第6話 ノート
「え、ど……どうしたんすか」
「これ、忘れてたから……巻くんの妹さんが上がってて良いって言ったから……それじゃ」
そう言い捨て、日野は部屋を出ていった。呆然とする俺の耳に、ドタドタと階段を降りる音が部屋に響く。ベッドの上には、見覚えのない淡いピンク色の大学ノートが無造作に置かれている。頭が混乱状態でこの状況をうまく飲み込むことはできないが、このノートをは開くべきだと脳が判断したのだろう……自然と手がそれに伸びていく。
「お兄ちゃん」
声の主はサリ。ずっとそこにいたのかは定かでないが、ドアの前でニヤニヤしながら俺の方を見つめている。長年の付き合い……というか誰でも分かるも思うが、明らかに人をこれからからかうって顔だ。からかい100m走のスタート地点で、クラウチングスタートの体勢を維持してる絵が瞬時に頭に浮かぶ。
「女の子を家に呼び出すなんて、カミングスプリングでございますか、お兄様? しかもえろう滞在時間短かございましゅうてぇ?」
「何弁だよ……てかお兄様なんて初めて呼ばれんたんだけど」
「質問には答えなサイサイ」
俺の頬をデコピンしながらサリはそう言った。余裕で痛い。何でデコピンなんだよ、指ツンツンとかじゃないのかよ普通は。
「分かったよ……」
事情を話さなければ、この状況は永久に終わらないことは経験則で知っている。観念して説明するしかない。
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「忘れ物……って勘違いしたってこと? え、それだけ?」
「そうだよ、その人も今日転校してきたばかりで俺と関わりなんてほぼ0だし」
「う〜ん……でもわざわざ届けに来るって……こりゃ相当だね」
「何がだよ」
「んじゃ」
サリは手を振りながら部屋を出た。当然大宇宙だとかミクネリだとかは話していない。あくまで転校生が忘れ物を俺のものだと勘違いして届けにきた、とだけ。あれやこれや話したら、さすがのサリでもドン引き待ったなしだろう。
「さて……」
そう、問題はこれだ。目をやるのは突然置かれた見覚えのないノート。忘れ物だと言われたが、俺のものでは無いし……というかわざわざ忘れ物を家にまで届けに来る時点で違和感を感じる。度を超えた親切さを持ち合わせているのか、あるいは……。ノートを開く。
"妄想の世界で、あなたと何度も会っています。"
一ページ目。たった一言、そう書かれていた。大きく殴り書きされたような文字。他には、何も書かれていなかった。
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