第4話 帰り道
それからの学校は、特に大きなイベントが起こることなく放課後となった。もしかしたら俺が学校の案内を任されるかもしれない……なんて思ったりもしたが、普通にクラスの女子数人が日野を連れて案内していた。彼女もすっかり馴染み、クラスの皆と楽しげに会話を交わしているのが散見される。見た目以外は”THE JK”という感じで、第一印象こそ大人しめであったが、結構冗談も積極的に言って皆を笑わせてようだった。何で俺がこんなに詳しいかだって……?そりゃずっと机に顔を突っ伏して寝てるフリしているからだ。その時間、俺は教室で交わされる会話全てを聞き分ける高性能盗聴器と化す。キモがられる要素しかないが、何せうちの学校はスマホ・ゲーム機類・漫画等の持ち込み厳禁なのだ。加えて、小説を読むほど文字好きではない。そして、大宇宙へと行くにも、短い休み時間に行くのは危険だ。あの世界から戻るのは、あまり簡単なことではない。だから、こうするしかないのだ……俺の中では。
「マジで!? あ、私部活やばいかも!ごめん、じゃね!」
「うん、じゃあね!」
明るい声が、放課後の教室に響く。夕陽に照らされたその顔は、曇りのない笑顔だ。光速で俺を飛び越し、すっかりクラスに馴染んだ日野。最初はアルビノだなんだと騒いでいたのに、すぐに馴染ませるクラスの連中もすごいな。まあ、割と良い奴しかいないからか……何だか劣等感が加速していく気がするので、もう辞めておくか。
「バイバイ!」
見た目は全くミクネリと同じだが、中身は違う。ミクネリと日野についても考えるとおかしくなりそうになるので、もう意識して考えないようにしている。人生で一回くらい、奇妙を極めている経験はあるものだろう。
「よし……」
俺も帰るとするか。とにかく、寝たい。今日が全て夢だった可能性も捨てきれないからな。
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帰り道。学校から駅まで徒歩で15分。駅から電車で20分。そこから家まで徒歩で10分。計45分。うち、20分。そう、電車の中で事件は起きた。というか、進行形で今も起きている。少し混んでいる電車で、日野ミクが俺が座っている場所の目の前で吊り革を持ち、下を向いて立っているのだ……何でだよ。電車組だったんかい……てか何で平然と立っていられるんだ? 目の前にクラスメイトいるんだぞ? 中途半端に喋ったからこそ、滅茶滅茶気まずいだろ……誰か助けてくれよ。俺の作った空想が、吊り革持って立っているんだよ……。
「あの……朝はお世話になりっ……いや、てか、え? ありがとう、ございまし、たっていうか……じゃあね!」
「あ、ちょっ……!」
俯いてゴニョゴニョと喋り、俺が降りる一つ前の駅で瞬時に電車を降りていった。何か返そうにも返せなかった。赤くなった顔を隠すように、急いで電車を降りる日野。クラスにすっかり馴染み、フランクな会話を繰り広げていた、放課後までの彼女の面影はそこには無かった。
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