Patient №5 教頭先生

僕らの学校の教頭先生は、一言で言うと、怖い。

校長先生は明るくて優しいけど、教頭先生は暗くて怖い。

校長先生は狸みたいに丸い感じだけど、教頭先生は狐みたいに細っこい感じ。

僕はちょっとだけ、教頭先生が、苦手だ。


手塚君は、よく図書室へ行く。

きっと、本が好きなんだと思う。

手塚君の事が気になる僕も、最近よく図書室へ行く。別に本は好きじゃないけど。


その日、図書室には、教頭先生がいた。


「あっ、教頭先生!あはっ、こんにちは!」


怖れ知らずの手塚君は、いつもの調子でニコニコと笑いながら、教頭先生に近づいて行った。


だめだよ、手塚君!

教頭先生に、そんな無防備に近づいちゃ!


「図書室では、静かにしなさい」

「・・・・ごめんなさい」


ほらみろ、怒られた。


一瞬、シュンとして俯いた手塚君だったけど。

教頭先生が持っていた本に気付くと、また笑顔で教頭先生に話し始める。


「教頭先生は、星が好きなんですか?」

「ああ、そうだよ。これでも一応、天文クラブの顧問をしているからね」

「そうなんですね!あの、僕も星が好きなんです。天文クラブ、一回行ってみても、いいですか?」


意外にも、教頭先生は、笑顔を浮かべていた。


僕、初めて教頭先生が笑っている所を見たかも・・・・すごいな、手塚君。さすがだよ。


「もちろん」

「ありがとうございます!絶対行きますっ、あはっ」

「いつでも来なさい。待ってるよ・・・・あは」


言ったとたんに、教頭先生は笑顔を消して、首をかしげる。

きっと、自分の言葉に、違和感を覚えたんだ。

わかる、わかるよ、教頭先生。

僕もなんだか・・・・すごく、気持ちが悪い。


僕は本棚の陰からドキドキしながら2人の会話を見守っていたのだけど。


「じゃ、僕教室に戻ります。本当に、絶対に行きますから、あはっ!」

「図書館では静かに!・・・・ふぅ、騒々しい子だねぇ・・・・あは」


教頭先生は、口に手を当てて、顔をしかめた。


「・・・・あは・・・・?」


まさかの教頭先生までもっ?!


僕は気持ち悪さを押し殺して、静かに図書室を出た。

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