AfterStory1-2 容易に干支に頼ってはいけない
結局のところ、瑠理香からメモ帳を奪うことはできなかったがその中身は社長とのやり取りだと聞かされ納得した。
その後他のものを取り出してとりあえずは邪魔にならないよう部屋の端に置いておいた。
まだ昼時。一日仕事であったり、楽曲制作であったりに追われていたので完全な休暇を設けると如何せん暇だなと感じてしまう二人。
そうだと何かを思い出した彼女は仕事部屋に入り、袋に入った服を持って来た。
「実はさ、友理ちゃんとこの前ネットショッピングしてたときに将太郎さんの分買ってみたんだよね。私より詳しい友理ちゃんも推してくれたものだから、絶対似合うと思うんだけど」
なかから出てきたのは、二十七歳の男が着ていたらすこし恥ずかしい可愛い動物を模した部屋着だ。
「なにをもって僕みたいな人間に似合うと思ったのか是非とも教えて頂きたいものだけどね」
「えー、だって今年寅年じゃん。いつもは温厚な将太郎さんが虎みたいな猛獣になるところを今年は見たいかなーって」
「何バカなこと言ってるの。友理さんにも同じこと言ったんじゃないだろうね」
「さすがにそれはしてないよ。友理ちゃんは単にこういう服を着ているところが想像できない将太郎さんだからこそ、見てみたいって言ってくれただけだし」
「絶対似合うって話はどこいったんだよ……」
彼はこれを着るのかと瑠理香が持つその部屋着をまじまじと見る。もちろん一日だけでもいいから試せと言われれば、その場のノリで着ることなんて問題はない。ただ、彼女が必ず写真に収めると確信している場合、それがどこまで広がっていくのかわからない。
たとえば、SNS方面でいつものようにマネージャーとの記録として世に出された場合、この姿がフォロワーのみならずその他拡散先にまで見られることになる。それはさすがに恥ずかしいと彼は悩んでいるのだ。
プレゼント自体は珍しいものではないが、共に街に出て買い物ができない以上今回のように相手がいる状態で合うかどうかを考える方が現実的なものは殆どなかった。そのため、そこにちょっといたずらしてやろうという思いがあったとしても、受け取ってあげたい気持ちも彼のなかにはある。
「約束してほしいんだけど、絶対に写真をネットに上げないっていうなら」
「あー、そういわれると思ってもう皆には告知してまーす!」
「なにしてんの!?」
「だってもう二人の動画上げ始めて約一年でしょ。歌録りながらだからそこまで数は多くないけど、だからこそこれが好きだって人がいてさ。今となっては将太郎さんが見たいって人もいるぐらいなんだよ。需要と供給ってあるから」
「いやいやいや……マジか……」
こうなってしまっては逃げ道がない。瑠理香のファンを裏切るわけにはいかないし、告知したのなら日程延期しようとも実行するのが仕事。この場合は延期なんてものは存在しないが。
諦めたようにため息をついて立ち上がる将太郎。静かにそれを受け取って着替えるよと服を脱いだ。
社長のつてでプロから教わった自宅で出来る簡単なトレーニングを継続しているおかげで整った腹筋は羨ましい。
瑠理香はつい手が伸びて触っている。
「本当好きだよね、触るの」
「私のために頑張ってくれたから嬉しいんだよねー。過程も見てたし。最初の頃は食事制限もしてたからさ。あとやっぱり力があるっていう安心感がいいよね」
「それはどうも。でも、着るからもうお触り禁止ね」
手に取った服の柄は可愛らしい虎。フード部分には耳までしっかり模されている。
心のなかで再度ため息。それから意を決して被る。
なかまで温かくて季節にはぴったりだ。
「どうかな?」
「可愛いよ! 写真撮ろう」
さっそくスマホを取り出して正面から後ろから何枚も撮る瑠理香は喜びが満ちた笑顔でとても楽しそうだ。
将太郎も初めはどんな姿で映っているのかわからず困った様子であったが、彼女の反応を見て喜んでもらえたならと表情も明るくなっていった。
「あげるときはちゃんと顔映らないよう気を付けてよ。この前ちょっと危なかったんだし」
「あれはヤバかったね。事務所の人に確認してもらうようにしててよかったよ」
「……ちょっと待って。そうだよね、ひとつひとつ事務所に確認してもらってるんだよね。てことはこれも?」
「もちろんだよ。もう送ったし。大丈夫だって女の人だから」
「なんの理由にもなってないよ。あー、絶対明日いじられるじゃん」
忘れていた最悪の可能性に気付いて頭を抱える将太郎であった……。
君と僕《マネージャー》との同棲生活 木種 @Hs_willy
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