第3話 日野ミク
「じゃあ、日野はそこの窓際の一番後ろの席……巻の後ろの席だな、新しい机用意するからちょっと待っててくれ。力ある男子、隣の教室から机持ってきてくれるか」
宮武の一声に、「はい! はい!」と何人かの男子が廊下に駆け込んだ……という訳にはいかなかった。直前の盛り上がりとは対照的に、教室は静寂に包まれている。それもそのはず、日野ミクと名乗るその少女のビジュアルは、よくいる日本の女子高生のそれとは全く異なっている。白い肌に赤い目、そして白い髪。
「アルビノ……?」
誰かの声が教室に響いた。まさにそうだ、アルビノだ。今まで現実の世界で見たことが無い見た目をしていて、何だか神々しい雰囲気すら感じる。教室全体が見たことないものへの驚きに包まれる一方、俺は"見たことあることへの驚き"でおかしくなりそうだった。そう、見たことがあるのである。何故なら、目の前の転校生はミクネリなのである。見た目がそっくりなんてレベルではなく、全く同じなのだ。……一体何が起こっているんだ?
「おい、誰かいないのか……じゃあ俺が運んでくるからちょっと待っててくれ」
宮武が少し溜息をついたあと、教室を出る。その瞬間、たかが外れるように教室にどよめきが巻き起こる。「マジで!?」「本当にいるんだ!」「すげえ!」と様々な声が飛び交う。一番前の席の男子が日野に直接話しかけているのも見える。「え、日本人だよね?」「はい、日本生まれ日本育ちですけど……」とのこと。教室の皆のリアクションは、ただの驚きから珍しいものを見れた歓喜へと移行していた。
「何だ……? 戻ってきたら妙に騒がしいな。 じゃあ日野はここ、席な」
「はい」
喧騒の中、日野の席が俺の後ろへと配置される。何だか後ろに一席だけ出っぱったような形となっている。そして、日野がすぐに席についた。尋常じゃない緊張感が俺を襲う。心臓の鼓動がはっきりと聞こえるほどだ。何故自分がこれほどまでに緊張しているのか、理由ははっきりと分からない。とにもかくにも、緊張と動揺を抑えることに集中するしよう。自分の空想と同じ顔の人物が現れるなんて、絶対に有り得ないって話でも無いだろ。嘘か本当か放っといてネットでもたまに聞くし。
「あの……」
「うへ!?」
突然後ろから肩を叩かれて、保とうとしていた平常心は一瞬で崩れ去った。情けない声が出たが、教室がうるさいおかげで他の人には聞こえていない……はずだ。後ろを振り向くと、本当に近い距離にいる。ミクネリ……ではなく日野ミクだが、同じ顔が真っ暗な世界でなく、教室にいる。それだけで、何だか違和感、緊張感。
「あの、よろしくお願いします……」
「ああ、よろしく、お願い、しま……すう」
一体、どうなるんだ? モノクロだったはずの俺の日々は……。
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