さみしい夜のたべものたち
中靍 水雲
さみしい夜のたべものたち
あんぐりとひらいた口にクリームをつめてくだけの九時間バイト
どの味のおにぎりだって同じだしわたしの替えはたくさんいるし
かき消してしまいたいこの日常に修正のための飲むヨーグルト
ていねいにしなくてもいい焼き鳥も串に刺さったままでもいいよ
いつだってさみしさは穴 ドーナツがこの世でもっともさみしい真円
ゆきずりのファミリーマートの肉まんが赤ちゃんの肌にそっくりで泣く
背伸びした弁当くらい作ろうとしたのに力及ばず 無念
なぜ蝶は飛ぶのでしょうか 揚げ餃子の羽になりたく飛ぶのでしょうか
きらきらのジンジャーエールが好きだった 苦くて甘いんだっけ 忘れた
そっけないと冷たいは別 ビールにはひんやりとしたぬくもりがある
真向かいのスプリットタンが唐揚げを丸呑みしていく王将の夜
のぞきこむ塩ラーメンは透明で「これがあなた」と押しつけてくる
カステラの薄紙を食む いつまでが子どもでいつからおとなだったか
混ぜていくねるねるねるねいつまでも星の自転が酔っぱらうまで
やわらかな憂鬱として巻いていく卵焼きは光に似ている
味のりは猫の寝息やふきぬける風もいっしょに米とくるんだ
ケチャップでハートマークが描けなくて猫とごまかす ひとり吐く嘘
コロッケのころもがサクッというだけでうれしく思う 子どもみたいに
ふくよかなパンはひだまりのようで両手でつつみこんでしまった
もう一度やりなおしたい おにぎりは三角でなく丸にむすんで
さみしい夜のたべものたち 中靍 水雲 @iwashiwaiwai
サポーター
- つるよしの《受賞歴》カクヨムコン9【エッセイ・ノンフィクション部門】短編特別賞・第二回角川武蔵野文学賞ラノベ部門大賞。 コロナ禍を機に執筆開始。“作品は鈍器。物語とは「静と動」「喜怒哀楽」どの方向でも感情を激しく揺さぶるものでありたい”という性癖の物書きです。 または、たとえ短編であっても、読了後には映画1本見終わったくらいの充足感を与えたい。 なのでそういう作品を書きがち&読みがち。でも重い作品も多いですが全てをエンタメのつもりで書いています。 本業はギャラリー店主。リアル小説イベントも主催。
- 無名の人「愛される老人」を目指している自由人 (星の王子さまになりたかった元少年) です。 必要な人のもとへ、メッセージが届くことを願っています。
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