さみしい夜のたべものたち
中靍 水雲
さみしい夜のたべものたち
あんぐりとひらいた口にクリームをつめてくだけの九時間バイト
どの味のおにぎりだって同じだしわたしの替えはたくさんいるし
かき消してしまいたいこの日常に修正のための飲むヨーグルト
ていねいにしなくてもいい焼き鳥も串に刺さったままでもいいよ
いつだってさみしさは穴 ドーナツがこの世でもっともさみしい真円
ゆきずりのファミリーマートの肉まんが赤ちゃんの肌にそっくりで泣く
背伸びした弁当くらい作ろうとしたのに力及ばず 無念
なぜ蝶は飛ぶのでしょうか 揚げ餃子の羽になりたく飛ぶのでしょうか
きらきらのジンジャーエールが好きだった 苦くて甘いんだっけ 忘れた
そっけないと冷たいは別 ビールにはひんやりとしたぬくもりがある
真向かいのスプリットタンが唐揚げを丸呑みしていく王将の夜
のぞきこむ塩ラーメンは透明で「これがあなた」と押しつけてくる
カステラの薄紙を食む いつまでが子どもでいつからおとなだったか
混ぜていくねるねるねるねいつまでも星の自転が酔っぱらうまで
やわらかな憂鬱として巻いていく卵焼きは光に似ている
味のりは猫の寝息やふきぬける風もいっしょに米とくるんだ
ケチャップでハートマークが描けなくて猫とごまかす ひとり吐く嘘
コロッケのころもがサクッというだけでうれしく思う 子どもみたいに
ふくよかなパンはひだまりのようで両手でつつみこんでしまった
もう一度やりなおしたい おにぎりは三角でなく丸にむすんで
さみしい夜のたべものたち 中靍 水雲 @iwashiwaiwai
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。