第62話 主神エルドラード

神界 side


「すごいね。予想外も予想外。これは流石に僕もわからなかったね。まさか、神域に魔祓いのスキルを使うなんてね。そうは思いませんか?父上」


 白金の髪に金色の目をしたエルドラード神が楽しそうにしながら、後ろのモノに話しかける。


「この魂を返しておく」


 モナから常闇の君と呼ばれた者はエルドラードと同じ金色の目で可哀想な子を見るような視線でエルドラードを見つめている。


「別に返してもらわなくて良かったし、母神の守りにと僕の一部を人の身に与えただけだしね」


 返してもらわなくてもいいと言いながらもエルドラードは小さな光の珠を手の内に収めた。


「お前の魂だからこそ、あそこまで歪んでしまったのだろう?」


「ええ?!酷いな。まるで僕が歪んでいるみたいに言わないで欲しいよ」


 エルドラードはニヤニヤしながら答える。それに対し、ルギア神は呆れたようにため息を吐いた。


「何れはお前に全てを譲ろうと思っていた。お前が世界に亀裂を入れて、世界を闇で満たさなくても、良かったのだ。神に近づことした種族を根絶やしにしなくても、何れあの者達は自滅をしていた。お前は何もしなくても良かったのだ」


 ルギア神は知っていたのだ。己が狂う原因となった世界に亀裂を入れたのが目の前のエルドラードだということを。そして、己の愛する者に封じられようとも、彼の目は世界を見ていた。

 世界の一部となった愛する者がとある種族に転生し続けていることも、その知識を用いて繁栄していることも、それが何れ破綻し崩壊していくことも。


「我らはこの世界の底で眠りにつく。あまりいたずらをしすぎると我がその座に戻るということを覚えておけ」


 そう言ってルギア神は消えていった。消えていったルギア神がいた場所を見て、笑った。エルドラードは心の底から笑った。


「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」


 さも可笑しそうにお腹を抱えて笑っている。


「何を馬鹿なことを言っているのか。僕が手を下すことに意味があるんだよ。貴方からこの座を奪い取った。神に近づこうとする愚かな種族に鉄槌を下す。僕が封印を施した場所を探ろうとする者は国ごと消滅させた。僕が一番えらいんだってね」


 待てば全てが転がり込んでくることよりも、自らの手で行うことに意味があるとエルドラードは笑いながら言う。ここにはもういないルギア神に向けて。


「そうだよね。萌ちゃん?自分は弱いからと言って、うじうじと安息の地に引きこもるより、一歩外に出る勇気。そして、前に進もうとする心って大事だよね」


 エルドラードはここには居ないはずのモナに向かって話しかける。


「本当に君を選んで良かったよ。転生を繰り返す、煩わしかった母神を導いてくれた。年々闇が深くなって封印が保たなくなりそうだと思案していた父神も、君が神域を作り出して魔祓いを使うから父神の闇も払ってしまった。極めつけが歪んだ魂をどうしようかと思っていたものも回収してくれた。僕の采配は完璧だったってことだね」


 モナが行ったことは全てエルドラードのおかげだと言いたいのだろうか。

 いや、確かにエルドラードが萌という人物をモナとして転生させたことには間違いはない。


 エルドラードが采配したと言ってもいいのかもしれないが、それは全てモナが村の外に出て旅をした成果だと言っていいはずだ。モナがモナ自身で考え、行動を起こしたことにより、神から祝福を得て、この結末にたどりついたのだ。


「あ、でもどうしよう?リアンの魂を回収してしまったから魔王を倒せる者がいなくなっちゃったね。モナちゃん、ちょっと行ってきて倒して来てくれないかなぁ?君ならできるよ」


 モナがいないにも関わらずエルドラードはそこにモナがいるようにニヤニヤとして話している。きっとモナがここにいれば『巫山戯るな』と言っていたことだろう。


 くして、モナはモナとして生きる道を確立したのだった。めでたしめでたし。











「ふっざけるな!!!」


 私は思わず叫び声を上げる。


「何が魔王を倒して来いだって!お前が創り出したんだから、てめぇーが倒してこい!」


 全部エルドラードの所為じゃないか!


「モナ?どうした?」


 気がつくと私は横になっており、その私を上から見ているジュウロウザがいた。ここはどこだろう。


「ここは?」


「サイザールの宿だ」


 ああ、ダンジョンから戻ってこれたのか。体を起こして周りを見てみると確かに見覚えのある、一ヶ月泊まると言った離れの建物の内装だった。


「私はどれぐらい寝ていた?」


「2日ほどだ」


 2日!また2日も寝てしまっていたのか!


「そう、あれからどうなったの?」


「その前に常闇の君とはなんだ?」


 あれ?なんだかジュウロウザが怒っていらっしゃる?常闇の君が何だと問われても····神としか答えられない。



「常闇の君の何が気になったの?」


 元々ゲームでも『封じられた神の影』としか説明がなかったので、詳しくと言われても、私は答えを持ち合わせてはいない。


「モナと親しげにしていたから」


「ん?親しい?え?どの辺りが?はっきり言って、私と常闇の君とはあのダンジョンで初めてあったから、親しいと言われても困るのだけど?」


 いや、本当にどの辺りが親しいと思わせる要素があったのか。


「あのいるだけで畏怖をしてしまう存在は普通じゃない。その人物はモナを助けに来たのだろう?そして、傷を治して去って行った」


 え?私を助けに?えー。多分違うと思う。お礼を言いたかっただけじゃないかな。

 でもこれを説明するには異世界云々とか転生云々とかの話をしないといけないよなぁ。


 うーん?とどう説明をしようかと首を捻っていると、段々とジュウロウザの機嫌が悪くなってきた。

 えー!何で?


「えっと、私が夢の話をしたのを覚えているかな?」


 ジュウロウザは私の問に頷いてくれてはいるものの、それが今何の関係があるのかと言わんばかりの表情だ。


「何が関係するのかって思うかもしれないけど、常闇の君の事を説明するには、私じゃない私が関係することなの」


「モナじゃないモナ?それは今のモナの目が金色になっていることが関係するのか?」


 え?金色!目が金色?!

 私は思っても見ないことを言われ、洗面所にある鏡を確認しようとして、ベッドからずり落ちそうになり、ジュウロウザに抱えられる。


 そして、抱えられたままジュウロウザにベッドに戻され、ベッド脇にあった手鏡を渡された。


 こ、これはエルドラードじゃないか!いや、多少は違うが似ている。色合いが同じというだけではなく、兄妹かといわんばかりに似ている。

 いやー。こんな事実は知りたくなかった!


「金色。本当に金色だ。すごく嫌だ」


「綺麗な色だと、俺は思う。モナによく似合っている」


 ジュウロウザはそう言って私の頬を支え上に向かせた。あ、この距離間、すごく安心する。本当に一人でダンジョン内を歩くのはもう勘弁だ。ノアールがいて助かったのは助かったけど、やっぱりジュウロウザの側が良い。

 ジュウロウザの言葉に私はニコリと微笑む。ジュウロウザがいいと言うならいいか。私が鏡を見なければいいことだ。


 私は話の続きを話しだす。私とエルドラードの邂逅。創造主ルギア神と女神クレア神。そして、主神エルドラードの愚策・・


「世界はこの宇宙にたくさん存在するの。その中の一つに私は別の人物として生きていた。だけど、事故で死んだ時にこちらの世界の神であるエルドラードに、この世界に私の魂を連れて来られた。そこで、一人の人物になって欲しいと言われたの」


「それがモナなのか?」


「そう、モナ・マーテル。彼女は創造主の妻である女神の欠片だった。創造主は闇に支配され世界を壊し始めたと書にはあったけど、恐らく闇を取り込んだ夫である創造主を主神エルドラードに言われて封じたのだと思う。そして、彼女は傷ついた世界を修復するために殆どが世界の一部になった」


 あの『世界の書』はあまりにも不自然だった。恐らく真実ではなく、エルドラードの都合のいいように書かれていたのだと思う。そして、エルフ族の事が全く書物の中に見られなかったということは、存在そのものを排除したかったのだろう。全ての書物から排除するぐらいに。ただ、古代遺跡のことのみが残されていた。


「残った欠片の彼女は封印された創造主の居場所を探そうとしたけれど、人の身となり幼児ステータスの彼女では外の世界は脅威でしかなかった。だから、彼女には守護者が与えれ、安全な居場所を与えられた」


 エルドラードは安息の地と言っていたけれどね。


「彼女は転生を繰り返す度に、その守護者も転生を繰り返す。そして、モナとして転生した時点で転生の歪が出てきてしまったみたい」


「それが、あのリアンの姿だったと?」


「そうなんだけどね。それは、私がリアンを追い詰めてしまっただけで、それまではリアンはモナに嫉妬心を抱かせ、モナが攻撃をみせたところで、正当防衛と言わんばかりに彼女の心臓に剣を突き刺していたみたい。それが、世界の一部になった彼女に共鳴して世界の崩壊に繋がっていった。そして、時間を巻き戻すと言うことを繰り返していたのだって」


「嫉妬心?」


 え?そこ気になるの?


「それで、「嫉妬心ってどういうことだ」····」


 スルーしてよ。私には全く理解できない心情だから。何で、リアンに恋心を抱くのかさっぱりもってわからない。


「はぁ。幼い頃から共に居て、モナに何かあれば心配するように声をかければ、恋心を抱くのでしょうね」


「それはモナも同じなのか?」


 ジュウロウザは何を言っているんだ?怪訝な視線を向けるが、ジュウロウザは真剣に私に聞いてきてるようだ。


「私のリアンに対する態度を見ておいて、その言葉が何故出てくるの?」


「あ、ああ。そうだったな」


「はぁ。私はリアンの異常性に気がついていたよ。大人の精神が子供の中に入っていたのだから、こいつワザとだなってぐらいは知っていたから、好きになるはずもないのに、エルドラードは私がリアンを好きにならないようにって恋心ってモノを封じるしね。本当に巫山戯るなって言ってぶん殴りたい」


「恋心を封じる?」


 あ、そこも拾わなくていい。私がエルドラードをぶん殴りたいだけだから。


「モナは俺のことは好きか?」


 あれ?私、好きだって言わなかった?聞こえていなかったのかなぁ。


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