第61話 行動することに意味がある
悲鳴を上げたメリーローズの姿が歪んだ。そして、『ぼふっ』っと怪しい煙が吹き出てきたと思ったら、中から大人の妖艶な女性が出てきた。
長い黒髪にゴスロリの格好をした大人の女性が現れたのだ。
「折角ステータスを劣化させて子供の姿になっておったのに!何を飲ませたのじゃ!」
ゴスロリの女性の喋り方はロリババアの話し方なので、ロリババアで間違いないようだ。そして、メリーローズ曰く幼女の姿を取るためにステータスを弱体化させていたらしい。
今、視てみるとロリババアのステータスの10倍はあった。MPは今まで見た中でダントツで120万だった。
ちょっと待て!いままでMP1万だったじゃないか。それが120万!幼女の姿を取るのにそれだけMPを消費していたということか!なんてもったいない使い方を!
「何を飲ませたのじゃ!」
私が答えないのでメリーローズが詰め寄ってきた。
「冬の女神の神殿の水です」
全てのステータスを回復させる。神殿の泉の水。
「なんじゃと!」
それよりもMP1200000もあるのなら
「メリーローズ。今の結界を
「何故に、妾が創り出した魔術を知っておるのじゃ!」
そう、これは聖域と結界を合わせたものでメリーローズの固有魔術だ。常時回復、状態異常の無効、一番強固な天地結界が常時展開されるものだ。
ここで重要なのは私がなぜ知っているかではなく、メリーローズに結界を張ってもらうことが先決なのだ。
回復役のルナは何が起こっているのか理解が追いつかないようで、呆然としているので役に立ちそうにない。神域が形成されるまで、回復役は必要だ。
「メリーローズ。四の五の言わずにさっさと結界を張り直す!ここを生きて戻れるかはルアンダとシュリーヌにかかっているんだからね!」
私が強く言うと、なぜだか怯えたように身を引かれ『わ、わかったのじゃ』と、いって結界を張り直してくれた。何故に300年生きた魔女に怯えられなければならないんだ!
メリーローズの行動に首を捻っていると、シンセイがノアールを手に抱えてやってきた。ああ、結界が強固な天地結界に変わったので、持ち場を離れられたのか。
「姫、ノアールを側に置いてくだされ」
そう言ってシンセイはノアールを私の足元に置いた。ノアールは元の小さな姿に戻っていたけど、『ぷぷぅー』という鳴き声と共に姿を変化させ、大型犬ほどの大きさになった。これは私の幼児ステータス対策ですか?
私、体力は凄く増えたよ!幼児ステータスから脱却していないけど·····。
「それから、姫よ。これも姫の作戦の内かもしれませぬが、将は人からの好意に慣れておりませぬ故、今度から気をつけてくだされ」
·····何故かシンセイから注意をされてしまった。何が駄目だった?
「ん?私の作戦の何がダメだった?もう直ぐ神域が完成しそうだから、全力で魔人?悪魔?あのよくわからないモノになったリアンに攻撃してほしいのだけど?」
首を傾げながら、シンセイに問いかけると、大いにため息を吐かれた。
「まぁ、老兵が口を出すことでは無かったですなぁ」
そう言ってシンセイは背を向けて結界の外に出ていった。だから、何が駄目だったか言ってよ!言ってくれないとわからないじゃない!
私がもやもやと考え事をしていると、いよいよ神域が完成する段階になってきた。キラキラと大気中にエフェクトがきらめき出す。清らかな空気の質感に変わって来た。
今まで魔術攻撃で距離をとって攻撃していたリアンが魔術攻撃と直接攻撃の併用に転じてきた。
それをジュウロウザとシンセイが攻撃を受け止め弾き返す。が、やはり人外のモノとなると些か対応しきれない部分が出てきており、一部の攻撃がメリーローズの結界に当たる。一番上限の結界だ。
勿論弾き返していると言いたいが、攻撃が当たるたびに結界が軋んでいる。
この結界を軋ますなんて、一体どんな攻撃だ!ジュウロウザとシンセイは大丈夫だろうか。
二人の状態を確認したいが、私もしなければならないことがある。
「ルナ!貴女いつまでぼーっとしているの!手が空いているなら結界の外の二人を回復しなさい」
リアンからの途轍もない攻撃にルナは身をすくめ地面に伏してしまっている。生きたいのなら立ち上がりなさい!ここでうずくまっていても何もならない!
ここまで、ルナのわがままで皆を振り回したのに、ルナが動かなくてどうするの!
「ルナ!立ちなさい!立って貴女のできることをしなさい!」
「うるさいわね!私の回復なんてほとんど成功しないのだからいいじゃない!」
リアンにもそう言って戦闘行為から外してもらっていたのだろう。成功しないからやらないのじゃなくて、失敗してもいいからするの!行動することに意味があるのだから!
腹が立つ。
「いいから、回復の魔術を使いなさい」
あっ。あまりにも腹が立ったから、思いっきり低い声が出てしまった。
「ひっ!やるわよ!やればいいんでしょ!」
ルナにも怯えられてしまった。いや、今回はあまりにも腹がたったから仕方がないよね。
ルナは立ち上がって、回復の魔術を使いだした。まぁ、案の定失敗しているけど。
そして、空間全体に鈴のような音が鳴り響いた。ルアンダとシュリーヌの術が完成する。
私は願う。この場に存在する全ての悪しき魔を払うように。
「「
「魔祓い!」
ルアンダとシュリーヌの呪言の後に私は魔祓いのスキルを使う。神域に沿うように。神域の全てを満たすように。
うっ。頭がくらりとする。
流石に範囲が広すぎるのか、私のスタミナが減っていっている。
しかし、これでいい。
神域が発動した瞬間、逃げる素振りをみせたリアンにメリーローズが茨の蔦を巻き付けた。その黒い靄が吹き出しているリアンにジュウロウザとシンセイが攻撃をする。
「獄炎の狂宴」
「砕迅裂破」
爆炎が、風の刃の嵐がリアンに襲いかかる。二人の攻撃が爆散し、衝撃波がメリーローズの結界を軋ませる。
メリーローズも結界の維持に力を割いていているのか、肩で息をしだした。
くっ。やはり、神域は長くは持たないようだ。いや、二人の攻撃の所為かキラキラエフェクトが減少してきている。心なしか漂う空気も焦げ臭い。
本当なら神域は下位神にこの下界に降臨を願い、魔物の駆逐をしてもらう二人の合せ技なのだけど、今回は神の降臨は行わずに魔人の弱体化をし、そのまま攻撃をするという作戦だった。
神の居ない神域は維持をする必要はないということなのだろう。私が思っていたとおり、ほんの僅かな刻しか神域は出現しなかった。
今はもう普通の状態に戻ってしまった。神域を作り上げるのに、これだけ時間がかかって、一瞬にして崩れ去ってしまった。
これでリアンが再起不能となっていなければ、どうする?打つ手がない。ルアンダとシュリーヌは神域を作り上げた反動で倒れ込んで動けない状態だ。回復するのには時間がかかるだろう。
リアンがいると思われるところの煙が徐々に晴れてきた。考えろ、どう動くのが一番いい。
「限界なのじゃ。あれだけの攻撃を受ければ魔人もヤッたじゃろう?」
そう言って、メリーローズが結界を解いてしまった。そのフラグもダメー!そのセリフは大概倒しきれてないから!!
メリーローズが結界を解いた瞬間、煙の中から何かが飛び出てきた。
「モナ!シねー!!!!」
翼も無く、角も無い人の姿をした満身創痍のリアンが飛び出てきた。それも一直線に私の方に向かってきた。
「モナ!」
「姫!」
リアンに近づきすぎていたジュウロウザとシンセイは私に向かってきているリアンの動きに対応が遅れた。
はぁ。ここまでリアンに恨まれていたなんて、死んだら、絶対にエルドラードに頭突きをしてやるんだから!
でも、生きることは諦めてやらない!私は私のできることを探す。できること···できること···
迫りくるリアン。私に向けられた剣。
ジュウロウザとシンセイが私の方に向かってくる。
なんだか、時間がゆっくりになっている気がする。ああ、死に際には時の流れがゆっくりになり走馬灯を見るっていうやつか。
私は走馬灯じゃなくて、なぜだか入口の扉がぶっ飛んでいるのか見えるんだけど?
『騒がしい』
その一言でこの空間の雰囲気が激変した。重い。重苦しく。息がまともに吸えないぐらいに重苦しい空気だ。
壊れた扉から解き放たれたように飛んできた金色のモノにリアンが突き刺され、私の眼の前で横に飛んでいった。
もう少しで私の首と胴が離れているところだった。首元を触ると生温かいモノが滴っている。リアンはジュウロウザが施した星結界を壊し、私の首を斬りつけてきたのだ。
ふと視線を感じ視線を上げると
「あ。常闇の君」
黒い長い髪を床までたらし、怒ったような悲しんでいるような金色の目をした常闇の君が目の前にいた。
え?なんで封印の間から出てきているの?いや、本体じゃないから出て来られるのか?エルドラード!これ封印の意味ないでしょ!わざとなの?
常闇の君は私に手を伸ばしてきて、血の滴っている首に触れたかと思うと、私の頭を撫ぜてきた。
『感謝を。アレの魂は預かって行こう』
そう言って常闇の君は消えていった。
常闇の君が喋った!普通に正気じゃない!だから、封印の間から出られた?私に触れたってことはどう見ても影じゃなくて本体だよね。
常闇の君のおかげで助かったけど、すごく疲れた。リアンの歪んだ魂はルギア神が預かってくれるのなら安心できる。私はそのまま意識を手放す。
「モナ!」
最後に目にしたのは心配そうな顔をしたジュウロウザだった。あ、頑張ってくれてありがとうって言わないと·····
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