第二話 キリアンお兄ちゃんのひ・み・つ
2-1.帝都タリンと皇配殿下キリアン
さて、これからしばらくは、兄王子であるジョスランとその周辺の話になる。一行は、ロサヴェレを出てドーミアの首都タリンへと向かった。
ジョスランとアグィネア姫にくわえ、護衛役として騎士ディディエが帯同した。また、もともとドーミアへ行く予定だった大魔導士ルラシュクに、魔女パトリオも同行することになった。彼も〈塔〉所属の従魔導士なのだ。正直いって、こんなぎょうぎょうしい一行にご同行したくはなかったが、下っぱ魔導士のパトリオとしては、ほかにどうすることもできないのであった。
タリンは大陸にその名がとどろく、華やかな文化都市である。ドーミア帝国が大陸すべてを
ジョスランたち一行は朝早くに帝都に入ったから、パトリオも町の活気をぞんぶんに
気を利かせたディディエが早馬を送っていたので、帝国に冠たる
公的な訪問ではないが、ジョスランの身分を重んじて、
一段高いところにある玉座には、まだ女帝の姿はなかった。隣に立つのは、筋肉質で背の高い騎士服の男。
ジョスランが男に近づいていって、「キリアン。ひさしいね、元気だったかい?」
そう声をかけた。
男も段上から降り、ジョスランの前に立った。
「兄上も。急にいらっしゃるから驚きました」兄弟は再会をよろこび
「あれが、
ジョスランたちから数メートル下がって、パトリオはこっそりとそう確認した。
「さよう」
ディディエが指を折って説明した。「リグヴァルト王とフィニ王妃にはご三子がおられ、上から順に王太子ジョスラン殿下。つぎにキリアン殿下。そしてジェイデン殿下となる。キリアン殿下はドーミアのゼッピエラ女皇帝とご結婚なされた」
「はぁ。またちがったタイプですね、お兄上ともジェイデン殿下とも」と、パトリオは評した。
目の前に立つ男は、背はジェイデンとおなじくらいだろうが肩幅が広く、いかにも鍛えあげられた体格をしていた。顔つきは怖いくらいに
王太子に続いて、ディディエも近づいてあいさつをした。
「キリアン殿下。ご
「ディディエ」
キリアンの顔がぱっと輝いた。「無理を言って来てもらって、悪かったね。でも会えてうれしいよ。国を出てから、なかなか難しかったから」
「ご
「うん。ジェイデンも来てくれたらなあ。でも、あいかわらず忙しいのかい、わが弟は?」
「ジェイデン殿下はつねに、殿下のことを気にかけておられますよ」
「そう聞いてうれしいよ。……滞在中、うちの騎士団に
「殿下がおられますれば、無用のことと存じますが、ご意向とあらばぜひもなく」
キリアンとの会話を聞くに、ディディエはどうやら、三兄弟それぞれにとって師たる存在のようである。
「ジョスランどの、それにディディエも。よく参られた」
鈴が鳴るような愛らしい声がして、パトリオはそちらに顔を向けた。その場にいた者がいっせいに頭を垂れるので、あわてて
しゃんしゃんと
こっそりと顔をあげて、声の主を見る。ドーミア風の、襟を高く立てた
「いや、姫ぎみじゃない。彼女が女皇帝ゼッピエラか」
パトリオはこっそりとつぶやいた。
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