⑨ある騎士の夢
火事の夢を見ていた。
こんな光景は見たことがないはずなのに、なぜこれほどありありと思い浮かべられるのか疑問にも思わないまま、ジェイデンはどこかへ歩いている。あちこちでまだ火の手が上がっていたが、粗末な家々のほとんどは焼きつくされ、黒焦げになってあたりに積み重なっていた。冷たい空気に、ときおり炎の熱気がまじる。木と石と肉が焼けるにおい。細かな灰が舞いあがって目を痛くする。
自分はなにかを探している。ただ歩くだけではなく、燃えおちた木材を固い足鎧でよけたり、泣き声が聞こえるあたりに行ってみたりする。自分の後を、数人の部下がついてきているのがわかった。
ジェイデンが探しているのは、黄金の卵だった。有望な人材。魔力を持つ者を求めていた。ここにいると聞いてやってきたのだ。
彼はそれを見つけた。
燃え落ちた家の
「お母さんと弟がいないの」
薄墨色の大きな瞳いっぱいに涙をためて、少女はそう訴えた。「怖い男のひとたちがたくさんいる」
「おいで。きみの家族をいっしょに探そう」
ジェイデンは少女の汚れた顔と手を自分のチュニックで拭いてやった。ぼろぼろの服の上から自分の上衣を巻いてやり、足指から血が出ていることに気づき、腕に抱きあげて進んでいく。
「これは、アーンソール王の記憶だ」
手が届きそうなほど近い場所から、若い男の声が聞こえてきた。ザカリーのものだ。
「騎士だったアーンソールもおなじことをした。子どもだったこいつを保護して、姫君のようにだいじに育てた……」
ザカリーは言った。「だが結局は彼女を食いあらし、怪物になってしまった。こいつの力は、宮殿いっぱいの黄金や古代の図書館とおなじようなものだ。人間性をかなぐり捨ててでも欲しくなる強大な力だ」
ひと呼吸ぶんの間。「あんたはあの男とどう違う?」
「ザカリー」
ジェイデンはまだ少女を抱いていたが、腕のなかの彼女ではなく、目の前の男を見た。
「おれがアーンソール王と違うというあかしは、今後のおれを見てもらうしかない。きみにあかしを立てることでもないしね。……だけどきみのことは言える。きみも、スーリとおなじような孤児だったんだね。魔法の力をもった……。だからおれを試そうとしている。おれがきみやスーリの味方かどうか知りたくて」
夢にしても、ずいぶん長い沈黙があったように思われた。
「……なんか今、あんたのことめっちゃ嫌いになったわ」
ザカリーの低体温な声とともに、夢はそのまま消え失せた。
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