④心が狭いって言われないか?


「……誰だ、この男は?」


 それが、応接間に入ってきた少年を目にしたジェイデンの第一声だった。


「この男って……なに言ってるの、ジェイデン? あなたほんとうに最近おかしいわ」

 スーリはあきれてため息をついた。「この子はメルよ、配達なんかを頼んでる……。あなたも知ってるって言ってたじゃないの」


「きみが言ってた使い走りのメルは、十三歳の子どもだろ?!」

 ジェイデンは腕をおおげさにひらいて抗議した。「こんな、6フィート(180cm)もある男じゃない」

「あなただって6フィートくらいはあるわよ」

「そういう問題じゃないよ。こんなの、子どもじゃない」


 ジェイデンに指をさされ、子どもはその6フィートの身体をちぢめて恥ずかしがった。

「ぼく、背ばかり伸びるんだ。牛乳を飲みすぎるから」

 ぼさぼさの茶髪に、緑がかったハシバミの瞳。見た目だけなら十八歳ほどの、ハンサムな青年に見える。顔立ちはあどけないが体格はたくましく、村娘たちがくすくす笑いしながら髪を撫でつけてやりたくなるような魅力があった。


「男が三人もいると、この家もせっまいな」ザカリーも王子に同意するふうだった。


「なにを言ってるの、子どもの身長が伸びるのはよろこばしいことよ」

 スーリはやさしい声で言い、少年の前腕をたたいてやった。「さ、書き取りちょうを見せてちょうだい。書斎に行きましょうね」

「うん」


「男を怖がるくせに、こういうバグがあるんだもんな。そりゃ、閣下も心配するはずだ」ザカリーのひとりごと。


「ダメだ」

 ジェイデンが憮然としてふたりを止めた。「そんな男とふたりっきりで書き取りなんて、絶対ダメだからな」


「ジェイデン。なにを言っているの?」

 両手を腰にあてて、スーリは対抗する姿勢になった。「子ども相手に、おとなげないわよ」

「第一に、どこからどう見ても、そいつは十三歳には見えない。第二に、たとえ子どもだろうが、きみとふたりきりにさせるのはイヤだ」


「そんな子どもじみたこと、よく堂々と主張できるな……」


「そいつがやるなら、おれたちだって書き取りをするぞ」

 ジェイデンは腕を組み、よくわからない脅し文句を述べた。「あの書斎の広さで、三人の男は入れないだろう?」

「いや、僕はやらないけど」意外とこまめにツッコミを入れている、ザカリーである。


「ほんとうに信じられない。なんでそんなこと急に言い出すの?」

 スーリはぷりぷりと怒って、茶を用意するために出て行った。6フィートある男たち三人は、道で偶然出会った猫同士のように、おたがいにさりげなく目をそらした。


「あんた、めっちゃ心が狭いな。そう言われないか?」

 フードの下からちらりと顔を出し、ザカリーが言った。


「二十年生きてきて、今日はじめて言われたよ」ジェイデンは眉をしかめたまま、そう答えた。

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