末代の重宝
アンダーザミント
末代の重宝
「
「御所さま。つい昨日『先に御台がごらんなさい』って仰せになったばかりではありませんか」
「そうでしたね……。でも、わたしも読みたい」
「お気持ちはしかと承りました。されどもう少しの間お待ちいただけませんか」
御台所は気に入った歌をひそかな声で口にのぼせながら、じっくりと書を眺めている。その傍らで実朝は、微笑みを
夏も深まる六月の初め、五月雨が去り、吹き込む風が含む暑さが更に増してきた。
実朝はこの数か月前、流行り病の
御台所は、これでさらに病の鬱屈が晴れるなら、と願っていた。ところが、何故か「どうぞ、先にごらんなさい」と譲ってきた。それなら、と広げてはみたものの、やはり夫が傍らから見ているのを感じる。
「それなら、なにゆえわたくしが先に、と仰せになったのですか」
「ああ……、」
実朝は、御台所の少し後ろから、衣が触れんばかりの近さまでにじり寄っていった。
「こうして、御台が読んでいるところを見たかったからですよ。それに、わたしが先に取ってしまったら我を忘れて読んでしまいますから。……だから、一緒に読もうと思いました」
御台所は顔を伏せ、まあ、と小さく声をあげた。
「わたしがこのような面になっても、御台は受け入れてくださいました。そのことがただ嬉しかったのですよ」
十七歳と十六歳の夫婦は、気が付けば
末代の重宝 アンダーザミント @underthemint
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます