第63話 愛しています

「好きですよ」


「ソフィーのことは?」


「好き」


「ルードのことは?」


「好き」


「サリ殿のことは?」


「ばぁちゃん、大好き」


「····」


 何故に無言。今の質問はいったい何の意味があったのか?

 私が首を捻っていると、部屋の扉がいきなりガチャっと開いてメリーローズが顔を出した。


「お主ら!まどろっこしいのじゃ!ここは妾が!」


 と叫んで、誰かに後ろに引っ張られたのか、姿が見えなくなり、扉が閉まった。

 何でメリーローズがここにいるのだろう。


「なんでメリーローズがいるの?」


「いや、話の続きをしてくれ」


 このなんとも言えない雰囲気で、さっきの話の続きだって?メリーローズがここに何故いるのかは後でいい。まずはジュウロウザが何を聞きたかったかということだ。


 あの時に私が好きだと言った事を聞いていなかったとは思えない。

 シンセイからは多分私があの場で好きだとジュウロウザに言った事を注意されたのだと思うから、シンセイに聞こえていたということは、ジュウロウザに聞こえていなかったことはないだろう。


 ジュウロウザを仰ぎ見て、考える。うん、好きだという想いに変わりはない。では、何がダメだったのだろう。



 ······よし!わかった。


「ジュウロウザ、好きですよ。ジュウロウザに頭を撫ぜられると心が温かくなるから好き。私が迷惑をかけても、こうして気遣ってくれるのは嬉しいと思うし、だから、これからも私の側に居て欲しい」


 私はジュウロウザの左手をとって両手で包む。いつも私を支えてくれる大きな手だ。

 そして、ジュウロウザに向かって微笑む。


「モナはジュウロウザを愛しています」


 一世一代の告白だ!私の思いの丈をぶつけたのだから、これで文句はないだろう!


 ······


 何故に返事が無い。扉の向こうが騒がしい。特にメリーローズ!

 何が『直撃ズキューン』だ。意味がわからない。


 ジュウロウザは無言のまま私の頭を撫でて、立ち上がったあと、扉の方におもむき開ける。すると、数人が雪崩のように部屋に崩れて入ってきた。

 っていうか、シンセイ以外のメリーローズ、ルアンダ、シュリーヌ····ルナまでもいる!なんでいるの?意味がわからないのだけど?


「出ていけ」


 ジュウロウザが一言発すると蜘蛛の子を散らすように、4人が出ていった。確かにここは離れだから部屋の数は多めにあるけど、もしかして彼女たちはここに泊まっている?


 顔を赤くさせたジュウロウザが戻ってきた。そして、私を抱きしめる。


「本当は村に戻ってから言うつもりだったのだが」


 ああ、あの時言いそうになった死亡フラグね。


「モナ。愛している。だから、俺と夫婦めおとになってくれないか?」


 おふっ!まさに死亡フラグ!あの時口を塞いで正解だった。

 ジュウロウザはそう言って、私の髪に何かをつけた。なんだろう?

 ふふふ、ジュウロウザから贈り物だなんて、嬉しいな。


「はい、嬉しいです」


 あ、おかしな返答をしてしまった。こういう場合はYesだけでいいんだよね。心の声が混じってしまった。


 そのあと、一通りの説明をして、常闇の君が女神の欠片の夫である創造神であることをわかってもらえた。あと、エルドラードの愚策に忠告をしていたとも付け加えた。

 常闇の君は常識がありそうなのに、なぜエルドラードはあんな感じになってしまったのか。あれではエルドラードの一部で創られたリアンも歪むよね。



 そして、私はジュウロウザに手を恋人つなぎに握られ、部屋から居間の方に移動した。そう、ジュウロウザとは手を握る事ができたのだ!


 カウチソファに座る私の目の前には大人の姿のメリーローズ。剣士の動きやすそうな姿から布地の旅人の服装になったルアンダ。際どい踊り子の服装から、布地の多めの踊り子の服装になったシュリーヌ。聖女見習いの服装のままのルナ。4人がこの場にいた。


「姫。またしても不甲斐ない老兵をゆるしてくだされ」


 その4人の前にはシンセイが床に跪いていた。不甲斐なくないから。シンセイは頑張ってくれたよ。


「シンセイさんはちゃんと守ってくれましたよ。だから、不甲斐なくありません」


「ぷーぷー」


 と、ノアールもそうだと言わんばかりに私の膝の上で鳴いている。


「で、なんでここに4人がいるわけ?」


 私の質問に一番に答えたのが、ルナだった。


「あんたにお礼が言いたかったのよ。それとお金があまりないのよ!」


 お礼が言いたかったと言うには偉そうだな。


「あんたのおかげで目が覚めたわ。元々のわたしの目的を忘れるところだった。わたしはリアンを利用して聖女になることが目的だったのに、いつの間にかルルドに行くことが目的になってしまっていたわ」


「ご両親のことはいいの?」


「良くないけど、今の私じゃ行けないって事がよくわかったから、お父さんとお母さんは必ず生きているって信じることにしたの」


 そう言って、ルナは立ち上がった。


「私は絶対に聖女になってセイト聖人様の側に立ってみせるんだからね」


 そう言って、ルナはここを出ていった。私に聖女になる宣言をしたかっただけのようだ。でも、セイトって誰?


「私とルアンダでありますが」


 今度はシュリーヌが話しだした。


「二人で歌い手と踊り子として世界中を旅してみようと思っているのであります」


 ああ、だから二人はそんな格好になったのか。うん。その格好の方がいいと思う。

 そして、二人は立ち上がって私に頭を下げてきた。


「この度は私達を助けていただきましてありがとうございました。助けていただいたこの生命で自分のなすべきことを成したいと思っているのであります」


 そう言って二人も背を向けてここを去って行った。去り際に『私達の力が必要となればお呼び下さい』と言葉を残して。


 ここに残ったのはメリーローズだけだ。私はメリーローズに視線を向ける。すると、メリーローズが立ち上がり、『これを見るのじゃ!』そう言って、ゴスロリのレース増々のドレスの裾を持ち上げ、生足を見せつける。


 あー。メリーローズの左足には金色の花びらが散っていた。


「妾も守護者となったからのぅ」


 いや、これ以上守護者はいらないでしょ。お帰りをお願いします。





 今日はリリーの結婚式。無事今年のお米の収穫を終え、収穫祭と結婚式を同時に開催するのだ。秋晴れの晴天の中、人々が食べ物を持ち寄り、リリーとキールの結婚式を祝う。



 あれからメリーローズを連れて村に戻り、まずはフェリオさんにリアンの事を話した。

 色々問題があったが、我が子の事だ。神妙な顔をしてリアンの母親のトゥーリさんとリアンの弟のルードには自分から話すと言ってくれた。


 家に戻って母さんと父さんにも今回の事を報告した。二人はリアンの話は残念だと言っていたが、新たな守護者の話になると


「『アーテルの魔女』ですって!ちょっと相談に行ってくる」


 と、毎度ながら何を相談しに行っているのか、わからない母さんが家を慌て出ていった。

 ルナの言葉で気になったセイトの事を父さんに聞いてみると、メリーローズの方が詳しく教えてくれた。流石300年生きた魔女。


「今の聖人セイトになって150年ぐらいになるのぅ」


 は?150年?セイトは人じゃなくって長命な種族?


「まぁ。そう言えばそうじゃのぅ。守護者を持つ者は神の威を持つものじゃ。ただ人ではなかろう。その前の聖人セイトは二人の守護者がおったから300年を生きたと言っておったか」


 ん?


「今の聖人セイトは守護者は一人じゃからあと50年ほどかのぅ」


 なんだかおかしな事をメリーローズが言っている。


「それって、守護者によって生きる年数が変わって来ているってこと?」


「そうじゃ」


「じゃ!私は?」


「お主の生命と侍じゃろ?老兵に魔女じゃ。ドラゴンは何年生きるのかのぅ?」


 え?それって千年単位?それは魂も歪むよ。私がうなだれている横でジュウロウザは『ずっと一緒にいられるな』なんて言っているが、それは母さんも慌てて相談しに行くよ! 


 なんてことがあったが、今ではそれも受け入れることにした。この村を見守っていけるならそれもいいかと。下手をするとエルドラードに絶滅させられるからね!





 村では花嫁しか着ないドレスを着たリリーがキールに手を引かれ皆の前に出てきた。ドレスの色は好きな色を選ぶ事ができるのだけど、私がリリーにドレスは白でとゴリ押しをしたおかげで、少しふっくらした天使が私の前に現れた。


 素晴らしい!トゥーリさん!最高!

 フェリオさんからリアンの話を聞いたトゥーリさんは落ち込んでいたけど、今日は元気な姿を見せてくれた。


「リアンは神様の元に行ったのね」


 トゥーリさんが少し寂しそうに話しかけてきたけど、私はかける言葉が見つからなかった。あんなリアンでもトゥーリさんの前ではいい子だったのだ。




 この村では神への誓いというものはしない。ただ、村の人にお披露目をするというだけ。

 ああ、英雄とエルフの姫様の祠には挨拶には行くけど。英雄の元があのエルドラードだとわかると頭をさげたくないなぁ。


「モナ」


 キールに連れられたリリーが私の前にやってきた。キールは天使なリリーの側にいてとてもご機嫌だ。リアン殺害宣言をした同一人物だとは思われない。


「モナ。ありがとう。私が生きているのはモナのおかげ、そして、この新しい命が生まれるのもモナのおかげ」


 そう言って、リリーは少しふっくらしたお腹を撫ぜる。


「ありがとう」


「私はリリーが幸せになってくれることが一番だからね。キールわかってると思うけど私のリリーを不幸にしたら許さないからね!」


「わかってる。モナ」


 デレデレの顔で言われてもなぁ。そして、二人は私の足元にしゃがみ込んだ。いや、英雄とエルフの姫様に礼を取る姿勢になった。

 リリー!お腹が!


「我らのこの生命は全て姫様のために」


 あ゛?!


「私は姫って名前じゃないけど?それ、嫌いだって知っているよね?」


 私が二人に低い声で言うと、二人して苦笑いをして私を見た。


「やっぱり、モナよね」

「やっぱ、モナだな」


「何が!」


「いいのよ」

「いいんだ」


 二人して何がいいのだ!リリーとキールが立ち上がって声を揃えて言った。


「「モナがいいってこと」」


 意味がわからないし!二人はクスクスと笑いながら、他の人の挨拶に行く。その二人の背中を見ながら、ふとモナ彼女の事が頭に浮かんだ。


 ゲームのモナはリアンの言葉を信じながら、リリーの。そして、ソフィーの結婚式を見ていたのだろう。それに重ねたのは誰だったのか。モナに結婚をしようと言ったリアンだったのか。それとも会いたくて会いたくて仕方がなかった常闇の君か。

 まぁ。私はモナ彼女ではないから、彼女の心情なんてわからないけどね。


「モナ」


 ジュウロウザに声を掛けられ隣にいるジュウロウザを仰ぎ見る。


「何?」


「春の収穫祭は俺たちの結婚式をしよう」


「ふぇ?」


「なんだか羨ましそうに二人を見ていただろう?」


「羨ましいっていうか。二人が幸せそうで良かったなって、それから、モナであった彼女は幾度この場に立ち会ったのだろうと。今は彼女も幸せだったらいいなって思っていたの」


「きっと幸せだろう。俺もモナを幸せにするから」


 そう言ってジュウロウザは微笑んでくれた。ふふ、なら私もジュウロウザを幸せにしてあげよう。


「じゃ、私は和国に連れて行ってあげる。転移で行けば直ぐだよ」


 そう言って私はジュウロウザに口付けをする。そう、マップスキルと転移スキルを用いれば和国に行ける。ゲームでは飛行船で和国に入れたもの。こっそり入国すれば良いのだ。

 それで、ジュウロウザの故郷に行って本物のサクラを一緒に見よう。ジュウロウザがくれた五弁の花の髪飾りを着けて。



 そう思っていると、空から何かが降ってきた。白い雪?花びら?いや、これは私の記憶の奥底にある風景。桜の花びらが空から舞い降りてきている。


『やっぱりモナちゃんだよねぇ。魔王を討伐してくれる気になったんだね。門出を祝って君の好きな花を贈ってあげるよ。守護者も増えたから完璧だよね』


 そんな声と共に降ってきた。村のみんなが何が起こったのかと空を見上げている。


「クソエルドラード!誰が魔王の討伐なんてするものか!降りてきて殴らせろ!」




 そうして、私が魔王の討伐に行くのは別の話。


 めでたしめでたし····って、幼児ステータスから脱却していないのに魔王討伐って、全くめでたくなーい!



______________


数ある小説の中からこの作品を読んでいただきましてありがとうございました。

この作品を読んで読者様に楽しんでいただけているのであれば、嬉しいかぎりです。


☆評価をしてくださいました読者様ありがとうございます。


応援をしてくださいました読者様ありがとうございます。



いつもの倍投稿でしたので、いつもより誤字脱字が多いと思います。チェックしていますが、すみません目が節穴で。




本当にここまで読んでいただきましてありがとうございました。


ご意見、ご感想等がありましたら、よろしくおねがいします。

面白かったと評価をいただけるのであれば、下の☆☆☆で評価をお願いしたいですm(_ _)m

誤字脱字だらけの面白くない駄文評価なら申し訳なく。次にいきます!



追伸

別のサイトで番外編か魔王編をと読者様からお声をいただきましたので、続きを書こうかとは思ってはいるのですが、カクヨム様の読者様からの要望があれば、こちらも続きを載せさせていただきます。

白雲的にはきれいに着地できたので、このままでも良いかと····。

続きと言っても第1部で一旦手を止めた『乙女ゲームの世界の話』の続きをこれから書くのでまだまだ先になりますが、それでもよろしければ····

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勇者の幼馴染枠のヒロイン〜幼女並みのステータス?!絶対に生き抜いてやるんだからね!〜 白雲八鈴 @hakumo-hatirin

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