第2話 邂逅
「お帰り、お兄ちゃん!」
「ただいま」
帰ってくると、いつも出迎えてくれるのは妹のサリだ。肩までかかるくらいの茶髪に、大きな眼。完璧に、美少女と言えるだろう。加えて、控えめな身長ときたもんだから、通っている中学校でもしょっちゅう告白されるらしい。俺とは真逆だな、本当に。血、繋がっているのか?
「お母さん、来月まで帰ってこないってさ! 2人きりだね!」
「そうなんだ」
「反応うっすいな〜!」
口を尖らせて俺の方を睨むサリ。当然彼女がどんな返答を欲しがっているかは分かっているつもりだが、いかんせんこのやりとりももう飽きてきたのだ。何故なら、母親は帰ってこないことなんて日常茶飯事……というか、本当に日常なのだ。母親は仕事で世界中を飛び回っていて、そうそう家に戻ってこない。だから、母親の高い収入で作られた一軒家は、実質的に妹と俺の2人暮らしとなっている……一軒家に子供2人は、さすがにオーバーキャパシティだ。ちなみに、物心がついたころから父親はいなかった。俺が生まれてまもない頃、父親が不倫して離婚することになったらしい。
「あれ、もう上行くの? お弁当買ってきてるよ」
「明日の朝食べるよ、部屋でやることがあるんだ」
若干不貞腐れるサリの視線を尻目に、階段を上がっていく。自室に着いてベッドに横たわる。今日はいつもより疲れたみたいだが、ルーティンを欠かすわけにはいかない。
「ミクネリ」
「おかえり」
すぐに広がる大宇宙。数時間ぶりの再会だ。そっぽを向いて体育座りをしている。思えば声色も普段より低かった気が……何か怒っているのか?
「だって、急にいなくなっちゃったからさ……私を置いて、変なおじさんのところに行っちゃうしさ」
「……あれは仕方ないだろ」
大宇宙だ何だと言っていようが、側から見れば、俺は独り言のうるさいヤバいやつなのだ。この世界にいれば、時間も場所も忘れてしまう……だからこそ、突然外から声をかけられると毎回テンパってしまう。こんなんだから、生涯ぼっちな訳だな。
「そう、ヒビキには私しかいないもんね」
打って変わって、ご機嫌なミクネリ。いつの間にか立っていて、ニヤニヤしながら俺の顔を上から覗いている。彼女は、表情も声色も機嫌も……何もかも、いつでも気まぐれだ。俺の心は常に彼女の読まれているというのに……俺が彼女の心を読むことは、到底できない。
「ああ、そうだな……」
そんな彼女が……ミクネリが、好きだ。
#####
昨日は結局、あのまま寝てしまった。教室の窓から差し込む太陽が、あまりにうざったい。窓際の一番後ろの席……まさに「主人公席」になれたのはラッキーだが、眩しいのは苦手だ。そんな、眠さと眩しさでテンションを下がっていく俺とは対照的に、クラスメイトたちのテンションは最高潮だ。本日は2学期の初日で、転校生が来るらしい。しかも女子。別に、転校生が来たからと言って何かが変わるわけでもないってのは皆経験済みだろうに。
「おはよう!もう知っている連中も多いようだが、今日は転校生がうちのクラスに来るぞ」
ドアを勢いよく開け、担任の宮武が教室に入る。普段なら溜息が聞こえるところだが、聞こえるのは男子たちの鼻息。逆に、女子はつまんなそうにしているのがほとんどだ。
「どうも、初めまして」
そんなことを考えているうちに、転校生が颯爽と現れた。長い白髪に大きな赤眼の少女。白い肌に、白いワンピースを着ている少女。華奢で小さな少女。……俺の理想の……え?
「
そう言って、少女は深々と頭を下げた。
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