99話 元婚約者、哀れな末路を迎える



 薮原やぶはら 貴樹たかきの元婚約者が、その後どうなったかというと……。


犀川さいかわ かすみ。

薮原の大学の、1つ下の後輩だった。


 彼女は薮原と将来結婚する約束をしていた。

 しかし彼が先に東京へいっている間浮気し、そして大学を卒業後に貴樹と別れた。


 一流企業【タカナワ】に就職。

 順風満帆な人生を送るはずだった……。


 しかし貴樹と別れてから次々と不幸が襲う。


 まず就職した初年度、2021年の夏に、タカナワの経営が傾いたのだ。


 もともとは大企業だったタカナワは、社長の不祥事をきっかけに事業縮小。

 

 その後は、一度倒産したものの、名前を変えてなんとか細々と存続していた。

 とはいえ、労働環境は事業縮小に伴い過酷の一途をたどっていった。


 少ない賃金で働かされ、残業は当たり前。

 かつての栄華はどこへやら、超ブラック企業へ落ちぶれてしまう。


 しかし2022年、かすみが就職して2年目の夏、ついにタカナワは完全につぶれてしまった。


 ……なんどもかすみは転職しようとした。

 だが受け入れてくれる企業はどこにもなかった。


『え、タカナワ? いやちょっと』

『あそこの評判悪いんだよねぇ』


 タカナワに勤めていたということは、相当評判を悪くしており、かすみは転職に失敗。


 さらに企業が完全に消滅後、再就職しようとしたが、失敗。

 同上の理由で断られてしまう。


 就職が出来ないのならば金を稼げず、借りていたマンションの家賃も払えなくなる。


 かすみは実家に帰ることを決意したのだが……。


『貴樹くんをまさか振るなんて』

『婚約までさせといて、浮気するなんて、いかれてるんじゃないの!?』


 父も母も、実は薮原の事をかなり気に入っていたのだ。

 かすみと彼の交際は大学時代の4年間ずっと続いた。


 その間にかすみの両親と会う機会が何度もあった。

 薮原の人柄と気遣いに、すっかり両親は心を開いていた。


 彼になら大事な娘を任せられる。

 かすみの両親は、すっかり義理の息子として薮原が来ることを期待してた。


 ……だというのに、娘が自ら薮原を捨て、さらにその裏で浮気していた。

 これを聞いた両親は大激怒。


 かすみは両親からの信用を失う。

 そして家の敷居をまたぐことを禁じられた。


 実家にも帰れず、再就職もできない。

 国立大学卒業という無駄なプライドのせいで、コンビニ等のアルバイトや、派遣業はできなかった。


 だがついに金が底をつき、恥を忍んで、ファミレスにバイトをしようと思ったのだが……。


『あー無理無理、君雇えないんだ』

『そんなぁ!? どうしてぇ!?』


『うちのお偉いさんから、君を雇っちゃダメって言われてるんだ』


 そのファミレスは、開田グループの傘下であった。


 旧財閥を母体とする超大企業、開田グループ。

 ファミレスだけでなく、コンビニやアミューズメント施設など、数多くの企業が開田の息がかかった企業である。


『なんか知らないけど君、たいそう嫌われてるみたいだね』


 とは、ファミレスの店長の発言。


 なぜ開田の偉い人に嫌われているのか?


 それは、岡谷 真琴の叔父の存在があった。


 実は真の叔父は、開田グループと深いかかわりがあった。

 詳細は省くが、真琴は開田の、遠いが関係者であるのだ。


 もちろん真琴本人はそんなことに気づいていない。


 だが開田グループの総帥である男は、何よりも一族を大事に思う男である。


 開田グループの親類縁者には、とても慈悲深い一方で、一族に牙をむいたものには鉄槌をくだす。


 薮原は真琴と結ばれた。

 真琴は開田グループの遠縁であり、薮原は入籍したことで、一族の仲間入りを果たした。


 グループの総帥は、彼を裏切った女であるかすみを、絶対に許さない。


 結果、かすみは東京での社会的な居場所を失ったのだ。


 ……この先、かすみは都会で働くことは二度とできなくなった。


 正社員としてだけでなく、派遣としても、アルバイトとしても、彼女は働くことが出来ない。


 彼女が取れる選択肢は二つの一つ。


 開田グループの息のかかってない、遥か秘境の地で生きるか。


 あまり公にできないような仕事につきながら、背中を丸くして、人々に後ろ指刺されながら生きるか……。


 いずれにしろ、もう二度とまっとうな生活ができないことだけは確定していた。


 一つだけ、たった一つだけ、現状を打開する方法があった。


 それは、薮原とよりを戻すこと。

 彼に許されれば、開田グループによる制裁を受けずに済む。


 しかし……残念ながらそれは不可能であった。


 今、薮原に、かすみの名前を出しても、誰それと言われる。


 そんなくらいには、薮原のなかから、かすみの存在は消えている。


 彼は今、幸せのさなかにあるから。

 もう、彼がかすみを振り返ることは二度とない。


 ……結局のところ。

 かすみの不幸は、おのれの愚かさが招いたのだ。


 薮原という婚約者がいながらも、彼に故郷を捨てさせたくせに、浮気してしまったから。


 彼女が生き地獄を味わう羽目になったのは、自業自得なのであった。

 

 ……その後、彼女の行方を知る者はいなかった。




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【★あとがき】


新作が公開されました!


タイトルは


『俺に甘えてくるヤンデレ義妹が、元カノの妹だった~潔癖症の恋人に振られた日、瓜2つのギャルが妹になった。今更もうやり直せない、君がさせてくれなかったこと全部してくれる小悪魔な彼女に身も心も奪われてるから』


です。


内容はタイトルのまんまで、


•両親が再婚して義妹ができる。


•別れた恋人の双子の妹だった


•ヤンデレでエロい義妹と二人きりの同居生活スタート


と言うものです。


興味を惹かれた方は是非そちらの方もよろしくお願いします。


リンクはこちら

https://kakuyomu.jp/works/16816927860130559865/episodes/16816927860186720722

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