おまけ:コミュ強王子、魔女の周囲の男に嫉妬する(「冬のわが家」)

①よくないことになったわね


 うす曇りの空の下、スーリは庭に出て頭上をあおいでいた。


 初雪が降ってから数えて、ひと月ほど経った冬の一日のことである。家を囲む黒い木々の森にも雪がつもり、ぼんやりと白く輝いていた。灰色の空から、ときおり、ふわりふわりと雪が下りてくる。雪はおなじ色をしたスーリの髪や、灰色のシフトドレスの上で、しばらくのあいだ結晶をとどめていた。


 スーリは待っていた。


 バサッ……バササッ。


 羽ばたきの音とともに、雪よりも大きなかたまりがスーリの腕に降りてきた。純白のハトが一羽……また一羽。腕を差しのばし、彼らが休めるようにする。


 そしてハトの足首の輪から、小さな紙片を抜き取った。中は暗号文になっている。


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■フィリップ伯が王子を殺そうとしたんだってね。なんでその場に、姉さんがいたのかな? 至急説明求む。 (1/24)


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 読み終えると、マメや麦を放って食べさせてやる。一羽が終わると、次の一羽へ。


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■魔法は使うなって言っただろ!!!!!(2/24)


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 次の一羽。


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■<ノクス>のカバーも万全じゃないって、注意しなかったかな? 姉さんの頭のなかにはなにが詰まってるの? 犬の吐きもどしたオートミールかなにか?  

(3/24)


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 次の一羽。


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■<カニス>は当国うちからの亡命者で、身元はフィリップ伯が引き受けた。あいつは最初から、姉さんを利用するつもりだったんだ。<カニス>とおなじようにね。(4/24)


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 次の一羽。


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■家に男を連れ込んでるらしいね? マジで意味不明なんだけど。自分の状況、わかってる?(5/24)


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 次の一羽。


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■ほんとうに、まさかとは思うけど、例の頭ゆるふわ王子じゃないだろうね??(6/24)


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 次の一羽。


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■ちゃんと読んでる??? 姉さん???(7/24)


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 次の一羽。


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■すぐにそっちに使いをやるから。説明して。わかってるだろうけど、逃げても無駄だからね。(8/24)


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 ハト便による伝言は24通あった。8通目のあとも弟による執拗しつような追求は続き、「姉さんのことだから風呂にも入らずベッドでだらだらしてるにちがいない」とか(正解)、「ぜったい油買い忘れただろ? あれだけ言ったのに」とか(正解)、「ラズベリーのソースを食べこぼしてエプロンにシミができているはず」とか(正解)、さい穿うがちながら姉の生活を糾弾きゅうだんしていた。


「ソースの食べこぼしまで知られているなんて……おそろしいわ……」


 同居家族でもかくやという弟の情報収集能力に、スーリは身ぶるいするばかりである。


 紙片をすべて回収し終わると、手のひらにマメを出した。ハトたちは羽ばたきながら集まってきて、手の上から食事を楽しんだ。ハトの無邪気な様子とはうらはらに、スーリの憂いは深かった。


――すぐにそっちに使いをやるから。説明して。逃げても無駄だからね。


「これは……よくないことになったわね」


 どうしたものだろうかと、スーリは深いため息をついた。

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