Ch.1 ひきこもり薬草医、プロポーズされる
プロローグ 姉からの手紙
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手紙が遅くなってごめんなさい。
このごろは、こちらの庭でもいろんな虫を見かけるようになったわ。春よね。土から虫が出てくるのを見るのはおもしろいわよね。あなたもそう思わない?
青虫を2、3匹飼っているんだけど、そろそろ蝶になるかと楽しみにしているの。だけど、ジェイデンがフクロウの子どもを飼っているので、油断できないわ。フクロウの話はしたかしら? 縦割りにしたりんごみたいな顔で、すごくかわいいんだけど、あの子、虫を食べるのよ。それにあいかわらず、わたしには触らせてくれないし……。動物には嫌われるし、ほんとうに、あの能力のせいで苦労しているわ。死者を
わたしもジェイデンみたいに、フクロウのふわふわした羽毛を触りたいのに……。しかたがないから、ダンスタンでがまんしているわ。彼の羽もなかなかのものよ。ただ、迷惑そうな顔をするのはやめてほしいけど。
ところで、冬ごもりにずいぶんお金がかかってしまったみたい。手もとにぜんぜんお金がないの。月頭に届く予定の医学書代が足りないので、送ってもらえないかしら? それと、月なかばには家賃もあるから、それもお願い。
追伸:青虫のスケッチを何枚か描いたから、送るわね。虫によってけっこう個性があって、かわいいわ。
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署名のない短い手紙を読み終えもしないうちから、大魔導士ルラシュクはぷるぷると手を震わせていた。
室内は昼でもうす暗く、
大国サロワの筆頭宮廷魔導士にして、大陸の魔術師たちの
そのうす暗い室内には、ルラシュクと小姓の少年がひとり、いるだけだった。利発だがやや口の軽い少年が、本のホコリをはらう手を止めて彼に話しかけてきた。
「あっ、お姉さんからの手紙ですか? よかったですね、最近お返事が遅いってお嘆きでしたもんね~」
「……」
「例の彼氏とはうまくいってるんですかね? 閣下のお姉さん、美人だけど男運がなさそうで心配ですよね~」
「……」
「あっ、またスケッチ送ってこられたんですか? あはは、お姉さん、個性的な絵を描かれますよね……」
そこで、小姓はようやく、青年のぶきみな沈黙に気がついた。「……閣下?」
小姓は「ひっ」と声をあげ、ハタキを手にあとずさった。大魔導士の怒りにみちたオーラに気づいたのである。
青白い光に下から照らされた不気味な角度でさえ、大魔導士ルラシュクは美しい青年だった。姉とおなじ
美しく、知性と威厳にみち、煮えたぎる油のように怒り狂っていた。
「お金が、ないって、どういうこと? ……姉さん?」
怒りのあまり、一語一語が短く区切られた。その声は、太文字表記ができないのが残念なほど、あたかも地獄からの呼び声のごとく、部屋にひびきわたったのであった。
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