AfterStory1-1 四年目の落ち着き
将太郎が瑠理香から愛を告白された日からちょうど一年。
事件後引っ越した新居でゆったり炬燵を囲んで二人はくつろいでいる。顔を出さない以上歌番組への出演も限られており、特別忙しいということもない。
ここから全て始まったのだからと瑠理香が今日はもうなにもしないと言って、それに乗る形で将太郎も仕事の手を止めたのが三十分前だ。
「ねえ、あの時渡した紙どうしてるの?」
「もちろん残してるさ。僕も瑠璃があんなに真正面から恋愛を捉えた詞を書くところ初めて見たからね。それも含めてレアだし、あとたまに読み返してる」
「ちょっ、恥ずかしいからそういうのは言わなくていい!」
結局のところ部分修正したものをリリースすることになっているため特別感は薄れてしまうが、彼にとってはそんなことどうでもいい。
当時、全く恋愛経験のなかった瑠理香が一文字一文字悩み、書いては消しを繰り返した愛のこもっている字を見られたらそれだけでいいのだから。
あの日以来二人の距離はより一層近付いた。
こちらに越してきてからもショート動画であったり、日常の切り抜きであったりを定期的に投稿している。隠しきれない関係の良さにコメント欄ではいつ交際発表するのかといういじりの込められたものが一定数見受けられるようになった。
また、顔出しをせずメディアにも露出が少ないことから声だけでも良いから配信をして欲しいという要望が多数寄せられ、時折スタジオを借りて行っている。
これは雑音から住所を特定されないための処置だ。
ただし、今日はそういったサービスも全て放り投げて自由の日。
余裕があるというのにわざわざ彼にぴったりくっついて肩を寄せているのは見ているだけで火傷しそうなほどアツい。
「それにしてももう僕たちが正式に交際を始めてから一年が経とうとしているなんて、あんまり実感が湧かないな」
「今までも一緒に過ごして料理も作りあってたからね。でも、あのときは反応薄かったのに、今では手料理ひとつひとつ味わってくれてる感じがしてすごくうれしいよ」
「別に元々微妙だったことはないけど、格段と上手になっているからね。毎日食べている分変化があれば気付きやすくて、ついついありがとうって気持ちが溢れちゃってるんだと思うよ。意識したことはないから」
むしろ無意識で一口食べては頬をほころばせていたなら嬉しさ倍増だ。
瑠理香はニヤニヤが止まらない。
「あっ、そうだ。実は今日社長からいろいろと荷物届いててさ、お正月近くは友理さんや他の新人ちゃんたちのことで忙しかったみたいで渡せていなかった新年の祝い品が入ってたんだけど、これなにかわかる?」
そう言って近くに置いていたそれをパッと出す。
ちらと見た瑠理香は一度目を離してすぐ二度見した。
「あー、そ、それね。なにってことないよ私が昔使ってたメモ帳ってだけだから返してくれない?」
「なんだか怪しいなー」
わかりやすく言葉に詰まったところを見てすぐ疑いにかかった彼は手に持っているメモ帳の中身を確認しようと、一枚ページを捲ったところで素早く反応した彼女に掻っ攫われてしまう。
「なになに、そんなに焦っちゃってさ。もしかして、僕への歌の練習がたくさん載ってあるとか? それともそれに類似した言葉がつらつら書き出されているとか……」
「ほ、本当に中身見てないんだよね?」
「そこで下手に嘘なんかつかないよ。だから今ものすごく気になって仕方ないんだ、その正体が」
どうにかして暴いてやろうと近くにいる利点を生かして強く肩を抱き寄せることで逃がさない将太郎。
歓喜に見舞われながら絶対に渡してやるものかと服のなかに落とす瑠理香。
一瞬胸元に手を突っ込みかけた彼も我に返ってその手をあと一歩のところで留める。
「私ももう成人してるし、付き合っているんだから別に遠慮なんて必要ないと思うけど?」
「それはそうだけど……ねぇ……」
担当マネージャーとして関わり続けるなら超えるべきか悩む一線。
その葛藤を瞬時に察した彼女はここぞとばかりにいやらしい笑みを浮かべてからかっている。
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