第5話 自室にて
「疲れた……色々ありすぎだろ」
疲労感に吸い寄せられ、制服のままでベッドに横たわる。特に変わり映えの無い毎日を送ってきた俺にとって、今日はイベント過多にも程があった。天井を眺めていると、浮かんでくるのはあの顔。日野ミク……いや、ミクネリか。何だか突然不思議な異世界に送られたような気分だ。とは言っても、別に魔法が使えるわけでも、可愛い女の子に囲まれるわけでは無いのだが。
「ミクネリ」
いつものように大宇宙が広がる。当然、ミクネリもそこにいる。だが、今日はいつもと様子が違う。明るく出迎えてくれるわけでもなく、ただ少し遠くで俺の方を睨んで座っている。赤い目もいつも以上に赤く、少し涙をためているように思える。
「……どうしたんだよ」
恐る恐る聞く。そうすると、ミクネリは低い声で答えた。
「……鼓動」
「へ?」
「ここにいると、ヒビキの鼓動を感じるの。今日は、ピンクの鼓動をずっと感じてた。ピンクの鼓動……ヒビキ、誰かのことずっと考えてるでしょ……私以外の誰かに」
誰かのこと……か。それが誰かなのかは、日の目を見るより明らかであろう。日野ミクである。今日の俺の感情は、彼女によってひたすらに揺さぶられてきた。当然彼女にそんなつもりは無いだろうが、誰でもこんなことになったら誰でも動揺するだろう。
「日野ミク……? 誰それ」
明らかに語気を強めたミクネリ。いつの間にか彼女の視線は俺へ一直線となっており、その強さに思わず顔を覆いたくなってしまう。俺もそこまで鈍感じゃないし……というより先走った勘違いを繰り返してきた部類の人間だから、彼女が怒っている理由は分かっているつもりだ。今日の出来事を特に隠す理由など見つからないし、嘘をついてもこの大宇宙ではすべてお見通しである。だから、俺は事の顛末を割と細かく彼女に説明した。
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「何か、あんまり信じられないけど嘘じゃないみたいだね」
「そう、だから考えちゃうのは仕方ないだろ。性格以外全て同じだったんだからさ」
「ふうん……」
話すうちに、ミクネリがいつもの調子に戻っていくのを感じた。少し不機嫌なのは変わらないままだが、5分前ほどの明らかな殺気は発していない。ちなみに、妹と2人出かけた後もミクネリがこんな感じになっていてなだめたりした。つまるところ、不機嫌になったミクネリへの対処は割と慣れている。
「じゃあ、俺もう寝るからさ」
「うん……あの、もう喋らないでね、その子と」
「喋る機会なんてないよ、じゃあな」
もう眠い。そう思って現実に戻ったその瞬間、俺は今日何度目かの信じられない光景を目撃した。
「……こんばんは」
立っていたのだ、日野ミクが。俺の部屋の、俺が寝転ぶベッドの横で。
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