1-6.〇〇〇をそぎ切りにすんぞゴラァ
ふたたび、スーリの部屋へ。
「特殊なプレイの最中だったかな? 悪いね」
毛布でぐるぐる巻きにされ、しっかりとジェイデンに抱えこまれているスーリの姿に、そういうセリフになったらしい。小柄な男はゆったりした調子で室内をわたってきた。
紺碧に金の縫い取りもまばゆい、装飾的な上衣。実用性にとぼしそうな美々しい剣を
「……ジョスラン兄さん」
めずらしく不機嫌を隠さないジェイデン。「もうロサヴェレに着いたのか。相手の女性は?」
「ン? 相手の女性?」
「駆け落ちしてきたんだろう? ヘクトルが泡を吹いてたぞ」
「ああ。そうだったね」
ジョスランはやんわりとほほえんだ。「追っ手につかまらないよう、急いで来たものだから。……それで思い出したけれど、彼女と庭で待ち合わせていたのだった」
「待ち合わせ? とにかくその女性も、邸内に連れてきてくれ。無事に到着したなら、ヘクトルに引き合わせて、王都にも早馬で知らせなければ」
「そう言うけどねえ、ジェイデン、私たちは駆け落ちしてきたんだからね。母上たちに知らせるには早くないかい?」
王太子がそう言いかかったのと、「この、クソ〇〇〇野郎が」という低い怒声が響いたのは同時だった。
「なんだ?」
ジョスランは笑顔のまま、ジェイデンは不機嫌な顔で、声の主をふり返った。
「ン? なんだ、そうぞうしいね。田舎というのはあわただしくていけない」と、ジョスラン。
扉口に怒れる女神のごとくすっくと立っているのは、スーリとおなじ白髪の青年。大魔導士ルラシュクだった。
「うちの娘に手を出しておきながら、よその女を泣かせてるたぁ、いいご身分じゃないか、このヤリ〇〇王子が。※※※をそぎ切りにして、一枚一枚そのおきれいな顔の上に並べんぞゴラァ」
青年はドスのきいた低音でそうまくしたてると、手を刀の形にして下腹部のなにかをちょんぎるそぶりをした。
「ルラシュク……」
頭が痛くなりそうな下劣な罵詈雑言に嘆息しつつ、ジェイデンは指摘した。「お母さんが出てきてるよ」
「あれっ、そうでした?」
指摘されたルラシュクは鬼の
まったく困っていそうにない笑顔である。
「伯爵家の魔導士かい? 悪いけれど、私たちはいま大事な話の最中なんだよ」とジョスランが首をふると、「どなたか存じませんけど、僕だって家族の一大事なんですよ」とルルーが返す。ふたりとも女性とみまごう美貌なのだが、妙な迫力がある点が共通していた。
ひとが集まってきたので、スーリは寿司巻き状態の自分が恥ずかしくなり、もそもそと毛布をはいで立ち上がった。うっ、ひとがたくさんいる……。
部屋の中央にいるスーリとジェイデン。さきほど部屋に入ってきたジョスランに、今しがた扉口にあらわれた弟ルルー。ジョスランはもちろん護衛の騎士たちを連れていたし、ルルーはなぜか女性をともなっている。密……。
「それで? この姫ぎみとの関係について、説明してくださいますよね、ジェイデン王子?」
ルルーがにこやかに、しかし有無を言わさぬ調子で女性を押し出した。
「この姫ぎみ?」
そう言われて、ジェイデンはようやくといったふうに女性に目を向けた。「……ええと?」
スーリも彼とともに、目の前の女性をしげしげと見つめた。茶のまじったつやつやした金髪に、明るいハシバミの目をした、小柄でふくよかな体型の女性である。パンケーキを縦に積み重ねたようなシルエットに、レモンクリーム色のドレスがよく似合っていた。
「もうー、殿下ときたらはぐらかすのがお上手なんですから。王都で手をつけてた姫ぎみのひとりでしょ? 殿下をさがして、庭で泣いてましたよ」
たっぷりと嫌味をこめて、ルルーが言う。
ジェイデンが、ほかの女性を泣かせていた……?
けげんな顔で隣の男を見あげるが、ジェイデンもまた、困ったような顔をして首をふっている。
困惑するふたりといきり立つルルーをよそに、姫ぎみはすっと前に進み出た。
「王太子殿下」
と、優雅な所作で膝を折る。「勝手に邸内を歩きまわりまして、すみません。殿下をお探ししていたのですが、見つからず……」
が、その礼はジェイデンではなく、室内のべつの男に向けられていた。
「アグィネア姫」ジョスランがはれやかな声で名前を呼ぶ。
「すまなかったね、庭まで迎えに行かなくて。先に弟に、無事の到着をつたえなければと思ったものだからね」
「アグィネア姫?」
ジェイデンはぽかんと口をあけてくり返した。「兄さん、自分の元婚約者をつれて駆け落ちしてきたのか?」
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