第60話 聖歌×神舞=?
魔に落ちた····おちた?
剣を私に目掛けて振るってくるリアンをみる。そして、手をかざしてダメ元で剣を振り下ろすリアンに使ってみる。
「この者の魔を祓い給え『魔祓い』」
魔祓いのスキルが発動したけど、直ぐに距離を取られてしまった。しかし、リアンから何やら黒いモヤのようなモノが出ている。
効いているようだ。
となると····。私は拡張収納の鞄から果実を取り出す。別にお腹がすいたわけじゃないよ。それを、隣にいるシンセイに差し出す。
「シンセイさん。これを剣士の女性にぃ!」
また、リアンから攻撃されたけど、今度は
どうやら、距離をとる攻撃に変えてきた。魔祓いを警戒しているかもしれない。
って、持っていた果実がない!
周りを見渡すとシンセイが女剣士ルアンダに黄色の果実を渡してくれていた。あれは満腹の果実というスタミナゲージをMAXにしてくれる果実なのだ。
「ルアンダさん!それを食べて、『聖歌』を歌ってください!」
私の言葉に目を丸くするルアンダ。そう、彼女は大剣を持って剣士の風貌だが、実は声に魔力を乗せる事が出来、歌を歌えば強力な呪を発動することができる。
先程言った『聖歌』を歌えば、時間はかかるが歌声が届く範囲に聖域を作り出すことができる。
ルアンダは戸惑いを見せていたが、ロリババアが何かを言ったようで、果実を食べて歌いだしてくれた。美しい旋律の独唱が室内をみたす。
「メリーローズは、ルアンダを守る結界をぉ!」
リアンからの攻撃がやまない。息を継ぐまもなく攻撃を繰り出しているリアンもリアンだが、その攻撃を全て弾き返しているジュウロウザもジュウロウザだ。
「わかったのじゃ!」
ロリババアが答えたと同時に自分とルアンダの周りに3重の結界を張り巡らせた。
次にルナを見てみると、呆然と突っ立ていた。そのままいるとまた死んじゃうし!
「ルナ!メリーローズの所に行ってルアンダの回復に専念して!」
「え?」
ルナは何が起こっているか理解できていないのだろう。
「メリーローズ!私を縛ったやつでルナをそっちに引き寄せられない?」
「任せるのじゃ!もう一度死なすのは可哀想なのじゃ」
そう言って、ロリババアは私を縛って連れ歩いた蔓の縄をルナに巻き付け、軽々と引き寄せた。弱い魔術ばかりだけど、魔力の少ないロリババアなりに工夫をしているようだ。
ああ、これで踊り子のシュリーヌがいれば完璧なのに、なんでロズワードに置いていった!いや、転移装置は5人までしか転移できないから仕方がないんだけど。
はぁ。しかし私はジュウロウザの邪魔になっているよね。
ここから、どう持って行くか、と考えていると、突然転移装置が起動した。
え?なんで?
この転移装置の上には6人乗っているので普通なら起動しないはず。どこかに転移をするのかと構えていると、私がいるところとロリババアとのちょうど中間点に誰かが転移して現れた。
「一人は怖いであります。なぜ、誰も戻ってきてくれないのでありますか?」
踊り子シュリーヌだ!なんていいタイミングだ。
「シュリーヌこちらに来るのじゃ!」
「シュリーヌ!ルアンダの歌に合わせて踊って!」
ロリババアと私が同時にシュリーヌに呼びかける。
「な!何が起こっているでありますか?」
突然のこの状況に戸惑いを見せるシュリーヌ。それはそうだろう。魔術の攻撃の嵐が吹き荒れ、自分の仲間である者達は結界の中で身を固め、肝心のリアンの姿が見えないのだ。
「いいから、こちらに来て踊るのじゃ!」
どうやら、ロリババアは私がしたいことがわかったようだ。
ロリババアに促され、シュリーヌはルアンダの歌声に合わせて踊りだす。
これが彼女たちを仲間にしたときの正しい在り方だ。
剣士ルアンダが聖歌を歌い。踊り子シュリーヌが神舞を舞う。そして、魔術師メリーローズが二人を守る結界を張る。
これにより聖域に相乗効果され、この場に清浄なる神域が出現するのだ。
ルナも何も考えなしにルルドに来たわけじゃなかったのだ。闇属性の魔物がはびこるこのルルドのダンジョンに神域を作れる人選をしてきたのだから。
しかし、ここで問題になってくるのが、火力が勇者リアンのみとなると断然足りない。だから、普通なら聖女ルナではなく、攻撃特化型の人選をすべきところだった。
だけど、ルナ自身がここに来たかったのと、転移装置で私を運ぶことになったので、踊り子シュリーヌを置いてこなければならなかったので、計画が破綻してしまったのだろう。
『リーン、リーン』
と共鳴する涼やかな音が響いてきた。これで神域が完成する。しかし、リアンもここで何が起きようとしているのか気がついたのだろう。標的を私ではなく、シュリーヌとルアンダに変えてきた。
ロリババアが結界を張っているが彼女はそこまで強固な結界は張れない。いや、MP を気にしなければできるのだが、すでにいくつかの魔術を施行しているので、今の結界が限界だろう。
「シンセイ!彼女たちに攻撃が当たらないようにして」
無理も承知の上だ。魔術攻撃を苦手とするシンセイに、魔術の嵐といっていいリアンの攻撃から彼女たちを守ることは厳しいだろう。
しかし、今の状況から打開するには神域を展開してリアンの動きを弱めなければならない。
魔の者となったリアンにとって神域は脅威となるはずだ。
「御意!」
シンセイがそう答え、戟を彼女たちの前で構え····えー!リアンの攻撃魔術が全て凍っていくんだけど?
いや、似た光景は見たことはあるシオン伯父さんの
「何で魔術が凍るの?」
思わず疑問が口からこぼれ出た。
「シンセイも努力をしたということだ」
ジュウロウザが答えてくれたけど、これは私の独り言だから、答えてくれなくても良いよ。
って言うか、リアンはいつから人をやめたのだろう。
こちらに攻撃が来なくなって、私の中で少し余裕ができたので、状況の把握をする事ができた。
リアンと思えるモノが空中に浮いているのだけど、コウモリのような翼が背中からはえ、獣のような鋭い爪がむき出している黒い足。そして、頭からはねじれた角が2本生えているのが見える。
なんだか魔人というより、悪魔と表現したほうがいいような風貌だ。
いや、リアンが魔人だろうが悪魔だろうが、この状況を打破することが先決だ。ジュウロウザとシンセイが揃って分が悪いと判断したのなら、それを
「ジュウロウザ」
私はリアンの動向に注視しているジュウロウザに話しかける。リアンがルアンダとシュリーヌに攻撃を集中させている今しか話せるときはないだろう。
「モナ、どうした?」
リアンから視線を外さずジュウロウザが答える。
「私をメリーローズの結界の中に連れて行って」
その言葉にジュウロウザは驚き、リアンから視線を外し、私を見た。
「私、ジュウロウザの邪魔をしているよね?」
「邪魔じゃない」
私の言葉を遮るようにジュウロウザが言葉を発した。しかし、私は首を横に振る。
「リアンの魂は元々英雄アドラだった者。私を気にしながら戦って勝てるような相手じゃない。それにエルドラードはその魂が歪んでしまったと言っていた」
私の言ったことに困惑しているのかジュウロウザが呻くようにアドラの名を呟く。ここで思ってもみない名が出てきたらそれは戸惑うだろう。
「今、ルアンダとシュリーヌによって神域を作り出そうとしているの。そして、私はそれに退魔のスキルを上乗せするつもり、だけど人が神域を作り出せるのはほんの僅か。そこを逃せば、あのリアンに勝てる要素がなくなってしまう。だから····」
私は最後まで言えなかった。これはかなりジュウロウザとシンセイに負担をかけることだ。神域を作り出せる時間はゲームでは3ターンだった。だから、時間制限があるのだろうが、この世界の時間に換算するとどれぐらいかはわからない。
だから、わずかな時間でリアンを倒せと言っているのだ。自分でも言っていることがめちゃくちゃだとはわかっている。わかってるが、ここから生きて戻るにはそれしかない。
はぁ、他に方法があるというなら、誰か教えて欲しい。今すぐに!
「わかった」
ジュウロウザはそう答え、リアンの攻撃の隙間を縫ってメリーローズの結界の中に私を運んでくれた。
そして、私を下に降ろしながらジュウロウザがつぶやく。
「モナ。村に帰ったら···」
何かを言いそうになったジュウロウザの口を手で塞いだ。ここで死亡フラグを立てるような事を口にするな!
「
地面に足をつけた私はジュウロウザを睨みつけて言う。危うく死亡フラグが立つところだったじゃないか!恐ろしい事を口にしないで欲しい。
「おまじないをしてあげますから、かがんで下さい」
怒り気味に言う私に身を屈めてきたジュウロウザに口づけをした。
「ジュウロウザ。好きですよ」
そう言って、ニコリと笑ってジュウロウザの肩を押し結界の外に押し出した。
ジュウロウザは耳まで赤くなって、シンセイの元に行っている。大丈夫だろうか。これも作戦の内なんだけど·····。
そう、私の作戦は順調に進んでいる。内心ガッツポーズだ。思っていた通りジュウロウザのステータスが跳ね上がった。
私は私の想いを自覚したのだ。だから守護スキルに反映されるだろうと思っていた。倍化するだろうと予想は立てていたけど、実際は3倍。ちょっとヤバイかなぁと内心冷や汗がながれているが、英雄の魔人化を相手するなら必要のはず!····はずと思う。
「若者は初ういしいのじゃ」
幼女姿のメリーローズに言われても、反応に困るのだけど。
「しかし、いつまで結界を張り続けないと駄目なのじゃ?そろそろMPが尽きそうなのじゃ」
やはり、神域の出現には時間がかかるようだ。メリーローズの方が限界となってしまったら、無防備のルアンダとシュリーヌを守れなくなってしまう。
それは困ると、私は神水をメリーローズに差し出す。確保した数も少なくなってしまったけど、ここで使わないと駄目な気がする。
「何じゃ?」
「回復するモノです」
「おお、回復薬か。ありがたいのじゃ」
いや、私は薬とは言っていない。薬ではここまでの回復力は再現できないとばぁちゃんから言われたので、決して薬ではない。
メリーローズは
「うきゃー」
そのメリーローズから悲鳴が上がり、ワナワナと震えだした。え?毒は入っていないはずなのに?何が、どうしたの?
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補足
モナさん、おまじないと言いつつ、しれっと告白してはいけませんよ。
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