲った数々の不条理について思うと、螺旋のように歪んだその信念がゆらぐ。黒木は、人を殺した。それも一人や二人では利かない数をだ。だが、それでも――それでも透は、幸せになって欲しいと思ってしまった。
しかし――。
「……」
その想いは、叶うことはない。
「この不条理ヲ、許すこトはできナい。僕ハ、すべてヲ壊すんだ」
不条理の日輪が、彼の心情のうねりとともに激しく空転する。炎が中庭を包み、雷撃が天を焼き、氷結が空気を凍らせる。凍り燃える花木が暴風で踊る。まるで神話の世界のごとき光景。
大量の黒い羽が舞った。黒木の背中から黒い翼が生えた。天に手を伸ばす亡者のごとき勢いで踊り、空気を叩いた。轟然と風が啼く。地面の鳴動とともに校舎が震えあがり、窓ガラスが破裂し降り注ぐ。
「すべてヲ……すべテを壊すンだ!」
透は目を細める。
ゆっくりと吐き出した息が凍り、キラキラと輝く結晶は、すぐに熱にあてられて蒸発した。
すべてを出しきらなければならない。すべてを出しきらなければ、勝つことはできない。黒木を救えない。覚悟を決めて、魂を燃やし尽くさねば、こいつには届かない。
透の背中が、へそ側にゆっくりと丸まっていく。
――救済よ。
――俺に、翼を。
「あ、アアアアアア、アアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
絶叫とともに、弓状に弾けた背中から爆発的な勢いで血が噴き出した。赤き飛沫は白き羽に変わり、間欠泉のごとき血潮は天使の翼へと変質する。爆風が吹き荒れた。炎と氷が消し飛び、雷撃は風に呑まれて死に絶える。
救済が、羽化した。
蛹から神へと姿を変えたのだ。
「……」
二人は動かず睨みあった。
散り散りになった黒白の羽根が、雪のように舞い降りる。校舎の縁に触れ、割れた窓の中へ落ち、天変地異で圧し折れた木々にとまり、壊れた中庭を優しく祝福する。地面に落ちた羽根が溶けた。土へ染みてゆく羽根は命を生み出す神の雫へと変わった。花が咲いた。白と黒の花が、壊れた世界の静謐を優美に彩り、二人をモノクロームの楽園へ誘う。
……ああ、哀しい。
これが、最後の語らいになると分かるから。
両者の翼が、天へと伸びる。
透は右足を引いて、半身に構えた。脇を締め、右拳を後ろに回し、左手を開手して前へと突き出す。細い息を吐きながら、疲弊しきった精神を水底へ沈めていくように深くふかく集中させていく。
深くふかく。
深くふかく。
水底へ、意識が降りた瞬間――。
すべての静寂が、弾け飛んだ。
業風が唸りをあげた。両者の翼は空気を叩きつけ、膨大な砂塵が爆音とともに巻き起こった。無数の花が散る。楽園は破壊された。透は黒木とともに空気の壁を貫くような勢いで天へと駆け上る。風が冷たい。耳を削ぐような風が吹き抜けていき、校庭はみるみるうちに小さくなっていった。
中空で、ぶつかりあった。鉄球と鉄球をぶつけあったような鈍い音が空に響く。拳と拳が叩きつけられた。激痛が骨を犯す。ヒビが入った。かまわない。黒木の回し蹴りを紙一重で避け、前蹴りを打つ。かわされる。その勢いのまま壊れかけた右拳をふるう。黒木の耳を掠め、肉が飛ぶ。黒い拳。透の頬が浅く削れた。
「ガアアアアアアアアアアアアアァッ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァッ!」
両者は雄叫びをあげ、幾度も幾度も空中でぶつかりあった。かわされる打撃の残像が、白と黒の閃光と化し、薄暗い空に幾百の火花を散らせる。怒りが。悲しみが。絶望が。死への恐怖が――。血肉を吹き上げる拳足に、かわされる打撃のすべてに、喉を枯らす叫びに、身体を走り抜ける痛みに、あますことなく込められていた。言葉よりも雄弁なコミュニケーション。感情と想いの爆発。二人は深くふかくふかくふかくふかくふかくふかくふかくふかく、己の存在をお互いに刻む。
脳内に光が弾けた。
未来が、開けた。
無数にかわされるビジョン。変えられた未来を変えた未来を変えていく。積み重ねられる未来。激しく壊れゆく身体と血飛沫。戻り壊し戻り壊され戻り壊し戻り壊され戻り壊す。
これが、最後の未来変換――。
重なり合う未来は、早送りした高速道路の夜間走行の映像みたいに光の束となって疾走する。その最中に、一瞬の一瞬に、走馬灯のごとく黒木の記憶が流れ込んでくる。すべてが、カナデとの日々だった。灯火のように淡く儚く暖かい光景。笑顔と涙。そして、その光の先にいる黒木を視て、透は泣きそうになった。
――黒木……。
――おまえ、泣いているぞ。
真理に、辿りついた。
すべての光が透へと収束する。
金色の拳が、黒木の頬に突き刺さった。
「アアアアアアアアアアアアアッ!」
万感をのせた叫びとともに、透は落雷のごとき勢いで急降下し、黒木の身体を運動場のど真ん中に叩きつけた。轟音が響き渡り、大地が割れんばかりに震撼し、近くにあったゴールポストがひっくり返り、フェンスが折れ、電柱が倒れ伏す。巻き上げられた莫大な砂塵が世界の色を変えていく。
すべてが決した瞬間だった。
透と黒木。
二人の不毛な語らいは、砂嵐の中で終わりを迎えた。
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