蚊は幼馴染の彼

なるとし

蚊と幼馴染の彼

 あかりを消してベッドで横になったら必ずヤツが訪れる。


 プーン


 この音を聞いたら眠気が一気になくなってしまう。明日は朝早くから学校で委員会の仕事もあるから寝ないといけないのに。


 狙ったように私の耳を執拗に攻めてくるこの蚊は、あかりをつけると、すばしこくその姿を消すんだろう。


「殺虫剤でも撒いてから寝ちゃおうかしら」


 と、考えた私は、明かりをつける。この耳障りな蚊を殺してやる。


 だが、蚊は部屋が明るくなってからも私の耳を責め続ける。


「ルミ……ルミ!」


「え?この声は、サトルくん?」


「ああ、サトルだよ、ルミ。だから僕を殺さないで!」


 小学生だった頃、私を交通事故から守ってくれたサトルくんだ。私の幼馴染で私の好きな人。私を救って、代わりに車に轢かれあえなく命を失った可哀想な人。


 蚊になってしまった彼を見てふと涙が流れ出た。


「なあ、ルミ」


「なに?サトルくん」


「ルミの血が吸いたいんだ。ルミが欲しい……」


 蚊になったとはいえ、サトルくんが私を欲している。そして、私もサトルが欲しい。


「いいよ。吸って。私の血を思いっきり貪って」


「ああ、大好きなルミの血を吸わせてもらうよ!」


 そう言ってサトルくんは私のうなじに自分の針をぶっ刺した。普段は何も感じない蚊の吸血行為だけど、サトルくんが吸ってるとなると身体が熱くなってくる。


「サトルくん……激しい」


「ちゅう!ちゅる!ちゅうう!ん、ルミの血、美味しい」


「もっと、もっと吸って……」


「ちゅう!ちゅううううううう!」


「はあっ!」


 彼が私を貪っている。昔、私を救ってくれたサトルくん。今度は、私が助ける番よ。


「はあ、ルミ……気持ち良すぎて僕、幸せすぎる」


「遠慮せずにもっと吸って……心ゆくまで楽しんで」


「はあ、はあ……ルミ!!!!!!!ちゅううううう!!!!」


 サトルくんは渾身の力を込めて私の血を食べている。


 が、


 ブッ


 サトルくんは爆発してしまった。血を吸いすぎてお腹が破裂したんだろう。


 私のうなじからはサトルくんが吸っていた血が流れている。針は刺さったまま。死んだはずなのに、ビクビク動いて私の血をまだ吸い出そうとしている。


 私は流れる血を指ですくってそれを口に入れた。


「サトルくん大好き」


 蚊を殺す事に成功した。

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