1-4.特殊なプレイの最中だったかな?


 しばらく給餌きゅうじを続けていると、落ちついてきたらしい。スーリは小さな声で尋ねた。

「こんなふうにしてるのって、いやじゃないの?」

「こんなふうにって? きみをかわいいカンノーリにして、こうやってすっぽり抱きしめてること?」

 ジェイデンは笑いながら言った。「それなら、おれが好んでやりたいことのトップだよ」


「そうじゃなくて……。ダンゴムシみたいにじめじめしてること……。それに、ダンスも社交も苦手だし、練習だって乗り気じゃないし……」

「スーリ」

 それを聞いたジェイデンは、彼女の頭のうえにあごをのせた。「きみに貴族女性としてのふるまいをおぼえてもらってるのは、それが結婚するのにいちばんてっとりばやい解決策だからで、それ以上のことはなにもない」

「……」

「いまのところはきみが努力してくれてるから、おれも最大限支えるつもりだけど、方法はこれひとつじゃないよ。きみがなにひとつ自分を変えることなく、あの森の家で、おれといっしょに暮らす道だってある」


「でもその方法は、あなたが家族を敵にまわす道になる」

 スーリはくすんと鼻をすすった。「あなたにそんなことをさせたくはないわ、ジェイデン」


「いい子だ、スーリ。きみのやさしいところが好きだよ」

 彼女の鼻の頭に口づけて、ジェイデンは言った。「人がよすぎて、ちょっと心配になるけどね」

 それから彼は、スーリの耳の下に鼻をよせた。

「ひゃっ」

「くすぐったがりがなかなか治らないね」ジェイデンはかすかに笑った。「すこしずつ慣れていかないと」

「い、いかないと……?」

「先に進めない」

 ジェイデンのその言葉は耳にそそぎこまれ、スーリの耳を熱くした。甘い接触はずっとくり返されてきているが、彼の言うとおり、スーリはなかなかそれに慣れることができずにいた。

 夜にはこうしたいたずらはなく、優しく抱いて寝てくれるだけなのだが、ふたりきりの昼間になるとこのがはじまる。常人ばなれて辛抱強い、ジェイデンならではの中長期計画である。

「これはどう? くすぐったい?」

「だ……大丈夫」

「ぐるぐる巻きだと落ちつくのかな? 今日はもうすこし、このまましようか」

 ジェイデンはやさしいが、粘り強く、容赦ようしゃがない。スーリの反応をすべて拾って、どこまで進めるのか、ぎりぎりを狙っているのだ。


 毛布とジェイデンの腕にしっかりくるまれていると、接触へのとまどいが薄れるのはたしかだった。彼の顔はなかばスーリの首筋にうずめられていて、あごや鎖骨に彼の髪が触れるのがくすぐったい。やわらかそうに見えても男性の髪は固くて、自分のものとはちがう不思議な感触がする。

「でも……この格好って、ちょっとヘン……」

「ふたりきりなんだから、気にすることはない。……かわいいよ、スーリ」

 首筋を甘く噛まれると、また、ためらいの声が漏れる。ジェイデンは皮膚も唇も熱く、その体温で温められた彼自身の匂いがした。シダーとアーモンドと革にまじる男性の匂い……。男性が苦手なスーリが不快に感じない、数少ない香り。

 毛布の上から背中が撫でさすられ、大きな手がそのまま腰のほうへと伸び……。


 続きはどうなってしまうのかと、スーリがどきどきしながら待っていると、ふいにノックもなしに扉があけられた。


「おや。この部屋だと思ったが」

 おだやかな、やや高い男性の声とともに人影がさす。スーリはおどろいて寿司巻きのまま「ひゃっ」と声をあげ、ジェイデンはいいところを邪魔されたいらだちで、めずらしい不機嫌顔になった。

「……だれだ?」

「特殊なプレイの最中だったかな? 悪いね」


 にこにこと入ってきたのは小柄な男だった。りりしく男装した貴婦人のようにも見える美貌である。絹糸の金髪、はっとするほど青い目、柔和な笑顔。


「……ジョスラン兄さん」ジェイデンはひややかにそう呼んだ。




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