4-4.騎士サー・ダンスタン、ディディエに勝負を申しこむ
「あわれな
「
ダンスタンはガチョウの青い目をまばたかせた。「友人だからな」
ディディエは――なんらかの理由で、このしゃべるガチョウを王子のそばに置いておくのは危険だと判断したらしかった。
芯まで黒い瞳をじっと見ひらき、王子にむかって「殿下」と口をひらいた。
「私は、殿下を城へお連れするうえで障害となるものを斬り捨てる許可を、リグヴァルトさまよりいただいております」
「どうぞ」
ジェイデンは平たんな声で応じた。「だが、彼はおれの友人だと言っておく」
それを聞いたディディエは苦い顔になった。この
「では、殺しはしませんが、羽は落としますぞ。殿下もオスカーさまも、そのあいだ、逃げたりなさらないように」
「手加減は無用」ダンスタンが言った。
ディディエの手前ああ言ったものの、ダンスタンは大丈夫だろうか? ジェイデンは平静をよそおいつつも心配になった。
「いざ、尋常に勝負」
「むん」
先に動いたのはディディエのほうだった。
最初は、ダンスタンの優勢に見えた――あまりに身長差がありすぎるので、ディディエが剣をうまく扱えないのだ。地面すれすれを
「うまくかわしてるな」
犬の唾液でべちょべちょになった顔で、オスカーがまじめに評した。男はいつでも勝負に真剣なのだ。
「ああ。……だけど、逃げまわるだけではディディエに打ち勝つことはできない」
ジェイデンには、ダンスタン側に攻撃のすべがないように見えた。ギザギザの歯がついた鋭いくちばしも、甲冑相手には役に立つまい。
真剣な顔で見まもる男たちの耳に、かつーん、かつーん、と固い音がとどいた。
「ん?」
オスカーとジェイデンは音のほうに目をこらした。小さくて固いものが、鎧にぶつかって立てる音。ダンスタンの首がすばやく動く。地面から石を拾い、クチバシをふって飛ばしているのだ。
「そのような小石でなんとする?」
ディディエが
こつん、かつーん。かしっ……。
「あれが、ダンスタンの策か?」
オスカーの声にあせりがまじった。「やばいな」
もちろん、ガチョウにしてはみごとなコントロールとはいえる。小石は的をはずすことなく鎧にぶつかりつづけるが、もっとも効果があるであろう顔までは届いていない。ガチョウの背の高さでは、そこまでの距離を飛ばせないのだ。おまけに、ディディエの剣はすぐに家禽のサイズに適応した。ちょこちょこと逃げるダンスタンの小さな体に、剣はひと太刀ごとに肉薄する。刃が陽光にきらめき、ふわりふわりと羽根が落ちてくる。
「では、約束どおり羽をいただくぞ」
幅広の剣がすばやく動き、二重三重にガチョウを狙った。
「ダンスタン!」
ジェイデンは思わず声をあげた。あの剣の軌道では、どう逃げてもいずれかの動きにとらえられてしまうとわかったのだ。
友人の惨状を想像し、決闘の仁義も忘れて思わず駆け寄ろうとしたが、――剣はねらいをそれ、返す動きもまた、ダンスタンに届くことはなかった。
「ムッ?」
ディディエは動きをとめた――ように見えた。左右に身体をひねろうとするも、水のなかを歩くかのように頼りない。ぐぐっと背をそらすと、甲冑の隙間から小石が落ちて固い音をたてた。
石は、甲冑のあらゆる隙間という隙間を狙って埋めこまれていた。それが、甲冑の可動域を極端にせばめたのだ。
「……なるほど。甲冑の隙間に小石をはさんだのか。先ほどの石は、攻撃ではなく……」
「ゴッ」ダンスタンは「イエス」というような音をたてた。
「評価をあらためよう。貴殿はたしかに騎士である。私の名はサー・ディディエ・ド・リラヴァン」
ディディエは姿勢をただし、あらためてそう名乗った。ダンスタンを決闘の相手として認めるという宣言だ。
だが、小石はディディエの動きを固くする以上の効果はない。激しく動けば、いずれほとんど落ちてしまい、その効果もなくなるだろう。
男はその場で身体を曲げのばし、小石をいくらか落としてから、すっと剣をかまえた。
「騎士として貴殿の動きを止める。覚悟めされよ、騎士ダンスタン」
「ダンスタン……」
ジェイデンは友人の顔を見て、あとは正攻法しか残されていないことがわかった。ディディエに
どうする?
ジェイデンには三つめの策があった。うまくいくかどうかまったくわからない、最後の、かなり卑怯な、苦肉の策が。だが、やるしかない。
彼は空をあおいで大きく息を吸いこみ、なにもない空間に向かって大声で叫んだ。
「大魔導士ルラシュク! ここに、スーリを
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