俺に甘えてくるヤンデレ義妹が、元カノの妹だった~潔癖症の恋人に振られた日、瓜2つのギャルが妹になった。今更もうやり直せない、君がさせてくれなかったこと全部してくれる小悪魔な彼女に身も心も奪われてるから

茨木野

1話 恋人にフラれ、ヤンデレ義妹を助ける

「ごめんなさい、亮太りょうたくん。別れましょう、私たち」


 それは夏休みも終わりに近づいてきた、ある日。


 夕暮れ時の、遊園地前のゲート付近で、俺は彼女にそう言われた。


「は……? み、みしろ……? 今、なんて……?」


 俺の前にいるのは、黒髪で清楚な少女、梓川あずさがわみしろ。

 高校2年生。17歳。


 長い黒髪に真っ白な肌。

 黒真珠のような大きな瞳に、驚くくらい小さな顔。


 その美貌に加えて、文武両道、成績優秀な彼女は、学校一の美少女と誉高い。


 ついたあだ名は【天使】。

 見た目、性格もあいまって、みんながみしろを天使と、愛称で呼ぶ。


 俺……飯田いいだ 亮太は、そんな天使の、恐れ多くも彼氏だった。


 人生で初めてできた彼女。


 1年の時から頑張って、ついにこの春、やっとできた恋人から……。


飯田いいだ 亮太りょうたくん。私と、別れてください」


 ……別れ話を、切り出されたのだ。


「は? え、な、なんで? みしろ……なんで? どうして!?」


 知らず声が大きくなってしまう。


「ひっ……!」


 みしろがおびえた表情で俺から距離を取った。

 ぶるぶる……と体が恐怖で震えている。


「あ、えっと……すまん」

「いえ……ごめんなさい。男の人に大声出されるの、怖くって」


 みしろが自分の体を抱きしめるようにしていう。

 自分のカノジョからそんなふうに怖がられるのは、地味にショックだった。


「訳を……訳を教えてくれ、みしろ。俺がなにしたんだよ? 今まで俺達、うまくやってたじゃないか」


 高校一年の時から、みしろとは同じクラスになった。

 彼女と俺は同じクラス委員に抜擢された。


 ふたりでいろんなクラスの仕事をしていくうちに、お互いすきになって、そして告白してOKをもらえた。


「亮太くんのことは……好きです。今でも」

「じゃ、じゃあどうして……?」


 俺は一歩彼女に詰め寄る。


 一歩、みしろは後ろに下がる。

 ……俺は拒まれてるみたいで、ショックだった。


 だが逃げないでほしい、ちゃんと、俺の話を聞いてほしい。


「どうして、わかれるなんて言うんだよ。教えてくれ」


 俺はみしろの両肩をつかむ。


「…………!」


「俺の何が気に食わないんだ? 直せるところなら直す。何か気に障るようなことをしたのなら謝る。だから……別れるなんてそんなこと……」


「いやぁああああああああああああああああああああ!」


 ばちんっ! と頬に強い衝撃を感じた。


 え……?

 なに……? なにが、あった……?


「近寄らないで!」

「え……?」


 俺は、遅まきながら気づく。

 涙目のみしろ、そして、傷む左の頬。


 ……俺が、みしろに叩かれた?


「ご、ごめんね亮太くん……ごめん、ごめんなさい……でも……無理なんです」

「む、無理って……何がだ?」


「男の人が、無理なんです」


 ……一瞬、何を言ってるのか全く理解できなかった。

 男の人が無理?


「……私、人に触れられるのが、ダメなんです。特に……男の人は、蕁麻疹が出るレベルでダメなんです」


 みしろは服をずらして、俺の触れた肩の部分の素肌を露出する。


 本当にぶつぶつとしたできものができていた。


「マジ……なのか」

「はい……」


 思えばみしろは、学校でもずっと白い手袋をしていた。

 みんなはおしゃれだと言って気にも留めていなかったが……。


 人に、男に、触れないための処置だったのか。


「で、でもなんで? どうして……俺と付き合ってたんだよ?」


 男が苦手ならなおの事、俺と付き合っていた理由がわからない。


「亮太くんは……他の男の子と違ったからです。優しくて、思いやりがあって……何より、他の男子と違って、私を性的な目で見てこなかったから、です」


 みしろはスタイルもいい。

 狙っている男子はめちゃくちゃ多く、またそういう目で見てしまう者も多い。


 クラスの男子たちは、みな天使の美しい体にくびったけなのだ。


「私……お父さん以外の人と、触れられなくて。お医者さんに診てもらってもその原因がわからなくて、ずっと病気の事、隠してきたんです」


「そう……だったんだな」


 しばし、俺たちの間に沈黙が流れる。

 みしろは潔癖症、しかも男に触れることができない。


 彼氏彼女として付き合っていく上で、それはあまりに酷だ。


 キスも、ハグも、その先も……できないということ。


「ごめんなさい。私、あなたに何もしてあげられません。彼女として、失格です。あなたに申し訳なくて……だから……」


 ぼろぼろとみしろが涙を流す。

 だから別れる、ということか。


 確かに恋人関係にあるのに、そういうことができないのはつらいし、カノジョからすれば役割を果たせてないみたいに感じてしまうのだろう。


 だが……それでもだ。

 俺がみしろを好きな思いは、変わらない。


 たとえ触れられないのだとしても。


「だ、大丈夫だよ。気にすんなって。俺、我慢するから、キスもハグも、手をつなぐことも!お前に触れることは全部我慢する、だから……だから!」


「ごめんなさい」


 またも、みしろが俺を突き放す。


「どうして!? お前の嫌なことは絶対しない、約束するから!」

「無理です……」


「俺の何が!?」

「あなたも、結局他の男の人と、一緒だったから……」


 ……またも冷や水を浴びせられる。


「……亮太くんは、クラスの誰よりも紳士でした。いやらしい目でみてこないし、気安く触れてこない。この人は特別だって、そう思ってました。期待、してました」


 ……なんで、過去形なんだよ。


「だって亮太くん……彼氏になった途端、すごく、求めてきたじゃないですか」

「いや、だってそりゃ、そうだろ……」


 みしろから潔癖症の事を聞いたのは、今初めてなのだ。


 普通、彼氏となったら、カノジョとずっとそばにいたいって思うだろう?

 キスも、ハグもしたいって思うし、手だって触れたいし……。


「極めつけは、今日。観覧車で……押し倒してきたじゃないですか」

「!? あれは事故だろ!?」


 さっき最後に、観覧車に乗った。

 風に吹かれ、ゴンドラが揺れた。

 俺はみしろに覆いかぶさるような体制になってしまったのだ。


 あのときもたしかに、突き飛ばされたな……そういえば……。


「……あなたは違うって思ってたのに、がっかりです」

「違うよ! 本当に事故だったんだ! 俺は無理やり襲う気なんてなかったよ!」


「……でも、いずれはそういうこと、したいんですよね?」

「そ、」


 それは、そうだ。

 当たり前だ。俺は男だぞ? 初めての彼女が出来たんだぞ?


 性欲だってある。キスだってしたい。抱きしめたい。それ以上のこともしたい。

 そう思って当然じゃないか。


「がまんするってさっき亮太くん言いましたけど、どこにそんな保障あるんですか? ないですよね? だから……ごめんなさい」


 みしろはそう言って踵を返す。


「さようなら」


 彼女は一人走り去っていく。

 俺は追いかける気に、なれなかった。


「……なんだよ、それ」


 あそこまで、人から拒絶されたのは初めてだ。

 病気なら仕方ないと、あきらめるとまで、覚悟まで見せたのに……。


 それすら、拒まれた。


「ふぐ……うう……うぐぅうう……」



 愛するカノジョから拒まれ、別れ話を一方的に押し付けられた。

 俺は悲しくてただ涙を流すことしかできないのだった。


    ★


「鬱だ……死にたい……」


 遊園地からの帰り道、俺は夜道を一人歩いていた。

 本当に最悪の気分だ。

 

 死にたい……と、そのときだ。


「やめて! 離して!」


 人気のない路地裏から女の声がした。

 なんだ……と思って、俺は声のする方へと顔を出す。


 そこにいたのは……。


「み、しろ?」


 先ほど俺事を拒んだ元カノが、そこにいた。

 彼女は男数名に絡まれている。


 ナンパでもされたんだろう。


 ……しかしみしろにしては、髪の色が違う気がした。

 服装もどこか違う気も……。


「助けて! 誰か!」


 ……俺は立ち止まり、どうするか考える。

 俺を振った女を助けるべきか否か?


 答えは、簡単だ。


「おまわりさぁああああああああああああん! ここです! こっちで暴漢が女の子を襲ってますぅううううううううう!」


 俺は全力で警察を呼ぶ、ふりをする。

 さも警察官をつれてきたみたいな演技をした。


「げえ!」「くそ!」「おい逃げるぞ!」


 男どもが蜘蛛の子を散らしたように逃げていく。


 あとにはみしろだけが残された。


「おい、大丈夫か、みしろ?」

「みしろ……?」


 俺はうずくまるカノジョに近づいて、そして、気づいた。


「違う……おまえ、似てるけど……みしろじゃねえ」


 ふわっとした髪質に、茶色のミディアムヘア。

 ミニスカートと、少し気崩した服装。アクセサリー。


 どれも梓川みしろが身に付ける者じゃない。

 だが、恐ろしいまでに、みしろとは顔が似ているのだ。


「あの……助けてくれて、ありがとう」

 

 みしろそっくりな彼女は、深々と頭を下げて俺に言う。


「わたしは、ゆづき。飯田いいだ 夕月ゆづき


 ……それが、のちに俺と一つ屋根の下で暮らすことになり、俺から【初めて】をことごとく奪っていくことになる少女。


 義妹、夕月ゆづきとの出会いだった。





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